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花冠

第二章三十二 「愛しい人」


「まっ、可愛い。黄色い蝶々たち・・」


伊勢が、花を摘んでいると綺麗な蝶が飛んでくる。

蝶は、ふわふわと近寄って、スーッと羽を広げ、手に持つ花に止まる。


「ふふぅ。この花で(かんむり)を造ったのよ。これを・・こうやって頭に乗せると・・ねっ。綺麗でしょ」


蝶に話しかけるも、蝶たちは、ふわふわと何処かへ飛んでいってしまう。



そこへ誰かが名前を呼んでいるのが聞こえてくる。

「伊勢〜!!」


振り向くと、たてがみを風になびかせながら駆けてくる馬がみえる。

陽に照らされ風になびく黄金色のたてがみ・・・あれは(せん)?


これは、きっと幻だわ・・・

謙信様は、もうこの世にいないのに・・



馬は、愛しい人を乗せて目の前で止まる。

「うそっ・・」


謙信は、伊勢に走り寄り、力強く抱きしめる

「伊勢、会いたかった」


抱きしめられながらも目をパチクリし、いまだ信じられないように、立ち尽くしている。



伊勢は顔を見上げ、両手で謙信の頬を触る。

「本当に・・謙信様?」



微笑む謙信の顔が、伊勢の唇に熱を与える。

くちづけは、可愛い唇を奪い、驚きの表情の伊勢の瞳はそっと閉じられる。

息をするのを忘れるくらい、長く激しいくちづけの後、さらに強く伊勢を抱きしめる。


「・・もう、離さない! お前をこの手に抱けるなら、俺は運命を信じてこの先も生きていく」


花冠の伊勢は、(とき)を超え、初めて会った時のように美しく、生身の温かさが抱き寄せる体温として伝わり、この上なく愛おしさを感じる。

今生では、天室光育和尚の言う通り、伊勢と二人、夫婦となり一生を添い遂げたい。


「・・伊勢・・愛している」


嬉し涙に頬を濡らす伊勢が、子供のように泣きじゃくっている。

「・・生きて帰って来てくれたんですね。ご無事でよかった。本当に・・よかった」



抱き合う二人は、未来を信じ、幸せの絶頂にいた。




そばには・・ひらひらと一羽の蝶が舞っている。





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