卒業
第二章二十六 「さよなら」
ほたるの光♪ まどの雪♫
書よむつき日♪ かさねつつ♪
いつしか年も すぎのとを
あけてぞけさは わかれゆく〜♪
「伊勢・・・今日を最後にもうこの学校で会うことが出来なくなるなんて! 寂しいよ〜」
卒業式の日、幸がハンカチを手に伊勢に抱きついて来る。
「幸・・私だって寂しいよ」
二人は抱きしめ合って泣き合う。
卒業の日を迎え、二人はそれぞれの未来に向かって羽ばたこうとしている。
「伊勢、あんた来週にはサンフランシスコに行っちゃうんだよね」
「そうなの。でも帰って来たら、すぐに会おうね。いっぱいお土産も買って来るから。幸も新聞社のお仕事すぐに始まるんでしょ?」
「そうなの。すごく忙しくて、猫の手も借りたいんだって。帰って来たら伊勢もびっくりするような立派な職業婦人になってるわよ。そして・・伊勢と信玄様が予定している盛大な結婚式までには私も素敵な殿方を探さないとね」
「幸なら、すぐに見つかるよ。私・・毎日手紙を書くね」
「伊勢は自分の目でしっかりとアメリカを見て来るんだよ。そして、私に記事の提供をしてね。題名は日本女性が見たアメリカ社会・・なんてどう?」
「いいわね、わかったわ。私・・しっかりと見て来るわね」
「伊勢・・信玄様にいっぱい甘えていいんだからね。可愛がってもらうんだよ」
「もう、幸ったら・・私だって、信玄様のお供として行くだけじゃなくて、通訳の仕事を請け負っての参加になってるんだから、一応職業婦人なんだからね」
「そっか・・そうだったね。私たちは誰もが羨む職業婦人になるんだったわね。伊勢、お互いに頑張ろうね」
「幸、負けないわよ」
伊勢は、日本のシルク貿易を輸出する為に結成された貿易商の一員として信玄と共にサンフランシスコへと旅立つ。
謙信は、絶の兄である近衛公爵に呼ばれていた。
「絶がもう一度歩けるようになるかもしれない。絶に手術をしてくれる医者を紹介してくれるとアメリカから来た大使が申し出てくれた。その話を絶に話したのだが、絶が拒絶している。謙信から絶を説得してくれないか」
「絶がもう一度歩けるようになるのか?」
謙信は、耳を疑った。
「ああ、新大使は医者の資格を持っていて医療に詳しい。絶の状態を聞いて友人がその専門なのでわさわざ日本からアメリカまで絶に関する全ての医療記録を送って見解を聞いてくれた。同じ症状の患者を何人も見たことがあるらしく、絶がアメリカに来るならば手術をしてくれるというのだ」
なぜ、絶が拒絶しているのか二人にはわかっていた。
絶は歩けるようになるよりも謙信を失うことの方が怖かったのだ。
「このチャンスを逃すともう治る見込みはなくなってしまう。何としても絶を説得してほしい」
謙信はいつものように絶を散歩に連れ出す。
外の空気は新鮮で桜の花が陽を浴びて燦々と輝いている。
「絶、近衛公爵から話は聞いた。アメリカに渡って手術を受ければ、お前の足は治る。一緒にアメリカに行こう」
「私の足が治ったら謙信様は私を見捨てるおつもりなのでしょう。謙信様を失うくらいなら、私はこのまま生きていきます」
幼子のように拗ねる絶に謙信は優しく語りかける。
「絶、いつの世もすべてはうつり変わる、諸行無常の世界だ。今は平和な世の中だが、ひとたび戦が始まると俺は戦に行くことになるかもしれない。お前のそばにいたいと思っても、そう出来ない状況になった時、お前は自分の足で立つ事を拒んだこの瞬間を悔やむだろう。選択を間違えてはいけない」
「謙信様が、私を見捨てたりしないと約束してくれるのなら・・・」
小さな声で答える。
「絶、お前が望むなら・・約束しよう」




