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優しい人

第二章二十四 「未来」


(とき)だけが、悲しみを飲み込むように季節は流れ・・・

寒い冬の雪解けと共に・・桜の季節がやって来た。


卒業の季節・・・。


伊勢の通う女学校では、卒業する生徒たちが次々と嫁ぎ先を決めていく。

この時代、女学校は良家の娘たちが花嫁修行として通う意味合いが強く、卒業と同時に親が決めた相手か、お見合い相手と結婚することが普通のことであった。



伊勢と幸は、いつものように校庭の木陰で休んでいた。


「伊勢・・聞いた? あのふえさんが、結婚するんですって。それも相手はかなり年上の帝国陸軍大尉らしいわよ」


「・・ふえさんが、結婚? 」


「そりゃ、謙信様をいつまで思っていても、絶さんがいるんだもの・・ふえさんだって、諦めるしかないわよ」


「・・そうね」


伊勢は、久しぶりに謙信の名を聞き、心がざわめく。

ずっと意識的に、謙信を避けて来た。



「伊勢は、いいわよね。信玄様という素敵な方がいて・・」


「私は、信玄様とお付き合いしてるけど・・まだ・・その先は決めてないの」


「あーあ、伊勢。いい・・信玄様は伊勢のこと真剣に思ってるからこそ、それ以上無理に進めずに待っていてくれてるんだよ。もの凄〜く、素敵で大人で、モテまくりのあの信玄様が、多くの誘いを断って、あんたとフルーツパフェデートだよ。まわりからみても可哀想なくらいだよ。まったく・・伊勢のような、ねんねのどこに惹かれるんだか。何にもわかってないんだから伊勢は・・・」



幸の言う通りだ。私は、まだ信玄様と真剣に向き合えていない。

今だって・・謙信様の名前を聞いただけで・・心が震えてしまう。



幸が、ため息をつきながら話し出す。

「あのさ、伊勢・・私ね、結婚しないで職業婦人になろうと思うの」


「えっ? 幸が? あんなにお嫁さんになりたがってたのに?」


「まぁね。でも、みんな、親が進める縁談で結婚して行くのを見て、なんか・・・冷めちゃったのよ。うちの親は、私が末っ子だから、結婚しろとかうるさくないし・・。やっぱりさ・・好きな人が出来たら、その人と結婚したいな〜って思ったの」


「そうか・・幸。そうだよね。やっぱり好きな人と結婚したいよね。でも、幸が職業婦人になるのか・・」


「兄の親友が新聞社にいてね。見習いで働かせてくれるって・・・」


「そうなの、幸。すごいわ」


「伊勢も、ちゃんと信玄様の事、見てあげなきゃ信玄様があまりにも可哀想だよ」


「・・そうよね。わかってる。・・・わかってはいるの」


「まっ・・そのままでよいと言ったのは信玄様だから、仕方ないか。伊勢は、伊勢らしくでいいよ」

笑顔で伊勢を慰める。幸は、伊勢の気持ちがまだ謙信にあることを感じている。


「さっ・・次は、英語の時間よ。伊勢の大好きな授業でしょ。行くわよ」





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