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責任

第二章十九 「絶望」


絶は、病院に運ばれると同時に手術室に運ばれる。


「絶・・しっかりしろ」


腰を強打した上に落ちて着た(やぐら)の柱木に足を打ち付けられていた。

謙信が絶を押し倒さなければ柱木は絶の頭上に落ちて来て、おそらく即死だっただろう。


「足は骨折していますね。その他の負傷については手術で対応します。最善は尽くしますが、万が一の事もありますので心の準備だけはしておいてください」


慌ただしく動き出す医師と看護婦に絶の兄である近衛公爵がオロオロとしている。

二人は、絶が手術室に運ばれるのを見つめ、廊下で長い時間を過ごすこととなる。






夏まつりが行われている神社では、人々がそれぞれの無事を確認していた。

「それにしても、急な竜巻だったね」

「この(やぐら)のある広場を狙ったかのような竜巻だったな」


一瞬の出来事で人々は驚いていたが、平静を取り戻し、再びお祭りのための櫓が建てられようとしていた。




何も知らずに金魚すくいをしている伊勢。

政宗は、伊勢や紅華たちの姿を見つけたが、そのまま合流する気にはなれず、背を向け今来た道を引き返して行く。


あんな笑顔で楽しんでいるのに・・・不幸な出来事を伊勢に伝えられるわけがないだろう。

伊勢に話したところで、あいつは何も出来ない。ただ悲しみに伏せるだけだ。


謙信。悪いがお前の伝言を伝えるのは、明日だ。

俺も今日は伊勢には会わない。お前の伝言をすぐに伊勢に伝えないことへの代償だ。

畜生・・まったくなんて野郎なんだお前は・・。






「きゃー。(すく)えたわ。見て! 伊勢より私の方が上手よ」


「紅華さん。このお(わん)に金魚をいれるんですよ」

紅華におわんを差し出す権太。

無邪気に金魚すくいを楽しむ紅華と伊勢。


「金魚もこんなにすくえたし、伊勢・・そろそろ(やぐら)の方へ行きましょう。もうすぐ踊りが始まるわ」


「そうね」



(やぐら)のある広場へ行くと、つい先ほど通り過ぎた時とどこか様子が違うのに気づく。

櫓はすでに組み立てられていたはずなのに、なぜか再び組み直している。


「何かあったのかしら」


「あんた、今来たのかい。さっきここで竜巻が起こってね。(やぐら)が空まで上がったのさ。かなりひどい怪我をした人もいたんだよ。でも、まっ・・竜巻だから、通り過ぎたら何事もなかったかのような天気に戻ったのさ。お祭りの踊りは少し遅い始まりになるらしいけど、心配しなくても踊れるよ」


心配顔の伊勢に町の人が答える。


「あの・・その怪我をした人というのは・・・」


「ああ・・見た感じ若い娘だったよ。無謀にも竜巻の中を走り出して、助けようとした若者が彼女を押し倒したのさ。善意でしたことなのにね、それで怪我しちゃうんだから・・・あの若者もいい災難だよね」



謙信も政宗もまだ到着していない。なぜか不安な気持ちになる。

紅華も同じことを考えていた。


「まさか、政宗様がまだ来ていないのは、この事故に巻き込まれたからではないわよね」

「大丈夫だと思うけど・・」


心細げに答えるしか出来ない伊勢。

本当は、自分も不安で泣きたい気持ちだった。


「もう少し待ってみて、政宗が顔を見せなかったら政宗の家にみんなで押しかけてやろう。あいつのことだから、仕事で遅くなって疲れて寝てる・・なんてこともありうるからな・・・ハハハ」


「政宗に限って、大丈夫だよ」

進之介と権太がその場を取り繕う。



櫓が組まれ、踊りが始まった。


不安な気持ちで踊ることもできずにただ立ち尽くす伊勢と紅華。

時刻はすでに9時を過ぎていた。


「もう・・こんなしけた顔してお祭りにいても、らちがあかない。今から政宗の家に押しかけるぞ」

進之介の声が響く。


「そうね。その方がいいわ。待ち合わせの時間から3時間も経ってるんですもの・・家に押しかけて確認した方がいいわね」

紅華も賛同する。


伊勢は、不安な心の沈め方がわからずにいた。

顔では、冷静を装っていたものの、心の中は深く暗い闇に入り込んだような・・霧が立ち込んだような心持ちだった。


今は政宗の家に行って真相を聞くことしか手立てはない。ここで待っていても、謙信も政宗も現れそうにない。

泣きたくなる心を必死にこらえて政宗の屋敷へと向かう。





トン・トン・トン・・・


「おーい、政宗。政宗はいるか」


進之介が大声で政宗の玄関を叩く。



あいつら・・・ここに押しかけて来たのか。

ドアを開けた政宗は


「悪かった。どうしても仕事が片付かずにお祭りへ行くことが出来なかった」


「よかった。政宗様。私たちとても心配したんですよ」

紅華は政宗の無事を心から喜びホッとしていた。


「竜巻が起こって、怪我人が出たとかで、皆が騒いていた。政宗の身に何か起こったのではと心配してここまで来たんだぞ」

進之介が笑いながら政宗に事の次第を説明する。


「そうだったのか・・まぁ、せっかく来たんだから、酒でもどうだ。おっと、紅華と伊勢には、甘酒でも用意させるか・・ハハハ」


「たまにはいいな。心配させたお礼に美味しい酒を頼むぞ」




政宗の屋敷で、急遽、宴会が開かれることになる。


みんなが酒を楽しみ盛り上がって来た時、政宗はそっと伊勢を廊下に呼び出す。


「・・伊勢。これから俺のいうことはお前にとって楽しいことではない。それでも伝えてくれと謙信に頼まれた以上、俺はお前に伝えなければならない。いいか、伊勢。今日の竜巻で起こった事故のことは、すでに聞いていると思う。その事故にあった娘というのは絶だ。近衛公爵と二人でお祭りに来ていたが、偶然、一人で歩いていた謙信を見つけ、絶は・・竜巻の中を走り出したのだ。謙信は竜巻から助けるために絶を押し倒した。俺が謙信でも同じことをしただろう。押し倒さなければ絶は、おそらく死んでいた。謙信は絶の命を助けたが、運悪く大怪我をさせた。俺はたまたま通りかかり、すべてを見ていた。謙信は・・・お前に会うことが出来なくなった事を伝えてくれと言って絶を病院へ運んで行った。だがな・・俺は、楽しんでいるお前にこんな酷な事を告げることが出来ずに引き返してきたんだ」



「そんな・・・あの竜巻きで怪我をしたのが絶さんだったなんて・・・」

「・・・・謙信様はご無事だったのでしようか?」


「謙信はかすり傷だ・・・だが、絶は意識を失って・・」



「・・・」

言葉をなくす伊勢


「伊勢。絶はきっと大丈夫だ。お前は、大丈夫か」


「・・・はぃ」

小声で返事をするのが、精一杯の伊勢の瞳から大粒の涙が溢れ出し、政宗に悲しい微笑を見せる。


なんと悲しい目をして笑うのだ・・伊勢。


「お前は家に帰ってゆっくり休め。俺が謙信を訪ね状況を確認してきてやる。なっ・・心配するな」


コクンと頷く伊勢の頭を優しく撫でることしかできない政宗。



「おーい。みんな、今日はこれでお開きだぞ」


伊勢は、権太・直胤に連れられて政宗の屋敷を出る。






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