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絡んだ糸

第二章十一 「約束」


謙信は伊勢を連れ、上杉の屋敷へ戻った。




「おかえりなさいませ。謙信様」


「伊勢を送る途中、ここに寄ったのだが、影家・・お前にどうしても話しておかなければならないことがある」


「何かごさいましたか?」


「影家、知っての通り伊勢は我が上杉とは敵対する家柄の娘だ」


「存じ上げております」


「だが、今ここに伊勢がいる。どうしてかわかるか」


「はい。謙信様が伊勢様との交際を望まれているから・・でよろしかったでしょうか」


「そうだ、影家。俺は伊勢と一緒になりたいと思っている」


「そうでしたか」


「影家は賛成か?」


「私などにお聞きになられても・・」


「影家の率直な意見を聞かせてほしい」


「そうですね。先祖代々に渡って家同士が争っているのですから、一緒になられてもお二人が幸せになれるか疑問です。家同士の憎しみ合いが、いつかお二人の心にも深い傷となり、悲しみだけが残るのでは・・」


「そうか・・。影家は先祖代々、我が家に忠誠を誓い、上杉の家を支えてくれている。自分のことよりいつだって一番に上杉の事を考えての行動に頭が下がる思いだ」


「謙信様・・胸に刺さるお言葉。ありがとうございます」


「影家、頼みたいことがある。影家の言った通り、先祖代々の争いが今もこうして二人の障害になっている。すべては行き違いが原因だ。愛するものを思い、それゆえに取った行動だったが、それぞれの思いが伝わらず因果(カルマ)となってしまった。からんだ糸のような今の状況を元に戻すことは並大抵の努力では無理だろう。それほど誰もが心を閉ざしてしまっている。これから、伊勢の父上に手紙を書こうと思っている。毎日書くつもりだ。誤解を少しでも解いて行くには今はそれしか方法が見つからない。その手紙を影家が届けてはくれないか」


「謙信様のお望みならば・・・」


「影家でなければ絡んだ糸をほぐすことが出来ないのだ」


「謙信様は、それほどまでに伊勢様のことを思ってらっしゃるのですね」


「そうだ、影家。俺と伊勢に協力してはくれないか」

謙信が影家に頭を下げる。


「影家さん、お願いします」

横にいた伊勢も慌てて頭を下げる。



「どうか、頭を上げてください。お二人の気持ちはわかりました。影家、お二人のためにできる限りのことをいたします」



「ありがとう。影家」







二人は影持の用意した馬車に乗り伊勢の自宅へと向かう。

影持は微笑みながら乗り込む謙信に話しかける。


「良かったですね。謙信様」


影持(かげもち)影家(かげいえ)が協力してくれると言ってくれ、本当に良かったと思っている。影持もこれまで通り協力してくれるな」


「勿論です」






馬車が動き出し、伊勢が不思議そうな顔で謙信に話しかける。


「謙信様。私にはまだわからないことばかりなのですが・・」


「伊勢。影家が協力することで、きっとこじれた糸は元に戻るだろう。だから・・・それまで待っていてくれるか」


「・・はい」


頬を染めて頷く、無垢な伊勢の瞳が謙信には眩しかった。





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