横恋慕
第二章九 「欲望」
「えいっ、やー」
キーン・カチーン・・
剣がぶつかり合う。
「直胤、まだまだだな」
「政宗様、もう一本お願いします。もう少しで勝てそうでした」
「確かにお前の腕も上がった。だが・・まだまだだ」
「そんなことありません。ぜひ、もう一度勝負してください」
「直胤。それほど言うのなら勝負してやろう。ただし、勝負は一週間後。三本勝負だ。一本でも俺に勝ったらお前の勝ちだ」
「わかりました。絶対勝ってみせます」
「おぅと・・この勝負に勝ったら一つだけ希望を叶えるというのが条件付きだが、よいか」
「はい、僕が勝ったら、政宗様が手にしている、その自慢の剣をいただきたいです」
「おまえな・・これは我が家に代々伝わる剣だぞ」
「勝ってみせます」
「わかった。では、俺が勝ったらお前の姉・伊勢との交際を応援しろ」
「姉上との交際・・・?」
「そうだ。伊勢を狙う敵はたくさんいるようだ。お前は俺の味方をしろ。それが勝負の条件だ」
「政宗様は、姉上のことが好きだったのですか?」
「伊勢はお転婆だが、元気があって良い。まっすぐで思ったことを隠すこともできない。すぐに顔に出る。見ていて飽きないのだ」
「政宗様は、とてもモテるのですから、何も落ちこぼれの姉上を選ばなくても・・それに政宗様は遊び人ですから、姉上が幸せになれないのでは・・・」
「安心しろ。伊勢との交際が認められたら他の女には目もくれないと約束する」
「姉上は政宗様のその真剣な気持ちを知っているのですか」
「ばか。知るわけないだろう。だから、お前に応援しろと言ってるのだ」
「わかりました。・・・もし負けたら・・応援します」
一週間後・・・
「政宗様・・・もう少し手加減してくれても良いではないですか」
「直胤、勝負は決まったな。約束の件も頼んだぞ」
「わかりました。男に二言はありません。政宗様と姉上を応援します」
「じゃ、まずは伊勢を次の舞踊会に誘いたい」
「わかりました。父上に頼んでみます。父も政宗様ならば、姉上とのこと喜ぶと思います。ただし、姉上を泣かせないでくださいよ」
「心配するな。よし。頼んだぞ。伊勢には俺が選んだドレスを送るのでそのように伝えておいてくれ」
直胤 (なおたね)は、父・信由と話をしている。
「父上、相談があります。父上は仕事で政宗様とはよくお会いになるのですよね」
「そうだ」
「僕は、政宗様と同じ道場に通っています。政宗様はとても良い人です」
「そうだな」
「政宗様が姉上のことを好いているそうです」
「・・・なんだと。政宗どのは女にモテる遊び人だと噂で聞いたが」
「姉上とのことは、真剣だと政宗様から直接聞いています。姉上との交際を許してもらえば、他の女には目もくれないと言っていました」
「・・・」
「父上は、姉上と政宗様との交際・・反対ですか」
「政宗どのは率直で仕事もできる。伊勢を大切にしてくれるのならば問題はない」
「では、次の舞踊会に姉上と政宗様とが一緒に行けるようにお膳立てしてくれませんか」
「わかった。伊勢には私から申し付けよう」
「ふく・・もうすぐ謙信様が来てくれるから、お父様が出かけないように見ててね」
「旦那様は今日はどこにも出かける予定などないですよ。先ほども直胤さまと仲良くお話ししていましたよ」
トン・トン・・
ドアをノックする音がする
「あっ・・謙信様が来てくれたわ」
伊勢は走ってドアを開ける。
「・・・謙信様。父は書斎にいるわ。私が案内します」
伊勢は書斎の父に話しかける。
トン・トン・・
「お父様、お話があります。お父様に会ってほしい方がいるの」
「ああ・伊勢。入りなさい。私もお前に話があるので、丁度良い」
伊勢は謙信を父・信由に紹介する。
「お父様・・・謙信様よ」
「今日は伊勢さんとの交際を許してもらいたいと思いお伺いしました」
「・・・上杉・・上杉のものではないか」
「はい。上杉家・嫡男の謙信です。家同士のことは聞いております。しかし、時代は変わりました」
「ふむ・・確かにそうだが・・・。伊勢・・お前の話とは謙信殿を私に紹介すると言うことだったのか?」
「はい。お父様」
(伊勢はこの男を好いているというのか)
バタン!!
ドアが開き・・・祖父・伝右衛門が入って来る。
「お前は・・・上杉の家のものだな」
「謙信と言います」
「家に入るのを見たので、追いかけてきたのだが・・やはり上杉のものか。何しにきたのだ」
「伊勢さんとの交際を許してもらうため、ご挨拶にまいりました」
「なんだと・・・伊勢と交際だと」
「おじいさま。謙信様に失礼よ」
「伊勢・・お前はこの男に騙されているのだ。上杉のものなど信用できん。わしは絶対に許さん」
「おじいさま・・・ひどいわ」
「謙信殿・・・父・伝右衛門のいう意味はわかりますな。我が家と上杉とは先祖代々の因縁があり、我が家は上杉との関わりを避けてきました。これからも、関わりを持つことはないでしょう。また・・伊勢には、政宗殿から正式な交際の申し込みがきております。伊勢は、政宗様とお付き合いさせることとなっておりますので、ご理解いただけますな」
「お父様・・・私はそんな話、聞いていないわ」
「伊勢・・お前の意見など聞いておらん」
「謙信殿、申し訳ないがお引き取り願えるかな」
「今日のところは帰ります。でも、伊勢さんとの交際を諦めたわけではありません。確かに昔のことは知っています。あれは因縁ではなく、事件後・・悲しみのあまり誤解をとく努力を怠ってしまった事にあるのです。後々、因縁などと言われる事がわかっていれば、きちんと話すべきでした。上杉は、決して騙すようなことはしていません。今世まで誤解され、こうした状況を招いたことをどれ程、悔やんでいることか」
「うるさい・・・上杉の言い訳など聞きたくもないわ。わしの孫娘はお前などには絶対渡さん」
「おじいさまも、お父様も・・・ひどいわ。私の気持ちなんて考えてくれないのね」
「伊勢。今日はこのまま帰る。だが諦めはしない」
「・・・謙信様」
数日後・・・
鮮やかな緑色のドレスが伊勢の家に届けられる。
「伊勢。明日はこのドレスを着て政宗どのと一緒に舞踊会に行くのだ。これは、絶対命令だぞ」
「お父様・・」
「綺麗なドレスではありませんか姉上。政宗様は姉上にゾッコンなのですね」
「直胤。なぜ政宗様からのドレスだと知っているのですか」
「僕は、政宗様の気持ちを知っています。ドレスを送ることも知っていました。二人を応援しているのです」
「何をいうの。私は謙信様をお慕いしているのに・・」
「姉上・・・謙信と言いましたか。まさか上杉謙信ではないですよね」
「そうです」
「絶対になりません。上杉のものなど、絶対に信用してはなりません」
「あなたまで、そのようなことを言うのですね」
「何故かわかりませんが・・・上杉と聞いただけで、憎々しい 気持ちになります」
「直胤。お願いだからそのようなことを言わないで」
「姉上。姉上には、政宗様がお似合いです」
そばで聞いている父・信由
「お父様、私は舞踊会には出席しません」
「姉上、そのようなことを言わず・・・」
「伊勢。お前の頑固さは知っているがこれは命令だ。私が政宗殿に許可を出したのだ。行かないとは言わせない。これは政宗殿との約束なのだ」
「そうです。姉上」
「わかりました。では、今回一度だけご一緒します。今後のお約束は絶対になさらないでくださいね」
「よかろう。だが、明日の政宗殿との約束は、必ず果たすのだぞ」
「政宗様・・・そういうことで、今回だけの承諾ですがこれで許してください」
「直胤、謙信が許しを請いに来たというのか。伊勢も謙信を好いていると」
「そのようです」
「わかった。明日の舞踊会で俺のことを好きにさせると良いのだな」
「政宗様なら・・・もしかしたら出来るかもしれませんね」
「直胤、お前はまだまだ修行が足りないな。見ておれ、明日は俺と伊勢の晴れ舞台になるぞ」




