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錯覚

第二章二 「夢の中」


「・・・・影家。説明せよ。何が起こったのだ」


「謙信様は、馬に乗られて、お一人で出掛けたのです。しばらくして、馬だけが戻ってきたので心配しておりました所、あのお二人が謙信様を馬車で届けてくださったのです」



「俺は・・・ここでの生活が思い出せないのだ」


「頭を強く打ったせいでしょうか?医者を呼びますか?」


「医者はいらん」


今の謙信には、医者が役立たないと知っている。


(これは・・夢かも知れん)





バタン・・・


突然ドアが開き・・・・・・影持が駆け寄ってくる。


「謙信様・・馬の(せん)だけが戻られたので心配いたしておりました。ご無事で何よりです」


影持は謙信を心配して、馬を走らせ、あたりを捜索してきたのだった。



「影持・・心配させたな。少し疲れたので部屋で休みたい。茶を入れてはくれないか」


「かしこまりました。今、急いで用意いたします。いつものでよろしいですか?」


「かまわん。いつもので頼む」



謙信は、影持と二人きりになりたかった。影家の目の前で、自分の身の上を話すことを躊躇したのは、直感からだった。


部屋に入るとなぜかホッとした。


自室は、和室で二間続きとなっており、縁側からは、美しい枯山水の庭が広がっている。


(枯山水とは・・仮想の庭。・・なんとも今の俺には皮肉な庭にも思えるが・・・)




浴衣に着替え、縁側に座ると・・空には綺麗な朧月夜が見える。


(月だけは、いつの世も変わらないということか)



(それにしても・・いったい、どうなってしまったんだ)


この現実が夢なのか・・今までの世界が幻だったのか・・・








「お茶をお持ちしました」


「・・入れ」


「これはなんだ?」


「いつものアールグレイ茶でございますが・・・なにか」


「これが・・・茶だというのか」


「謙信様がイギリスのグレイ伯爵とお会いになった後に送られてきたものです。それまでは、抹茶を好んでいらしたのですが、時代が変わり自分も変わらなければとおっしゃって、飲み始めたのをお忘れですか」



「・・・・・・。」


無言で考え込む謙信。

しばらくの間、沈黙が続いたが・・・困り果てた顔で影持に語りかける。




「影持・・・そなたに折り入って話がある。決して人に話してはならぬ。守れるか」


「謙信様。もちろんです」


「よいか・・影持。笑うでないぞ。俺は、330年前の戦国の世から意識だけが時空を越えてこの時代にやってきたようだ。高野山で護摩祈祷の最中、気分が悪くなり気を失った。・・・気がついたら、この時代の道端に倒れていた。そして・・・今ここにいる」


「・・・なんと。・・もし・・もしそのようなことが誠のことだとすると・・・謙信様は生まれ変わってこの時代に生きていた。しかし・・何かのきっかけで330年前の意識だけが時空を飛び越えてこちらへ飛んできたということでしょうか」


「そうとしか思えん」


「しかし・・謙信様には変わりありません」


「そうだな」


「また何かのきっかけで意識が逆光して過去世に戻られるかも知れません。しかし・・今はこの世を生きているのですから、どうぞお気持ちを切り替えて今を生きてみてはどうでしょう」


「影持・・俺はこの世界の記憶を持ち合わせていない。少なくとも、前世の記憶が強いので現世の意識が薄れているようだ。俺を支えてくれないか」


「もちろんです、謙信様。私はいつだって謙信様の味方です。そして・・このことは・・決して誰にも他言いたしません」





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