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祈恋

第1章十八 「苦悩」


『つらかりし 人こそあらめ祈るとて 神にも尽くす わがこころかな』




馬を飛ばした。


一刻も早く・・・伊勢に会いたい。


(伊勢・・待っておるのだ)



伊勢の愛馬・天馬に乗り・・青龍寺へ馬を飛ばす。







青龍寺までの道のりは・・謙信にとって、それは・・長く・・長く・・・感じる道だった。




「・・・伊勢・・伊勢はおるか・・伊勢・・」


謙信は、思いの丈に叫ぶ。




「・・謙信殿・・伊勢殿は辰時(あさがた)にふく殿と一緒に寺を出ましたぞ。なんでも・・国許に帰ると言っておりました。」


「・・・なんだと。伊勢が越後を離れたと申すのか」


「伊勢姫様は、こちらに来られてから、お食事を取ることも出来ず、とても衰弱しておりました。このままでは命に関わるとふく殿がとても心配なされ・・・ご帰郷となったのでございます」


「伊勢は・・そんなに弱っておったのか」


「はい。お食事を取ることが出来ないだけではなく、お言葉を発することも出来なくなっておりました」


「・・・それで、ふくが国許に帰ると決めたのか」


「そうでございます」


「・・・なんということだ」



謙信に二通の文を差し出す。


「謙信殿と天室光育和尚様宛に伊勢姫殿から文をお預かりしております」




謙信は文を受け取ると・・・再び・・急いで馬に乗る。




「影持・・・伊勢を追うぞ 」


「・・・はっ」




(・・・伊勢。勝手に越後を離れてはならぬ。剃髪しようが、国許に帰ろうが・・そなたを離しはしない。)


謙信は、天馬を風の如く走らせた。




馬を走らせ、しばらくすると・・


前方に人だかりが出来ている。





「・・どうしたらよいのかのぅ」


「なんでこんなことになっちまったんだろう・・・」



人だかりの中で・・二人の男が・・おろおろとしながら嘆いている。




細い道を塞がれ、馬を走らせていくことも出来ず・・


謙信は、一旦馬から降り、人だかりの中・・馬を引いて歩いていく。


(皆を蹴散らしてでも、先を急ぎたいのだが・・これだけの人混みの中、馬を走らせる訳にもまいらぬ。馬から降りるしかないだろう・・)




やり切れぬ思いで馬から降り・・・早急に過ぎ去ろうとした時・・・



謙信の目に信じられない光景が飛び込んでくる。


あれは・・ついこの間、伊勢と二人で見た桜ではないか・・



・・・・その木の根本に横たわる娘・・・見覚えのある着物・・・・





(・・・・まさか。・・・・・・・?)



人混みの向こうに・・・倒れている二人の亡骸。



人混みをかき分け・・謙信が駆け寄る。




「なんと言うことだ。・・・伊勢。・・・伊勢。目を覚ますのだ」


黄色い御衣黄桜の花びらが、ひらひらと舞っている。




謙信は伊勢の亡骸を抱きしめ・・・


人目を憚らず涙した。



影持は、言葉なく・・・立ち尽くす。



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