謙信の願い
第一章十三 「叶わぬ願い」
柿崎影家は、城下での噂を耳にしていた。
「我らが軍神、謙信殿が、伊勢姫様にメロメロだってな〜」
「伊勢姫様は天女のような美しさで、信玄公もご所望していた姫だと聞いたぞ。武田との災いのタネにならなきゃよいがな〜」
「戦の時、謙信様は今までのように強いお方でいられるのかねぇ〜」
この時、謙信21才。
家督を継いだとはいえ、いまだ身内争いの火種を抱えていた。
さらには、北条や武田などの強者どもが年若い謙信に襲いかかる気配を見せている。
降将の娘を寵妃にするとは・・・傾国の元では・・・・
影家は謙信の身を案じていた。
甘粕景持が、謙信に呼ばれ急いで謙信の元へ駆けつける。
謙信は、まだ眠たそうな顔をしているが、目だけが爛々と輝いている。
「・・・殿。ご用向きは? 」
「・・・影持。伊勢と夫婦になると決めたのでそのように皆に伝えよ」
「・・・かしこまりました。殿・・・・殿の想いが叶ったのですね」
「影持。お前には感謝しているぞ。俺は、伊勢とともにこの越後を日の国一にしてみせるぞ」
「それは、楽しみですな。・・・殿と伊勢姫様には健やかな神子様を願っておりますぞ」
「影持・・・気の早いことを言うな」
笑顔で会話する謙信と影持。
「伊勢姫殿の父・千葉采女殿にも文を送りましょうか?」
「そうだな。それがよい。采女は我が義理父になるのだからな」
影持は、重臣達を集めて、謙信と伊勢との婚約を伝えた。
柿崎影家は・・・・・眉間にしわを寄せながら・・・黙って聞いていた。




