001 500年後の世界
「そこ! 魔力が乱れてるぞ! 集中しろ!」
「は、はい! マレウス先生!」
俺は20人ほどの生徒が居る教室の中で、怒号を飛ばす。
生徒たちは自らの魔力で、目の前にある小石を浮かせていた。
これは魔力を上手くコントロールするための、もっとも効率のいい訓練方法である。
「魔法は日々の積み重ねから! 誰一人手を抜かないように!」
『は、はい!』
訓練に集中する生徒たちを見ながら、俺は満足気に頷く。
いかんいかん、ここで満足してはいけない。
すべては、この現代の魔術が弱すぎるという状況を打開するため。
若い人間たちから特別な訓練を施し、立派な魔術師へと育て上げるためだ。
この生徒たちから、いずれ俺はこの時代を担う最強の魔術師を生み出してみせよう。
他ならぬ、リッチである俺の手によって。
◆
魔術の王である魔王様と、それを忌むべき存在とした人間たちの戦争は、長きに渡った。
お互いがお互いの総力を持って魔術をぶつけ合い、戦況は拮抗。
しかし、どんなものにも終わりは来る。
『私は最強の魔術を生みだしたかった……』
そう言い残し、俺の目の前で魔王様は死んだ。
残された家臣である俺は、魔王様亡き今何をすべきかを考えた。
魔王様の無念を果たす、それには力も時間も足りない。
考えた末、俺は自らで編み出した禁断の不死の術で、まず永遠の命を手に入れた。
そうして魔王軍の残党狩りに巻き込まれぬよう、自分を地下深くで眠らせる。
数十年、数百年後、俺が目覚めたときには、魔術はさらなる発展を遂げていることだろう。
進化した技術を使い、俺は魔王様の野望であった最強の魔術を生み出してみせる。
そう決意して眠りについたのだが――――。
眠りから覚め、俺は土の中から這い出した。
不死、つまりはアンデットとなった俺には、陽の光が少々堪える。
辺りには魔王城らしきものはなく、更地になってしまったようだ。
まだぎこちない身体を無理やり動かし、少し離れた木の陰に移動する。自分の魔力によって、肉体が維持できているのが救いか……骨の身体では些か不憫なことも多い。
術の影響で真っ白になってしまった身体を見下ろしながら、俺は少し息を吸い込んだ。
「……少し魔力の濃度が薄いか」
空中に漂う魔力の量が、俺の生きていた時代よりも薄いようだ。
まあ問題はない。
必要なのは技術力と、新たな発想だけだ。
「まずは時代の確認だな……」
凝り固まった身体もほぐれてきた。
日差しにも慣れてきている。
そろそろ移動をしよう。
周囲の魔力を探りながら、人が多い方向へと歩いて行くと、村のようなものを発見した。魔王様や俺も含めて人間族なため、リッチになったとは言え警戒などはされない。
旅人として村の中に入って話を聞くと、今の時代は魔王様が亡くなられてから500年後の世界だと分かった。
500年、それだけの年月があれば、きっと最新鋭の魔術が世に蔓延っているに違いない。
しかし、現実はそうではなかった。
俺がすべてを知ったのは、魔術都市と名高い大きな街に来たときのこと。
魔術の現状を知るために、魔術学院という若者に魔術を教える機関を偵察していると、ありえない光景が広がっていた。
500年前にあった下級、中級、上級、最上級、国宝級という魔術のランクの中で、上級程度の魔術を、この学院では最上級として教えていたのだ。
下級の魔術に関しては、中級どころか上級になりかねない物すらある。
ありえない……何ということだ。
魔術の水準があまりにも下がりすぎている。
念の為ありとあらゆる場所での水準を調査したが、どこも対して変わらない。
これでは最強の魔術など生み出せないではないか。
途方に暮れて、うなだれている俺に、一つの名案が浮かび上がってきた。
「そうだ、俺が魔術の水準を上げればいい」
幸いにも、俺には無限の時間がある。
やるしかない、どんなに時間をかけてでも。
そうと決まれば、話は早かった。
俺はすぐさま履歴書という就職に必要な書類を書き上げ、魔術学院へと向かった。
正面から乗り込み、校長室へ飛び込む。
唖然としている校長に対して、俺はなりふり構わず履歴書を叩きつけていた。
これが、俺の教師としての第一歩である。
今日は三話投稿します。