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恋するクラウン  作者: 川崎 春
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始まりの聖女

 ああ、この人は、今日も私に腹を立てている。

 ユーリアは毎朝思う。

「おはようございます。王司書」

 身支度を終え、部屋を出ると必ず会う男、護衛の騎士、バルトー・ロッソ。

 表情は硬く、無表情だ。

「おはよう。今日も良い天気ね」

 返事は無い。

 ユーリアは分かっているので、そのまま彼の脇を抜けて歩き出す。

 少し遅れてバルトーも続く。今日も一日が始まる。


 ユーリアは、王司書と呼ばれている。

 天使が舞い降り、王家の始祖となったといわれるエスライン王国で、王司書とはユーリアだけである。

 過去に、王司書と呼ばれる人物は居ない。

 彼女は、王族のみが閲覧可能な王宮図書館で初めての司書をしている。

 王宮図書館は、代々王族の者が管理をしていて、決して血族以外が入る事を許さなかった。そこには、始祖の天使が残したとされる貴重な書物が残されているからだ。

 しかし、ユーリアは若干十四歳で突然王司書となり、これらの書籍の管理を任されている。

 出自の分からない、しかも少女が何故。

 王は彼女の情報を一切もらさなかった。ただ、大々的なお披露目はされた。華奢で愛らしい少女である事だけが強く印象に残った。

 そうこうする内に、王司書、王宮図書館の秘密を探ろうとする者が現れた。

 侵入者は、エスライン王国の秘密を欲していた。特殊な王族の秘密を。

 エスライン王国の王族は人間と天使の混血で、半天とも呼ばれている。天使の末裔にふさわしく、皆背中に翼を持っている。

 王族が特別な存在である為、その他である人には、世襲制の階級が存在しない。

 王族を崇める宗教国家の色合いは強いが、文官も武漢も実力主義で選ばれ、国民の向上心も高く、とても平和だ。貧しい国から見れば、楽園の様な国である。

 他国から移民が大勢入ってきている。しかし、同時に出て行く者も大量に居る。

 一見楽園でも、中に入れば実力主義の国である。エスライン王国では、仕事も権利も、与えられるものではなく、勝ち取るものだ。

 勝者が居れば敗者も居る。何も得られずに出ていく者は後を絶たない。

 知恵であれ、体力であれ、力……能力の無い者は暮らしていけないのだ。

 分かりやすいと言えば分かりやすいが、弱者に非情とも言える基盤は最初の天使によって作られた。

 エスライン王国に降り立った天使は、そもそも、力を信奉する天使だったと言う。

 末裔にもその姿は受け継がれている。……翼の生えたマッチョ。

 現王も王太子もそうだ。そして彼らを熱烈に支持する騎士団は翼の無いマッチョの集団だ。

 頭は良くないかも知れないが、神罰など落ちる前に敵国が滅ぶ程に強い。だから国外に敵は居ないと考えていい。

 国内に関しても、実力ぞろいの大臣達によって政策が決められている為、安定している。

 脳みそも筋肉で出来ているかも知れないと言われている明らかに肉体寄りに能力の高い国王は、滅多に政策なんて打ち出さない。ただ、承認を与えるだけの立場に居る。

 それがいきなり言いだしたのだ。王司書と言う新しい役職の設置を。そして、何処からか、ユーリアを連れて来たのだ。

 目的は、国内の不穏分子のあぶり出しだったが、着飾ってお披露目をした際には、招待客の頭に疑問符が浮かんでいた。国王が大喜びして、男泣きしていたからだ。

 誰ですか?何でそんなに喜んでるの?……皆訳が分からない。

 どこからどう見ても、普通の少女だった。王族ならある翼も無く、格別に美しいと言う訳でもない。

 着飾られた少女の顔は無表情で、お世辞にも愛想が良いとは言えなかった。誰とも目を合わせず、ニコリともしなかった。そのせいで、愛らしい顔立ちもドレスの華美さに負けていた気がする。

「ちょっと、囮になってくれない?」

 国王の軽い発言にユーリアは従っただけだ。なりたくてなった訳では無かった。

 ユーリアは小柄な少女だが、特殊な力の持ち主だった。

 侵入者は返り討ちに遭った。ことごとく。

 そして、国内の悪の芽は早々に摘めた訳だが、ユーリアの居る図書館への侵入者は後を絶たなかった。……国内では無く、国外から来ているのだ。

 外国の王族や大使まで呼び寄せて、囮を大々的に見せびらかした為、収束のさせ方が分からない状態になってしまったのだ。

 王家と大臣達が集まる会議で、この事を議題に挙げたのは、王太子だった。

「陛下、このままではまずいです」

 王太子の言葉に、国王はため息交じりに応じた。

「王司書すら強いのだから、エスラインは狙っても、ダメだって思ってくれればいいのに。参ったねぇ。ユーリアをあそこから出せないし、内政干渉は出来ないしね」

 実は、エスライン王国の外の状態はかなり悪い。

 そもそも、滅びゆく地上世界を惜しんで、神が天使を遣わし、エスライン王国が出来たと言われている。

 決して貧しい訳では無い。だが、何かが上手く行かない。そう言う状態が長く続いているのだ。

 本来、循環すべき需要と供給が、天災や国の都合などでうまく巡っていないのだ。

 国がそうして衰退してはまた興る。しかし興った国も最初の勢いが続かない。

 半魔と呼ばれる悪魔の手下が人の姿で暗躍し、国を滅びに導いている為だと言われている。

 半魔の入り込む隙の無いエスライン王国だけが衰退せずに繁栄しているだけに、この話に納得する者は多い。

 だったら、エスライン王国が天使の末裔として半魔を蹴散らし、世界征服してしまえば良いのだが、そうはいかないのだ。

 神との契約があり、領土の外に干渉してはいけない事になっている為だ。

 どんな契約なのかは、大臣達も知らない。ただ、天罰が下ると言われており、エスライン王国の領地は過去、拡大も縮小もされた事が無い。

 王司書の存在が、世界の悲惨な状況を浮き彫りにしている。大臣達にとっては考えたくない問題だったりする。

 王族は、仕方ないで済ませられる。神と契約しているのだから。そもそも半天は人ではないし。

 大臣達としては、翼ある王族に仕えたくて、必死で頭脳を磨いた訳だから、この国の発展だけを考えたい。しかし、同じ人間として良心を苛まれる訳で。

 だからこの事を考えるのは嫌なのだ。

 そもそも大臣達は止めたのだ。王司書を置く事も、大々的にお披露目をする事も。

 それなのに、国王は僅か一か月で全てを整えて、強引に発表してしまったのだ。

 大臣達は抗議した。すると、滅多に大臣達の意見に反論しない国王が言ったのだ。

「天啓だから」

 この国の王族は、神の声を眠っている間に聞くことがある。それが天啓なのだ。

 天啓に逆らってはいけない。これは絶対だ。それは神の意思や警告を無視する事で、必ず悪い事が起こるのだ。逆に、従えば良い事が起こる。

 これを持ち出されると、理論的な考え方の政策だって、あっさり却下されてしまう。

 天啓は滅多に無いが、こうやって王族が強引な事をするときには大抵、天啓が関係しているのだ。

 四年もくすぶる天啓に、大臣達はいい加減決着をつけて欲しかった。

 皆一様に国王を見ている。

 国王が、天啓の内容を少しでも教えてくれればいいのに、と思っている。面と向かって言えないけれど。

 天啓は、とても分かり辛いと世間一般では言われている。

 脳筋の国王が、天啓の解釈を間違えたのではないかと不安なのだ。四年経っても、良い事が起こった感じがしない。逆に悪い事が起こっている様な……。

 そんな大臣達の視線を受けながら、今更、自分のやった事で悩んでしまう国王。五十歳。

 同じ脳筋でも、ちょっとマシと言われている王太子が言った。

「だったら、騎士団から騎士を選んで、ユーリアに護衛を付けては如何でしょう?そろそろ、ちゃんと伝わる噂を浸透させましょう」

「ちゃんと伝わる噂?」

「はい。だからこその護衛です」

 王宮図書館には、強い騎士が居て、侵入は無理だと、侵入者の報告に現実味を持たせてやるのだ。華奢な少女に倒されましたでは、格好が付かないから。

 王太子は胸を張って説明した。

「なるほど。お前は賢いね」

 王太子……賢いんだ。大臣達は心の中でそう呟いていた。

 大臣達としては、女をさっさと図書館から出して、図書館外部の警備を強化しろよ!と言うのが本音だ。それで全部解決する。頭脳集団である彼らからすれば、瞬時に浮かぶ策だ。しかし、そこは脳筋。そうはならないらしい。

 王族管理の図書館に、またしても余計な一般人を入れちゃうの?と言う不安の方が大きいが、天啓絡みである以上、下手な事は言えないので、彼らは黙って案を受け入れ可決させる。

 解決策にはならないかも知れないが、王宮図書館に大きな害もあるまい。これまでも王司書が出入りしていた訳だし、一人増えても大差なかろうと、皆それぞれ自分を納得させる。

 結局、仕えている大臣達は王族の崇拝者なので、王族のこう言う訳の分からない所も大好きだったりするのだ。

「では、人選は任せたよ」

 国王の言葉に、王太子が頷く。

 大臣達は、さっさと次の案件へと話を移行し、図書館の話を頭から追い払った。

 そういう訳で、現国王よりちょっと賢い?王太子によって選出されたのが、バルトー・ロッソである。

 若いのに騎士達の間でも信任の厚い彼は二十歳になったばかりだ。

 王宮騎士になって三年目。

 十二歳で従騎士となり、騎士になったのが十六歳、一年間、地方を巡った後、王宮にあがった。

 彼は最初この仕事を断った。彼が居ないと困る騎士が大勢居たからだ。

 それでも、と王太子に強く推され、渋々王宮図書館へと向かっていた。

 王司書のお披露目がされていた頃、バルトーは地方へ騎士研修に出ていた。だから顔も分からない。

 どんな人物かも、よく知らない。何故なら外に出て来ないからだ。外から王宮図書館に通っている形跡は無く、あそこに住んでいるらしい。

 王司書の護衛。何故必要なのか分からない。

 誰が居ようとも、王族の管轄にある図書館に侵入しようとする方が間違えているのだ。

 バルトーからすれば、侵入する奴らも、それを指示する奴らも、皆、馬鹿である。

 ここの王族は、素手で鋼鉄の剣をへし折るし、ナイフで刺すと刺さらずに筋肉で押し返される。

 王宮騎士は毎年新人の洗礼として国王に見せられるのだが……何度見ても、目を疑う。新人は大抵真っ青になっている。

 翼があるだけでも、空を飛べて戦で有利なのに、肉体も桁外れに強いのだ。人の姿はしているけれど、全然人間じゃない。代々人間と婚姻しているのに、天使の能力と言うのは薄まらないらしい。

 何故、王司書を置いたのかは分からない。王族が脳筋なのは確かなので、その辺が関係しているのだろう。本が整理できなくなったとか。

 とりあえず会って確かめようと決める。

 王族以外入れない場所だと聞いていたから、緊張して入り口の扉をノックすると、小柄な女が出てきた。

 質素な格好をしているので、バルトーは侍女だと判断した。

 最初は誰か親しい者の来訪を期待していたのか、笑顔でドアが開けられた。しかし、バルトーを見ると一瞬目を見開き、すぐに表情が消えてしまった。

 王司書の出迎えだったのかも知れない。期待外れで悪かったな……。

 気を取り直して、バルトーは告げた。

「王司書にお会いしたいのだが」

「お帰り下さい」

 即答だった。・

 大きな緑色の瞳に、桜色の唇、栗色の髪。非常に愛らしい容姿をしている。……しているが、表情が死んでいる。目にも光がない。こちらの顔もちゃんと見ようとしない。

 さっきの一瞬の笑顔が幻の様に思える。

 扉を閉めようとするので、慌てて待ったをかける。

「だから、王司書に面会しに来た」

「帰れ!」

「は?」

 何を言っているこの女。一応、王宮騎士の正装も着ているのに、何でこんな失礼な事を言われるのか?まさか……この女、賊の間者で王司書に何かあったのか?

 護衛として来た以上、確認する義務がある。

「王司書に取り次げ」

 バルトーは女を睨みつけた。返答次第では取り押さえる事も考える。うつ伏せに倒して拘束を……。

 すると次の瞬間、床に倒れていた。剣を抜く間も、反撃する間もなく。

「その服、王宮騎士だよね?本物だった?一応心配だから手加減したんだけど」

 倒れたバルトーの前にしゃがみこんで、顔を覗き込んだ女はため息をつく。

「良かった怪我させなくて。動けるでしょ?」

 確かに動ける。動けるけれど何が起こったのかさっぱり分からない。

 自分の胸よりも背丈の低い女に倒されたのだと言う事は分かる。しかも手加減までされたらしい。

 けれど、方法が全然分からない。これでも、王宮騎士なのに。

「な……」

 何なんだ、お前は。と言いたかったが、声がかすれた。

「な?」

 一瞬、眉根を寄せた後、女はぽん、と手を打った。

「ああ、名前ね。私がユーリア。王司書よ」

 そう言うと女、ユーリアは立ち上がり、王宮図書館へと消えていく。エントランスの扉がギギィーと音を立てて閉まるまで、バルトーの思考は停止したままだった。

 暫くして起き上がり、騎士服のほこりをはらった。

 今の、何だ?

 考えた。相手がどうやって動いたのか、何をしたのか。……全然分からない。

 女の体重は自分の半分程度だろうか?投げるのは無理だ。じゃあ、どうやったのか。

 ずっとそこで考えていた。彼にとって、こんな不可解な事は初めてだったのだ。

 ふと空を見上げると、茜色に染まっていた。

 ああ、今日は午後から王司書に挨拶する筈だったのに、とぼんやり思う。そして、しばしの後、何かが急速にふくれあがって、爆発したように叫んだ。

「俺、いらねぇじゃないかぁぁぁ!」

 バルトーの心が折れた瞬間だった。


 ユーリアが、王司書として王宮図書館の管理をしていると言うのは名ばかりで、彼女の日常は、司書と言う役職から大きく外れている。

 バルトーから見ると、侵入者が来ない限り、暇を持て余している。閑職もいいところだ。

 今日も今日とて、やる事が無いからと、図書館の応接室で、勝手にお茶を入れて、菓子をほおばっている。

 図書の整理をしている所など一度も見た事が無い。司書なのに。

 バルトーが正式に護衛騎士としてユーリアに付いてから一か月が経過した。

 禁書があると言うだけあって、図書館にはユーリアとバルトーしか居ない。ここ一か月、見ている限り、女官も役人も、全くと言っていい程出入りが無い。

 侵入者はたまに居る。しかし、それも特に困るほどの事も無く、片付いている。

 ユーリアの部屋は図書館の端にあって、王城とつながっている。衣類などの補充は、王城から行っているらしい。

 食事も同様で、彼女は部屋で食べている。バルトーは騎士の詰所に行って食べる。

 バルトーは彼女の部屋から二部屋ほど離れた部屋をもらって、ここで暮らしているが、正直に言えば日中は騎士団に帰りたいと思っている。……やる事が無いのだ。

「食べる?」

 菓子の皿を差し出されたが、バルトーは無言で拒絶する。

 彼は、必要最低限の会話はするものの、それ以外は一切口をきかない事で、ユーリアに対する感情を表現する事にしたのだ。

 ここ一か月見ている限り、鍛錬らしい鍛錬をしている様子は見られなかった。一体どうなっているのか分からない。けれど、バルトーは間違いなく倒されたのだ。

 自分が長い歳月をかけて培ってきたものを、あっさりと否定されている様な気持ちは日に日に増していく。

 ユーリアは、特にバルトーの態度に対して文句を言わない。

 ただ時折、ユーリアが観察する様にじっと見てくるので、バルトーは居心地の悪い思いをする事があった。

 目が合う訳ではない。何だか顔よりも少し上の方を見ているのだ。ただじ~っと。

 そういう不気味な行動をする人と二人きりで時間を過ごすのは、非常に苦痛である。しかしバルトーは、護衛として給金をもらってここに来ている。

 例え、それが守る必要のない強い女だとしても、護衛が必要なのだと懇願されたら、居るしかない。

 ユーリアに倒された翌日、騎士団の執務室で不貞腐れて書類仕事をしていたバルトーの元に、王太子自らがやってきて、ユーリア護衛の理由を説明した。

「国内の不穏分子を一掃すべく王司書を設置し、大々的に宣伝したのだが、予想以上に国外からの賊が多く、後を絶たない」

 ユーリアの容姿が、小柄で華奢な事は、世間一般に浸透している。しかも、司書は文官だ。それが賊を毎回返り討ちにしているというのは、確かに真相として伝わり辛い。

 実際に経験したバルトーも、言いたくなかった。

「それで、計画を変更する事にした」

 そしてバルトーは、自分が図書館に入ってきた侵入者とその雇い主を納得させる為に、護衛になる事を知ったのだった。

「だったら他の者にしてください。私がここに居る理由はお分かりでしょう?」

 執務室で山になった書類をバルトーは指でトントンと叩いて見せる。脳筋騎士達を苦しめる難解な書類の山。

 バルトーは、とても貴重な、脳筋で無い騎士なのである。しかも、王宮騎士になれるだけの強さも兼ね備えている。

「どうしてもバルトーでないとダメなんだ」

「だから、その理由を教えてください」

 王太子は笑顔のまま、近くに飾ってあった剣を手に取ると、ぐにゃりと曲げて見せた。

 脳筋最後の必殺技、力による脅しである。

 王太子の背中の翼がバサっと音を立て、書類が風圧でバラバラになった。

「そんなの、誰かにやらせたらいい」

 笑顔が怖い。理由は絶対に言いたくないらしい。

「……行きますよ。行けばいいんですよね」

「分かればいいよ。あ、辞職もダメだから。地の果てまででも追いかけて、引きずって連れ戻すぞ」

 地上で最強の生物に目を付けられて、どうしようもない状況に居ると分かった。

 それでも、前向きになろうと決めたのだ。せめて与えられた仕事をしようと思ったのだ。

 それなのに、ユーリアはいち早く侵入者を察知してしまう。一体何処で見ているのかと思うほどの素早さだ。

 言われた通りに行って、侵入者を追い返す。その繰り返し。バルトーは使い走りの気分を味わうのだ。

 ユーリアは強い。だから見つけたら倒せるのだ。しかし、それでは今までと変わらない。だから自分に伝えに来る。分かっているが、それが屈辱的だった。

 王宮図書館には、見た目と実力がちぐはぐな、番犬女が住み着いていて、図書を守っている。自分は、その使い走り……。

 バルトーの気持ちは日を追うごとに沈んでいった。そして、ユーリアに対して、悪感情を募らせていったのだった。

「ねえ、どうしてそんなに怒り続けるの?」

 バルトーは答えない。一瞬何を言われたのか考えて、否定するのは嘘臭いし、理由を述べるのは、自分の矜持が許さなかったからだ。

 ちょっと考えたら分かるだろうに、と思う。

 それに対する答えが返ってきたかの様に、ユーリアは言った。

「私はもの知らずなの。家族以外との接触が極端に少なかったのよ。だから、あなたが怒っている理由がわからないの」

 深窓の令嬢を気取ったところで、騙されるものか。番犬女め。

 バルトーは、半眼でユーリアを見た。

「クラウンを見なくても、こんなに感情が分かる人なのは嬉しいんだけど、もっと優しくしてくれない?」

 ……クラウン?王冠?何だ、それ。バルトーは聞きなれない単語に一瞬考え込む。

 王冠など自分は身に着けていない。何となく頭に触りたくて手がうずうずしたものの、我慢する。

「今まで口を聞いてくれなかったから、言えなかったんだけど、私には、人が自分に向ける感情が感じられるし、見えるの。そうね、例えるならミルククラウン。知ってる?ミルクの滴がミルクに落ちた時にできるやつ」

 それならバルトーも知っている。滴が落ちた瞬間、まるで王冠の様に表面が盛り上がるあれだ。

「人の頭の上にね、あれみたいなのが見えるの。私は、勝手にクラウンって呼んでる」

 何だか、突拍子もない話になってきた。世迷言として黙って聞き流すべきか、真面目に聞くべきか。バルトーが迷う内にも話は続く。

「私に怒っている人のクラウンは赤いの。怒りが激しいと、すごく波打っているのよ。現にあなたの頭のクラウンは、波打っていて赤いの」

 呆気に取られてユーリアを見ると、いつしか悲しそうな表情になっていた。

「それに、私が嫌いなのね。黒も混ざってる」

 あまり表情の無いユーリアの顔が明らかに変化したのは衝撃的だった。

 どうしたらいいのだろう。バルトーは困り果ててしまった。女性にこんな顔をされた事が無い。

 初対面で倒されて以来、あまりの衝撃に性別すら意識しない様にしていた気がする。しかし改めて見れば、目の前に居るのは、確かに若い女性である。小柄で、愛らしい。……だから、余計に悔しくて腹が立つのだが。

 男として、このままなのは何だかまずい気がする。何か言わなくては。

「申し訳ありません。傷つけた事は謝罪します」

 ユーリアが目を丸くしてバルトーを見た。バルトーは目を逸らして続けた。女性に謝罪したのが初めてで、酷く照れ臭かったのだ。

「しかし、私の態度の悪さを注意するなら、その様な言い方をなさらず、直接おっしゃってください」

「クラウンの事、信じてくれないの?」

「……私には見えませんから」

 すると、ユーリアは口に拳を当てて考える。

「じゃあ、何故私がいち早く賊を見つける事ができると思う?」

「分かりません」

「クラウンは、近ければ、見るだけじゃなくて感じる事も出来るのよ。私はそれを頼りに賊を見つけているの」

 バルトーは今までの話を思い返し、疑問を口にする。

「賊の目的が禁書のみである場合、感知できないのではありませんか?あなたの言葉を信じるなら、クラウンは、あなたへの感情を表すものなのでしょう?ならば、感知できないと思うのですが」

「ではこちらから問うわ。この図書館の内部構造、あなたは知っている?」

 バルトーは思い返す。エントランス、応接室、居住できる部屋……知っているのはそれだけで、エントランスの奥、大扉の向こうは未だ、未知の世界だ。禁書がどのようなもので、何冊あるのか、全く分からない。

「……ああ、なるほど」

 バルトーはそこで答えにたどり着いた。

 構造のわからない建物で侵入者はどうすべきか。答えは、中を知る者を狙う、である。

 侵入者は、いつも王司書であるユーリアに害意を向けているのだ。

「私が王司書としてここに居るのは、囮として。禁書に通じる大扉の鍵も私が持っている。私を無視して禁書にたどり着く事は無いのよ」

 ここまで説明されると、世迷言などとは言えなくなってくる。実際に侵入者の感知が恐ろしく早いのだ。

「信じてくれた?」

 バルトーは渋々頷く。

 ユーリアは、いつもの観察している様な目をした。

「ちょっと黒味が減ったわね。相変わらず赤いね。……もう少し歩み寄って欲しいわ。とっておきの私の秘密を打ち明けたのだから」

 感情を見られると言うのは、信じてしまうと想像以上に恥ずかしい。いつも微妙に合わない目線……。観察されていたのだ。そのクラウンとやらを。

 バルトーは、我慢できずに言った。

「そんなに見ないで下さい。……私は護衛です。お気になさらず」

「私はそうは思っていないわ」

 護衛対象が、護衛を否定した……。

 たっぷりと、バルトーの心の傷に塩が盛られた。初対面の日の記憶が蘇る。

 そりゃあれだけ強ければいらないだろうよ!

「私はもの凄く暇だったの。さっきも言ったけれど、家族以外の話し相手はあなたがほぼ初めてなの。お願いだから話し相手になって」

 話し相手って……。俺、騎士だと全然思われてない。

 バルトーの目が遠くを見る。

「あ、またちょっと黒くなった。ねえ、何がいけなかったの?教えて」

 絶対に教えたくない。この様子だと、ものすごく事細かく話さねばならなくなるだろう。屈辱的な心理を。そんな自傷行為、耐えられない。

「私は護衛です。話し相手は別でお願いします」

「これ以上は、機密保持の観点から、人は置けないそうよ」

「え!」

「あなたが凄く嫌そうにしていたから、護衛を代えてくれるように殿下にお願いしたのだけれど、ここの内部を知っている人間を増やしたくないからだめだって。ああ……倒れたら考えるって」

 殿下とはいわずもがな、王太子殿下の事である。倒れたらって……バルトーの王太子に対する忠誠心が、急降下した。

 脅された挙句、この仕打ち。

「ね、お願い。私、本当に暇なの!」

 もう、ヤケクソだった。自暴自棄。

「分かりました」

 閑職の護衛から、暇人の話し相手へ、レベルダウン。

 バルトーは本当に倒れてしまいそうだった。


 この人、見た目は素敵なのになぁ。

 ユーリアは、向かい側に座っている男の顔を見て思う。

 物語に出てくる姫君を救う騎士は、きっとこんな人なのだろう。

 イメージとして王子様である王太子を当てはめていたが、ずっと何かが違う気がしていた。そして、バルトーを見た途端、あっさりとイメージはすり替わった。

 王太子が悪い訳ではない。ユーリアにとって、より好ましいのは、バルトーの容姿だっただけの話である。

 バルトーもそれなりにマッチョであるし、人によっては、もっと好ましい姿があると思う。しかしユーリアにとっては、彼こそが騎士のイメージだった。

 話し相手になってくれるように頼んで、渋々承諾させたバルトーは、一方的に話すユーリアの言葉に少しだけ返事をする。

 嫌々聞いているのは、クラウンの波を見れば明らかで、相変わらず怒っている。

 赤に黒い縞模様のクラウンが、ふわふわ波打っている。赤の方が多く、黒は少ない。

 相変わらず怒っているのに、理由を全く話してくれない。

 でも、彼は話をちゃんと聞いてくれていた。そして、ちゃんと応じてくれるのだ。

 そういう所がユーリアには魅力的だった。

 基本的には優しい人なのだと思う。

 どういう人物なのか、最初の二週間程度は、想像するだけで良かった。

 でも、それだけでは我慢出来なくなった。いつも目の前に居るのだ。

 声をかければ振り向いて返事をしてもらえる場所に居るのに、怒って無視する男。

 まるで自分なんて居ないみたいに振る舞われるのには、本当に傷ついた。

 無視と言う行為の意味を知っていても、された事がなかったユーリアには地味に堪えた。

 自分に向けられている感情である以上、自分が原因であるのは分かっている。

 だから、傷ついてばかりいても仕方がないので、自分から話しかけて、会話を成立させる事にした。

「今日も、何故怒っているのか話してくれないの?」

「申し訳ありません」

 バルトーのクラウンが勢いよく跳ねた。これは良くない兆候である。ユーリアは慌てて話題を変えてみる。

「分かったわ。あなたの好きな事を教えて」

「剣の鍛錬です」

「どうして?」

「……強くなりたいからです」

 またクラウンが一瞬だけ大きく波打つ。自分と関係あるらしい。バルトーの顔が少し歪んでいる。

 言ってもいいのかしら。……少しユーリアは考える。

 クラウンの見える事と言い、王司書の事と言い、自分は異例中の異例で、前例が無い人間だ。

 そう、人間だと自分では思っている。けれど打ち明ける事で、相手の中の人間規格から外されてしまうかも知れないのだ。

 バルトーにそう思われたらどうしよう。正直嬉しくない。

 でも、バルトーはクラウンの存在を認めてくれた。

 この人はちゃんと話を聞いてくれる。そう思ったら、言ってみたくなった。信じてみたくなったのだ。

「あのね、私って、本当は全然強くないの」

 バルトーが変な顔をしていた。

「本当よ。私、剣なんて全然使えない。そもそも持った事も無いのよ」

「え……でも」

「賊の事?ああ、あれは素手でやってるの」

「ああ、つまり体術をたしなんでおられるのですね」

「基礎だけね。護身程度のものよ」

 今度こそ、バルトーは嘘だと言わんばかりの表情になった。

 クラウンの赤い部分がぐんぐん増えて、クラウンの厚みを増していく。そして黒い線が縞のように現れる。上部は、大荒れの海のように波立つ。

「では、私は婦人の護身程度の体術によって倒された訳ですね」

 ああ、これか!

 ユーリアは、ようやくバルトーの怒りの原点を理解した。

 彼女の家族はユーリアの力を熟知している。だから、彼女が侵入者に負けない事を知っていた。当然の事だった。それでユーリアも分からなかったのだ。

「違うの。私はずるをしているのよ」

「どういう意味ですか?」

「私は、相手から受ける攻撃の意思、害意をそのまま相手に返す事ができるのよ」

「害意を返す?」

「そう。例えば相手が私を傷つけようとしている。私はその意思を返す事が出来るの。だから、私の骨を折ろうとした者は、私から骨を折る威力の力を返されるという訳」

 クラウンを感じる事のできる応用なのだが、何せ感覚のものだから、ユーリアもうまく説明できない。

 彼女にとっては、ただ、相手の攻撃しようとする意思を感じ取り、それを相手に投げつけているだけの事なのだが。

「だから、私を暴力で倒そうとする者に、私はまず倒せない。それには必ず意志が介入するから」

「王司書は以前、私に手加減をしたと言いましたね」

「あなた、私に害意を向けたでしょう?確か、賊だと思ったのよね?その気持ちを全部返したら、ちょっと痛そうだったから、少し減らしたの」

 後、顔が好みだったから傷つけたくなかったの。と、こっそり心の中で付け加える。

「とにかく、賊なんて攻撃意思の塊だから、私には絶対に勝てないのよ。それが強さに見えたとしたら大きな誤解だわ」

 バルトーは返事をしなかった。言葉の意味を噛み締める様に考え込んだ後、気の抜けた様な表情になった。

「つまり、相手の力を反射しているだけと言う事ですか?原理はよく分かりませんが、鍛錬して身に着けた訳ではない、と」

「そうよ。私の生まれ持った能力」

 沈黙が場を支配する。

「その……信じてくれる?」

 恐る恐るユーリアが言った途端、バルトーのクラウンからみるみる赤みが消えて、厚みが減っていった。黒い縞も薄くなっていく。

 クラウンのこんな急激な変化は初めて見るものだった。ユーリアはその様を驚いて見守る。

 そして、クラウンの色は、とうとう真っ白になってしまった。

 白って何よ。白って。初めて見るんだけど。

 ユーリアはクラウンとバルトーを交互に見る。

 何も感じていないって事かしら?

 波も立たない丸いリングの様な白いクラウンは異様なものに見えた。

 ユーリアに何も感情を持っていないのならば、クラウンは見えない筈なのだ。それなのに見える白いリング。

 凄く強い感情が一瞬で消えたせいで、消せきれない残骸が残ったのだろうか。

 とりあえず、残骸状態のバルトーにお茶をすすめてみると、黙ってカップを取って飲み始めた。

 どうやら話は理解できるらしい。

 魂の抜けた様な表情で茶を飲む騎士を眺めながら、ユーリアはふと思う。

 クラウンの事も、相手に害意を返す事に関しても、バルトーは、ほぼすんなりと受け入れている。凄い事だと思う。

 攻撃を反射できると自覚したときも、家族に説明してもすぐには納得してもらえなかったのだ。何度もやってみせなくてはならなかった。

 長い間、他人と話をしていなかった。

 過去にはユーリアにだって、他人と接する機会があった。しかし、彼らの頭上のクラウンは、長く接すれば接するだけ、どす黒い色に染まって、黒い霧に霞んでいく。

 暗く変色しきったクラウンから発せられる黒い霧は、やがてユーリアを包んだ。

 攻撃的な害意と違って、これは跳ね返す事が出来なかった。ねっとりとまとわりつく感覚には未だに恐怖を覚える。

 このクラウンから出てくる黒い霧は、ユーリアにとって毒の様なもので、触れたり吸い込んだりすると、熱を出した。何日も寝込み、酷くやせ衰えた。多分、あのままなら死んでいただろう。

 当時、熱の原因が特定できず、両親は幾度となく話し合いを繰り返し、ユーリアに様々な事を問いかけた。

 そうする内に両親は原因が分かったらしく、ユーリアの周囲から人が居なくなった。そして、家族だけが残り、ユーリアは体を壊さなくなり、今に至っている。

 以前、王太子の言った、倒れたら護衛を変えると言う話も、意図的に濁した主語は、バルトーではなくユーリアである。

 ここ数年、他者と接していないから倒れるかどうか不明だ。しかし黒い霧が出たとすれば、体調はきっと悪くなるだろう。

 王太子が、ユーリアの事を分かった上で選んだ人間だけあって、バルトーは長く一緒に居たのに、毒にはならなかった。

 ユーリアに悪い感情を持っていながらも、クラウンを濁らせなかった。

 普通、嫌悪の黒は、他の感情に混じって色を暗く濁しながら現れる。それがバルトーの場合、赤い怒りの感情を濁らせる事無く、黒い縞と言う形で現れた。

 どういう事なのか分からないが、バルトーの心理構造は、過去に接した人々とは全く違う様だ。

 再びバルトーを見る。

 クラウンは相変わらず白い。……すぐにどうにかなるものではないらしい。彼にも心の整理が必要なのだろう。

 茶を飲み終わり、ぼんやりしている。

 バルトーの対面に座ったまま、ユーリアは妄想する。

 顔が好みなせいかも知れない。この白いクラウンが、淡い緑色になればいいのに。

 淡い緑は、心地よい親愛のクラウン。そんな気持ちで彼に護衛として見守られたら、さぞや幸せに違いない。

 そう言えば、バルトーの笑った顔を一度も見た事が無い。

 どんな顔になるのだろう。他人と接するのが怖かったが、バルトー相手にはそれを気にする必要が無いのだと思うと嬉しくなる。

 ぼんやりと空を見るバルトー。

 明日には、何色になるのかなぁ。ちょっとなら期待してもいいよね?

 ユーリアは、久々に楽しい気分になっていた。


 翌日。

 ユーリアは目を丸くした。

「おはようございます。王司書」

「……おはよう」

 バルトーの頭の上には、青く澄んだクラウンが、緩やかに波打ちながら輝いていた。

 青って、何だっけ?

 悪感情で無いのは確かだ。しかし、ユーリアはあまり見た記憶が無かった。

「どうされました?」

「あ、何でもない」

 ドアを開けたまま硬直していた体を、慌てて動かす。

 冷静?無心?

 歩きながら、それっぽいものを思い浮かべてみる。

 随分昔、見た気がする。しかし、いつ見たか思い出せない。

 ユーリアはいつもの流れで、図書館のエントランスに来ると、大扉の状態を確認した。

 鍵は身に着けているが出さない。バルトーを信用していない訳ではないが、用心に越した事は無い。

 手で触れ、鍵穴の周りなどを確認する。異常が無ければそれで終わり。

 中の本にユーリアが触れる事はまずない。安易に調べもので使っていい様な代物ではないのだ。

「今日も異常なし」

 バルトーは、この言葉を聞くと、一礼して毎日外へ出て行ってしまう。昼食が終わるまで帰ってこない事が常だった。

 この時間帯に侵入者が現れた事が無いからだろう。何処かで、剣の鍛錬でもしているのかも知れない。

 今日もそうなのだと思っていると、バルトーが背後から動かない。

「いいよ。外に出て」

「私は護衛です。お側に居ます」

「……え?」

 無表情にバルトーはユーリアを見下ろしている。

「剣の鍛錬は?」

 大好きなんじゃなかったっけ?

「早朝に済ませました。今まで、お側におらず申し訳ありませんでした」

 何、この礼儀正しい人。

 無視でもなく、嫌々でもなく、口を聞くバルトーに、ユーリアは驚く。

「どうしちゃったの?」

 バルトーは、ユーリアの言葉に、一瞬だけ眉をハの字にしてから、再び表情を引き締めた。

「あなたが、どういう人物であろうと、護衛する事が仕事だと言うのに、私はそれを怠りました。……反省しているのです」

 青のクラウンは、しょんぼりか!

 ふと思い出す。熱を出しているとき、朦朧とした意識の中で見た、家族の頭上のクラウン。確か、こんな色だった。

「いいよ。そんなに落ち込まないで」

「そうはいきません。あなたが言葉通り、か弱い女性であるなら、守る必要があります」

「だから、四年ここに居るけど、護衛なんていらなかったんだから」

 ユーリアが不満げに言うと、バルトーは子供に言い聞かせるように言った。

「だったら、これからは必要なのです。あなたがそう思わなくても、殿下がそうお決めになったのですから」

 そんな訳ない。ユーリアだって、王太子から話は聞いている。

「あなただって分かっているのでしょう?賊を納得させる為にあなたが来たって事」

「あなたに倒され、自分を見失っていました」

 一瞬目を閉じ、意を決したように、バルトーは言った。

「昨日、冷静になって考えたのです。考えれば考える程、おかしな気がしてならないのです。私はこう見えても、王宮騎士団の中でも副団長を務めています。閑職の護衛をする程暇ではありません」

「副団長!」

 ユーリアは驚く。こんなに若いのに、そんな偉い人だと思わなかったのだ。

「何故、私なのか分からないのです」

 あなたの精神構造が普通の人と違うからじゃないの?とは、思っても言えなかった。王太子には、クラウンが見えないのだ。それなのに、彼を選んだ。

 副団長だったなんて。この一か月さぞや辛かっただろうと思うと同時に、申し訳なくなった。そんな凄い人に茶飲み友達を頼んでいたとは。

 バルトーを、閑職とも言えるユーリアの護衛にする意味は、噂の為とは言え、勿体ないと言うか、大げさと言うか……。

「もしかして……知らない何かがあるって事?」

 バルトーは頷いた。

「不測の事態を想定して、殿下は私を王司書の護衛にしたのではないかと」

 そんな馬鹿な、と思う。

 でも、切り捨てる事の出来ない考えだった。

「こんな所で立ってする話じゃないわね。来て」

 応接室に向かうと、バルトーは黙ってついてきた。

 お茶を入れ、茶菓子を用意する間、黙って扉の前に立ち続けるバルトーの様子は、本当に精鋭の騎士らしい姿だった。ちょっと前の不貞腐れていた頃とは大違いである。

 とりあえず、座るのを拒否するのを、何とか座らせる。

「ねえ、どうしてそんな風に考えたの?」

「四年も護衛が居なかったのですよね」

「ええ」

「今更護衛を置くのは、おかしいです」

「私じゃ、事態が鎮静化しないから……」

「そもそも、それがおかしいと言っているのです」

 ユーリアの言葉に言葉を被せたバルトーは続ける。

「図書館に入り込む隙が無いと言う噂を大々的にばらまくなら、王宮図書館の周囲を騎士に徹底的に巡回警備させ、入り口に門番を置く方が良い筈です」

「確かにそうね。でも、騎士が沢山必要になるとしたら、それはそれで面倒なのではなくて?」

「面倒……ああ、そうかも知れません。志願者を募れば喜んでやる者があっと言う間に集まって、定員オーバーですよ。……ええ、間違いなく、くじ引きですね」

 何だか遠い目でバルトーは告げた。どうやら、愛国心の塊の様なマッチョが王宮では余っているらしい。

「騎士の癖に、勝ち抜き試合とかで決めないの?」

「私闘は禁止されています。有志を募る場合はくじ引きが定番です」

「あ、そう……」

 軽く頭を振って、思考をもとに戻す。

 確かに騎士の数が足りているのならば、バルトーの考えているやり方の方が、効率がいい。ユーリアにとっても都合がいい。

「それであなたは、私個人に護衛が必要なのではないかと考えた訳ね」

 バルトーは頷く。

「あなたの力は、こう言っては何ですが、公表すべきではありません」

「そうね」

 感情を見られるのは、不愉快だっただろう。

 そう思うと、視線が下がってしまう。

「ごめんなさい」

「あ、その」

 バルトーが慌てる。少し困った声音に顔をあげる。

 視線をかすめたクラウンの色は、さっきよりも少し白く濁って見える。反省とは違う。水色は……

 そして思い出す。心配の色だと。

「そうではないのです。正直、見えたとしても、私は人の感情なんて見たくありません。そんなもの見えても生き辛いだけですから」

 ユーリアはそんな風に考えた事が無かった。ずっと見えている、当たり前のものだから。

 でも言われてみれば、黒い霧は自分の身を危うくしたし、家族も相当神経をすり減らした気がする。

「生き辛い、か。そうかも知れないわね。でも私、そんなに細かく見えてないのよ」

「どういう事ですか?」

「私に見えるのはクラウンの上の波立っている部分と色だけだって事。多分、それで表現しきれない感情は見えていないわ」

 バルトーのクラウンは相変わらず心配の水色だ。本当なら他にも様々な感情が、内部でひしめきあっているだろうに。

「私には、一番表面に来ている感情しか見えないのだと思う」

「本当に、それだけですか?」

 ぎくりとしたが表面上は平静を装う。

「それだけよ」

 黒い霧の事は、まだ言えそうになかった。

 バルトーの事は、今の対応でも、十分信頼できると思っている。

 しかし黒い霧は、ユーリアにしか見えないのだ。剣の腕があっても、どうにかできるとは思えない。

「それで、何から守るのか、目星は付いているの?」

「それが分かれば苦労はしません」

「頼りないわね」

「すいません。ですが、王司書の身を守らせていただきます」

「まぁ、がんばってね。とりあえず、今のところはお茶の相手をしてちょうだい」

「はぁ……」

 この人は、本当に生真面目で優しいのだと改めて思う。

 顔が好みで生真面目で優しい……それで騎士団の副団長だなんて。本当に恋愛小説に出てくる騎士みたいだ。

「ねえ、副団長って言っていたけれど、どうしてそんなに早く出世したの?」

 二十歳の騎士なんて、掃いて捨てる程居る。

 王宮に居るだけでもエリートなのに、どうしてそんなに早く昇進したのか。

 バルトーは少し複雑な顔をした後、悲しそうに言った。

「上司でも先輩でも、頭に筋肉しか詰まっていない人が一杯居まして……仕方なく若輩ですが私が拝命しました」

 ユーリアも悲しくなった。

「苦労、しているのね」

 勉強しないで筋肉ばかり鍛えて、増えた筋肉は脳まで到達したのだろう。本人が望んでそうなったのだろうが……何だか悲しい話だ。

「今も、私が居なくなった穴を埋めている人に、昼食の都度相談を受けていまして」

 それで午前中は詰所に通っている訳ね。ユーリアは納得した。

 今対話して分かったけれど、バルトーは頭が切れる。本人の言う通り、閑職の護衛なんて、脳筋のやりそうな仕事をする人ではない。

 彼を失った騎士団で、後任はさぞや大変であろう。

 そうは言うものの、副団長に復帰して欲しいとは思わなかった。申し訳無く思うけれど、脳筋の騎士では、これほど話しやすくないだろうから。

 バルトーとは、ちょっと親しくなれた気がする。一緒に居る時の居心地が随分と変わった。

 この顔が笑うのを早く見たいな、と思った。

「ところで……」

 バルトーは少し言い辛そうに言った。

「王司書は、外出を禁止されているのですか?」

 思いがけない言葉に、ユーリアは首を横に振る。別に禁止はされていない。町へ行くなら許可が必要かも知れないが、そんな許可も取った事が無い。

「そうですか」

 バルトーが何か考え込んでいる。

「どうしたの?」

「王司書は、ここに四年務めておられて、外へ一度も出なかったのですか?」

 出なかった……。

 思ったけれど言えなかった。人から見れば、異常な事なのだと思うから。

 バルトーのクラウンを見るのが怖くて、目を伏せる。すると、バルトーの顔は見えないが、気遣った声が聞こえた。

「王司書は、仕事熱心なのですね」

「違うの。私はただ」

「辛いなら言わなくていいです」

 言葉を被せられ、顔をあげると、バルトーの頭上のクラウンが青と淡い緑の縞模様になっていた。黒くない……。

「能力のせいで、辛い思いをされたのですね」

 改めて目を合わせると、その目がとても綺麗な事に気づいた。バルトーはまっすぐにユーリアの目を見ていた。

 本来、クラウンの見えない人達は、目を見て対話している。ユーリアの家族だってそうだった。

 それなのに、クラウンばかり見て、恐れてばかり居た。この人は、私を見てくれていたのに……これではバルトーに失礼だ。

 この日以降、ユーリアはできるだけバルトーのクラウンを見ないようにしようと決めた。

 バルトーのクラウンが、いつか黒く濁って、自分を苦しめるかも知れない。

 けれど、この人なら仕方ないと思ったのだ。


 それから、特に何も無いまま、半月程過ぎた。

 茶飲み話は、歴史や政治や経済の話にまで発展した。

 王司書をしているだけあって、ユーリアは博識だ。経験で知っている訳ではないので、頭でっかちと言えばそうなのだが。

 バルトーは茶飲み話ばかりではつまらないと、体術を教える事を提案し、ユーリアもそれを喜んで了承した。

 そして結果として、攻撃の意思を持って接しなければ、ユーリアはそれを返す事が出来ず、無力な女性なのだと、バルトーは思い知る事になった。

 型を教える為に体に触れる際、腰や太ももなどにうっかり手が行ってしまっても、ユーリアは顔を真っ赤にして慌てる事しか出来なかったのだ。

 恥ずかしさのあまり、拳を振り上げて叩きに来る事もあったけれど、それも全然痛くない。……弱い、弱すぎる。

 そういう姿を見てしまった事もあり、バルトーは余計にユーリアを護衛しなくてはならないと思い始めていた。

 もし、ユーリアの能力を無視した攻撃方法を持つ敵が現れたら、ユーリアは抵抗できないからだ。

 バルトーはその手段のいくつかを考え付いてしまった。

 王宮図書館を破壊する意思で、侵入者が現れたら……爆薬を建物に仕掛けるなどされれば、ひとたまりもない。

 他にも、ボウガンの様な飛び道具は威力もさることながら、その速度からしても、体術で返すのは非常に危険だ。背後から狙われれば、即座に対応するのは難しい。

 他にも、毒の塗られた武器に触れたら、などなど、今までよく無事だったと思ってしまう。

 そういう訳で、バルトーが今までが運が良かっただけなのだと力説すると、ユーリアは笑った。さも嬉しそうに。

 これからは、バルトーが居るから大丈夫だね、と。

 思わずその顔に見惚れてしまう。

 透明で無邪気な笑顔からは、純粋な好意と信頼が伝わって来る。

 心がむずむずして、何とも言えない気分になる。

 王宮騎士団の副団長として、分かりづらい言葉足らずの団長の言葉を翻訳し、戦略を練ったり、配属を考えたりする日々は、充実していた。

 だから最初は戻りたかった。自分が居なければ、騎士団は機能しないのではないかと心配で、毎日できる限り詰所に足を運んだ。

 しかし、脳筋には脳筋なりのコミュニケーション方法があり、それなりに何とかなっている。……事務仕事がもの凄くたまっているらしいが、そんな事まで面倒は見切れない。

 自分にしか助けられない人が居る。

 バルトーにとって、ユーリアは放っておけない存在になっていた。

 人の感情を見る能力。それは人の悪意を見る力でもあるのだ。ユーリアの心の傷は想像を超えて深い。四年もの間、図書館から出なかったと言うのだから。

 開け放たれた鳥籠から、出ようとしない小鳥を連想する。

 飛べない小鳥の様なユーリアを放って置くのは嫌だった。

 若い女性なのだから友達と話をしたいのではないかと思う。堅苦しい話ではなく、服装や装飾品などの話だ。

 ……こんな、厳つい騎士相手ではそんな話も出来ないだろう。だから学者みたいな話ばかりしているのだ。

 いつも質素な服装をしているが、綺麗な服や装飾品が嫌いでない事は、身に着けている物を見れば分かる。ネックレスやブレスレット、イヤリング、髪飾りなど、派手にならない程度にいつも身に着けているからだ。

 せっかくなのに、見せる相手がバルトーだけなのが可哀そうになってしまう。

 気の利いた言葉など出ないから、一度もそれらを褒めた事が無い。女性同士なら、気楽にそういう事を褒め合ったりするのだろうが。

 彼女には、友達が居ない。それどころか、仲間も同僚も、かつて一緒に暮らしたと言う家族すら見当たらない。ここには誰も来ない。

 そしてユーリアも、何処にも行かない。

 ユーリアは何とも思っていない様子だが、バルトーの方が辛くなる。自分には仲間が居る。詰所に行けば、誰かしら声を掛けてくる。自分も声を掛ける。

 うっかり発言で喧嘩になったりもするが、どうでも良い話をして笑ったり、情報交換をしたり……。景色を見て散歩をしたり、動物と戯れたり、祭りに参加したり……。

 世界には、様々なものが溢れている。決して悪いものばかりではない。

 ユーリアは知らない。知ろうともしない。

 心を閉ざしていたユーリアが、バルトーには興味を持ち、近くに置いてくれている。

 自分がきっかけとなって、他の人間とも関係を築けるといいとバルトーは思っている。

 ある日、夕方になって、ユーリアの顔色が変わった。

「何か、来るわ」

 久々の侵入者だった。

「どちらですか?行ってきます」

「私も行くわ。……何だかおかしいの」

 それなら、余計に来てはいけない気がして、バルトーは部屋に居る様に言ったが、ユーリアは聞かなかった。

「一人になるのが怖いの」

 ユーリアがこんな事を言うのは初めてだった。明らかに、異常事態だった。

 バルトーは彼女の頼みを聞き入れて、一緒に侵入者の居る方へと向かった。

 侵入者が居たのは、城壁に面した中庭だった。

 一目見て、ユーリアの予感の正しさをバルトーも理解した。禍々しいとはこういう者の事を言うのだと思った。

「いやぁ……ここに入るのは苦労しましたよ。今も気分が悪いですしね。天使の聖域なんて、入りたくなかったのですがねぇ」

 にっと笑う、軽薄そうな男の口には牙が見える。洒落た紳士の様な出で立ちをしているが、目が赤く光っている。

「半魔……」

 バルトーは見た事が無かったが、多分間違いない。

 天使の末裔が存在する様に、悪魔には下僕となる者が存在すると人々は恐れて来た。

 どうやって生まれるのか分からない。普段は人と同じに見える。しかし本性を現すと目が赤く光り、異形の姿に変わる。そして魔の力……魔法を駆使する。

 彼らは国を持たず、暗躍する。ただ滅びの為に。

 エスライン王国の王宮は天使の聖域だ。人には無害でも、魔の者にとっては、身を亡ぼす可能性のある場所である。だから、半魔は侵入できないとされていた。

 この半魔は恐ろしく強いのだろう。気分が悪いと言いつつも、平然としている。

「お初にお目にかかります、ユーリア様。私はムシュラム。しがない半魔にございます」

 バルトーの存在を無視して、半魔、ムシュラムはユーリアに向かって優雅にお辞儀をした。

「ご丁寧にどうも。でも、帰ってちょうだい」

 気丈に振る舞っているが、声が震えている。

「そうはいきません。あなた様には、私と共に来て頂きます」

 バルトーは、ムシュラムを討つべき相手だと認識する。しかしムシュラムは、バルトーを見向きもしない。

「ああ、美しい」

 うっとりと言うムシュラムを、バルトーの剣が切り裂く。しかし傷は一瞬で元に戻っていく。

「加護の無い剣で私は切れませんよ」

「バルトー!」

 ユーリアの叫びに反応して、とっさに飛退く。すると、バルトーの居た場所の下草が枯れてみるみる朽ちていく。

 これが、半魔の使う魔法なのだろうか。血の気が引く。ユーリアには何か見えたらしいが、バルトーには全く見えなかった。

 ユーリアの能力で何とかできないかと、彼女を見ると、青い顔をして周囲を見回している。……ユーリアの能力でも、魔法は相手に返す事ができないのだ。

 どうしようか考える。

 とりあえずユーリアの傍に移動する。護衛の基本として、敵と護衛対象の間に自分を置く。

 今の状況はまずい。半魔の存在は知っていても、知識がバルトーには一切無い。

 彼女を連れて逃げるべきだ。問題は逃げ切れるかどうか。瞬時に思う。無理だ。

 では、自分が身を挺して何処まで時間を稼げるか、だ。

「逃げてください。あなたの部屋から王城へ!」

 バルトーが言うと、泣きそうな声が返ってきた。

「だめ。黒い霧が……」

 黒い霧?バルトーには見えない。しかし、ユーリアは続ける。

「あなたの側以外、黒い霧で一杯なの」

 ユーリアには不思議な力がある。何か見えているのだろう。彼女がそう言う以上、そうなのだと判断する。

 詳しく考える余裕はない。

「分かりました。離れないでください」

 バルトーは剣を構え直す。

「ふふふ。あなたの騎士が何をしても無駄ですよ。その綺麗な魂を主に捧げて、この国を消してしまいましょう」

 ユーリアが音を立てて息をのんだ。

 魂を捧げる?国を消す?このままではユーリアは……殺される!

 バルトーは疑問と焦りの中で、ムシュラムを睨みつける。

「楽しいでしょうね。この国を真っ黒に染め上げて……。たまらない」

 自分の肩を抱いて、ムシュラムは笑う。

「ゾクゾクします」

 ユーリアが思わずバルトーの背中にしがみつく。バルトーも歯を噛み締める。……これでは、まるで猫にいたぶられる鼠だ。

 剣は役に立たない。このままでは、勝てない。守れない。痛い程にそれが分かる。自分の不甲斐なさに、バルトーは激しく憤っていた。

「良く似ている。……ああ、素晴らしい。やっと欲しいものが手に入る」

「何を言っている?」

 時間稼ぎになるならと、問いかける。

「お前には関係ない。ここで死ぬんだから。さあ、ユーリア、こちらへ」

 伸ばしてきた手を剣で切り落とそうとしたが、剣は腕をすり抜けてしまった。

「いやぁ!」

 ユーリアがか細い声をあげると、

「王様パァンチ!」

 怒号と共に何かが飛んできて、ムシュラムを吹っ飛ばした。

 ムシュラムは受け身を取って、着地する。

 ムシュラムの立っていた場所には、白い翼を持つ国王が立っていた。

 翼をばさりと羽ばたかせ、爽やかに笑う。

「王宮に何か用かな?」

「何故こんなに早くお前が!」

 ムシュラムが忌々しそうに吐き捨てる。

「ん?カンだよ、カン。後、愛」

「お前、半天だからって、神の恩恵に依存して何も考えてないだろう!ちょっとは考えろ。こんな脳筋の支配している王国、滅ぼしてやる!」

「あははは。ムシュラム、何時の間に口が悪くなったの?ついでに私と同い年なのに、若作りし過ぎ」

「うるさい!ここでお前とやり合うのは分が悪い。今日は帰るが、必ず娘はもらいうけるからな」

 ムシュラムはそう言うと、走ってそのまま城壁を飛び越え、姿を消した。

「やっぱり半魔も人間なんだね。いきなり消えたりできないのか。そういう魔法、作れば恰好いいのに」

 呑気に言う国王を見ても、バルトーはまだ肩から力が抜けない。助かった実感がまだ無い。

 圧倒的な力の差。死んだと思った。

 ふと気づくと、小さな手が剣を構える指に恐る恐る伸びてきて、強張った指を剣から外していく。

「あ……」

 カランと音を立てて剣が手から落ちた。

「もう、大丈夫。大丈夫だから」

 言葉と共に、抱きついてくる温かい感触に、バルトーは胸が苦しくなった。

 苦い気持ちを吐き出す様に呟く。

「すいません。何も、出来ませんでした」

 ユーリアが、首を横に振る。大きく、何度も。

 国王が歩み寄って来る。

「そんな事はない。君がいなかったら、ユーリアは死んでいたよ。ありがとう」

 はっとして、バルトーはユーリアに抱きしめられたまま、頭だけ下げる。

「びっくりさせたね。私もびっくりしたよ。間に合って良かった」

 そう言う国王に、突然ユーリアが小声で呟く。

「お父様……」

 バルトーは驚いて顔をあげる。ユーリアはバルトーから離れて、国王に歩み寄った。

 国王は、ユーリアの頬を手でそっと撫でる。

「怪我は無いかい?」

 ユーリアがこくりと頷くと、国王は笑顔になる。

 国王の娘?王司書が?でも、王家の血筋の者は、皆翼がある筈なのに。

 そして気づく。国王とユーリアが全く同じ色の髪と目をしている事に。まとう雰囲気が似ている事に。

「バルトー・ロッソ。色々、聞きたい事もあるだろうけれど、私は説明があまり上手くないのでね……後で王妃を寄越すから話を聞いてくれるかな」

 国王は、静かに告げる。

 バルトーはただ黙って頭を下げた。ちゃんと説明してくれるなら言う事は無い。

「では、ユーリアを頼むよ」

 羽ばたきの音がして、国王は王宮へと飛び去って行った。筋肉が付いていて重そうな体なのに、軽やかに空を舞う。

 バルトーはそれを見送って、ユーリアを見た。……心細そうにぽつんと立ち尽くしている。

「中に入りましょう」

 バルトーが促すと、とぼとぼ歩きだした。

「部屋で休みますか?」

 力なく首を横に振る姿が痛々しい。あんな男に狙われたばかりなのに、一人になりたくないのは当たり前だ。

「分かりました」

 バルトーは本来護衛なので、主の背後を歩くものだが、今日ばかりはそうせずに、ユーリアの前を歩いた。ユーリアは、それについて来る。

 応接室に入ると、ユーリアをソファーに座らせた。そして自分も対面に座る。

 もう不敬だとは思わなかった。こうするのが当たり前になっていたから。

 王女だったのかと、改めて思う。

 そう言われてみれば、納得できる事も色々とあった。

 王宮に居て、異能を持っているのだ。聖性の高い何かである事は明らかだった。

 王司書と言う立場で、王族の管轄の建物に居る事だって説明が付く。王族なのだから当たり前だ。

「黙っていて、ごめんなさい」

 ユーリアはぽつりと言った。

 バルトーは大きく頭を振った。

「あなたが謝る事などありません。むしろ、護衛として不甲斐ない私をお許しください」

「そんな事ない。本当にあなたが居て私は助かったのよ。あなたの周囲だけが、正常な状態だったの」

 そう言えば、黒い霧で逃げられないとユーリアは言っていた。

「あなたには見えないでしょうけれど、周囲は黒い霧で覆われていたの。……その霧は、私にとって毒なの。あなたと離れてあの男に出くわしていたら、今私はここに居ないわ」

 自分が特に何かをした記憶は無いが、役に立ったらしい。剣技の様な目に見えるものが役に立った訳ではないので、複雑な気持ちだった。

「その黒い霧と言うのは、あなたの力と関係あるのですか?」

 ユーリアは頷き、昔見えた黒い霧について、毒にあたって倒れた事などを語った。

「お父様は、つたない子供の言葉から、黒い霧の存在に気付かれた。私は王家に仕える人と離されて、家族だけで育てられたの」

 ユーリアは王族でありながら、家族にひっそりと育てられたのだ。

 王女なのに、王女として公にされないまま。

 ふと疑問に思う。

「何故、王城を出たのですか?」

「お父様が、囮になってくれとおっしゃって、この役職をお与えになった。私は特に疑問に思う事無くここに来たの」

 脳筋を笑えないわね、とユーリアは自嘲した。

「十四の私は、何も考えていなかった。……生活が変わって、楽しかったのは最初の頃だけ。大々的に私の存在が明かされてしまったから、元の暮らしには戻れなかった」

 親元に戻りたかったのだろう。十四歳なら、当たり前だ。こんな殺風景な図書館でたった一人、暮らすなんてバルトーでも嫌だ。

 国王は、ユーリアを甘やかすだけ甘やかして、突き放した事になる。

 しかし、そんな無慈悲な事をする方ではない。バルトーは、この部分にこそ、ユーリアも知らない事情が含まれているのだろうと考えた。

 そういえば……国王は、王妃から話を聞けと言っていた様な。

 え?王妃って一度も会った事が無いぞ。確か、病弱で公務を休んでいるのでは?

「どうしたの?」

「その……妃殿下は大丈夫なのかと」

「病弱って言うのは、嘘。私を育てる為の方便ってやつ」

 バーン、トタトタトタ!

 何処かの部屋の扉が開いて、何かが近づいて来る。

 バルトーが焦って腰を浮かせると同時に、扉が勢いよく開いた。

「ユーリア!」

 小柄な女性が部屋に入ってきた。……質素なドレスを着ているが一目で誰なのか、バルトーにも分かった。

 ユーリアは、明らかに母親似だった。顔つきから、小柄で華奢な所まで王妃そっくりである。

「お母さま、走ってはだめです」

「だってユーリアが、ムシュラムに襲われたって陛下が言うんですもの!呑気になんてしていられないわ」

「大丈夫です」

「当たり前よ!本当に心配したんだから」

 王妃は、全く病弱ではなかった。


 城下の宿の食堂で給仕をしていた王妃は、動きがユーリアよりもきびきびしている。

 王妃としては、ちょっと問題がある所作だ。もっとゆったりと動くべきだろう。しかし既に四十路を超えている。手遅れだろう。

 ユーリアの隣にぼん!と勢いよく座ると、王妃は笑顔でバルトーに言った。

「今回はユーリアを守ってくれてありがとう。ああ、座って、座って」

 腰を浮かせた勢いで立っていたバルトーは、恐縮しながら座る。

「さて、バルトー・ロッソ。あなたに覚悟はあるかしら?」

 覚悟……。ユーリアは唐突な言葉の意味を考える。

 そして、思い至った。バルトーは今、分岐点に居る。これ以上関われば、彼は自分のせいで命を落とすかも知れないのだ。

 ユーリアは怖くなった。

 青い顔をしているユーリアをちらりと見てから、バルトーは苦い表情で言った。

「お役に立てるかは、分かりません。結局、国王陛下に助けていただきました」

 恐ろしい経験だった。ユーリアも何も出来なかった。

 ユーリアはあそこまで自分が役に立たないとは思ってもみなかった。ただただ怖かった。そしてバルトーに縋ったのだ。結果、バルトーは命を投げ出そうとしていた。

 もうあんな思いはしたくなかった。

 しかし、彼はきっぱりと言った。

「けれど、負けっぱなしで逃げる気もありません。出来る事はやらせていただきます」

「バルトー!」

「よく言ったわ。男の子はそうでなくちゃ」

 焦るユーリアを無視して、王妃はにっこりと笑った。

 ユーリアは叫んだ。

「下手をしたら死ぬのよ!」

「死を恐れて逃げる騎士なんて、この国には居ないわ」

 王妃の言葉に、バルトーも頷く。

「ごめんなさいね。無粋な真似をして」

「いえ」

 怖い事を勝手に決めないで。命がかかっているのに、なんでそんなに簡単に決めてしまうの?

 悲壮な表情のユーリアに王妃は告げた。

「ユーリア、あなたの気持ちは後で整理して。酷だけれど、待ってはあげられない。本当はもっとゆっくりと説明しようと思っていたの。けれど、そうもいかなくなってしまったの。ムシュラムが来ただなんて」

「あの、ムシュラムと言う半魔とは、どういったご関係なのですか?」

 バルトーの言葉に王妃は困ったように笑った。

「昔馴染みよ。……ムシュラムと陛下は恋のライバルだったの」

 ユーリアもバルトーも絶句して王妃を見る。

 王妃の表情が一瞬愁いを帯びたが、すぐに引き締められた。

「ムシュラムは陛下と同じくらい強い半魔で、この国では陛下しか抑えられないわ。今回、死人が出なかったのは、本当に幸運だったの」

 ムシュラムは言った。よく似ていると。……王妃の事だったのだ。ムシュラムは王妃に執着している。それは分かった。

 しかし、何故自分の出自がばれているのか分からない。幼い頃に仕えていた人々からでも情報が漏れたのなら、もっと早く来ていただろうに、今来るなんて。

「ところで、王族が男系なのは知っているわね」

「王女を授からない家系と聞いています」

「そうじゃないの。……王女は生まれていたのよ。ずっと昔から。ただ、育たなかったの」

 男系?王女が育たない?

 ユーリアは、自分に伝えられなかった情報に耳を傾ける。

「王女は翼を持たない姿で生まれるから、当初、弱くて育たないのだと考えられていたそうよ。しかし、原因が他者の手に委ねる為だと分かってきたの」

「王司書の言っていた、クラウン……ですか?」

「そう。人の抱く悪い感情が王女を殺す。翼を持たない王族だから、悪い感情をより多く受けて、王女達は命を失ったの。だから、私達はユーリアが生まれた時に決めたの。私達の手で育てようと。そして、無事にある程度育ったから、人の手も少し借りる事にしたの。……もし、王族として公に出すなら、全く人に接しない訳にもいかないでしょ?その準備として慣らそうと思ったの。しかし、ユーリアは体調を崩したわ」

「想定していたのではないのですか?」

「ユーリアは、人の嫌な感情のクラウンを見た程度では体調を崩さないのが分かっていたの。家族だって感情のある生き物ですもの。嫌な気持ちを持ったりもするわ。特に王太子とは喧嘩もしていたけれど、ユーリアは特に体調を崩したりはしなかったわ。だから、他者を入れたの」

 悲しい表情で王妃は続けた。

「翼の無い王女と言うのが、どれほど受け入れられないか思い知ったわ」

 王家の召使には、そこまで上り詰めたプライドがある。王妃は別にして、翼ある半天の世話をしたいのだ。彼らは半天の信奉者だから。

 そこで、普通の子供と変わらない姿の王女を世話させられたら……。

「私の、不義の子供を押し付けられたと勘違いする者が少なからず居たのよ。王女は居ない事になっていたし、翼も無いし。……最終的に彼らの悪意は、クラウンから溢れ出して、ユーリアを襲ったのよ」

「黒い霧ですね」

 ユーリアは、王族として見てもらえなかったのだ。翼が無く、前例が無かったから。そんな子供の世話は、召使いのプライドをひどく傷つけたのだろう。

「理解者も居たのでしょう?」

「居たでしょうね。けれど、ユーリアの病状は刻一刻と悪くなっていたから、黒い霧の存在を突き止めるくらいしか時間が無かったの。とにかく、全ての召使いをユーリアから遠ざけたわ」

 ユーリアは幼かった。言葉もつたなく、体力も少なかった筈だ。幼い我が子の命を守る為に、国王と王妃はそうせざるを得なかったのだ。そして心に大きな傷を負った。

「それから、私達は再び家族でユーリアを育てたわ。そして、いつか王族ではなく、普通の人間として外に出そうと決めたの。だから、勉強させて、自分で身の回りの世話をできる様にしつけたりしたの」

 勉強は、国王と王太子が教えてくれた。市井育ちの王妃は、家事全般を仕込んだ。

 やる事の無かったユーリアはそれをただ受け入れた。

 彼らは、教えられる精一杯を教えてくれていたのだ。

「でもね、私達は間違えていたのよ。……大失敗をしていたの」

「失敗とは?」

「この国の半天はね、たまに神の声を聞くの」

「天啓ですね」

「そう。今から四年前、陛下は天啓を受けたわ」

 四年前。ユーリアにとっても、大きな分岐点だった年だ。王司書になった年である。

「これ以上、王女を手元で育ててはいけないと言う警告だったのよ」

 ユーリアは言葉が出ない。ただ黙って王妃の顔を見た。

「どうしてなのか分からない。けれど、そうするしかなかった。だから大急ぎで王司書にして、王族の居住区から出した。十四歳なんて子供だし、人にも慣れていないから、いきなり市井に放り出す事もできなかったしね」

「囮の話は?」

「まぁ半分本当で、半分は王城から出す口実ね。当時内政が安定しなくて、どうするか考えていたから、それを利用したのよ。私は、ユーリアの顔を世間に知られるのは後々良くないと反対したのだけれど、陛下が最高のドレスを着たユーリアを見せびらかすのだ!と言って聞かなくて……自分の娘なのに、娘だって言えないのが辛かったのよ」

 気づけば、話の着地点が全く見えなくなっていた。

 普通の人として市井で生きていく筈だったのではないのか?親ばかな国王のせいで、それも台無しになったらしいが。

「失敗だと分かったという事は、天啓の意図が分かったのですね」

「ユーリアが王司書になってから、半魔が王宮に忍び込もうとしだしたのよ。聖なる結界のある王宮へ。今までは入れずに弱っているところを王宮の警備に捕まえられていたの。陛下と殿下には、ただの賊ではないのが分かるから、秘密裏に尋問して目的を吐かせると、皆一様にユーリアの魂を主に捧げるのだと言ったそうよ」

 半魔の主とは、悪魔の事だ。もう聞きたくない。

 ユーリアは耳を塞ぎたくなった。

「私達は、ユーリアを失いたくない一心で、家族の中だけで……半天の聖なる空間とも言うべき場所に閉じ込めて、ユーリアを育ててしまった」

 王妃はユーリアの肩を抱くと、小さく呟いた。ごめんなさい、と。

「ユーリアは、陛下達の聖性に感化されて、聖女に育ってしまったみたいなの」

 聖女。ユーリアも、伝説の存在として本で読んだ事がある。

 微笑みは魔獣すら魅了すると言う、神の愛し子。悪魔に捧げれば、どんな願いも叶う極上の生贄。悪魔は、聖女の魂の存在を魔界に居ても知り、強く欲すると言う。

「陛下は、これ以上家族だけで育てれば、悪魔が地上に出てくる可能性もあると言う警告だと判断したの」

 悪魔が地上に……考えたくも無い。世界が滅茶苦茶になってしまう。

 それにしても、聖女なんて伝説の存在で、本当に居たのかも怪しい。自分が本当にそんなものだとは、ユーリアには信じられなかった。

「聖女って、本当?」

「間違いないわ。半魔がそう言うのだから、悪魔にはあなたの存在がそう見えているのでしょうね」

 国王と王太子の魂の輝きに紛れてはっきりしなかったユーリアの魂の輝きが、少し離れた事で判別できる様になったのだろうと、王妃は言った。

「心配しなくても、聖女としての成長は止まっている筈よ。あれ以来、天啓は無いし。そうでなくては、あなたを愛して止まない陛下と殿下が、【ユーリア断ち】している意味がないじゃない」

 ユーリアをムシュラムから救った国王は、すぐに居なくなってしまった。

 兄である王太子も、いきなりやって来て必要な事だけ告げて、そっけなく去ってしまう。

 鬱陶しい程に自分を愛してくれていた相手の様子がおかしいのは分かっていた。

 しかし、見えるクラウンがいつもと変わりなかったので、それ以上考えなかった。……考えると寂しくなってしまうから、考えなかったのだ。

 彼らは、自分達が関わる事で、ユーリアの聖女としての存在価値が上がっていくのを恐れていたのだ。

「今回のお話を妃殿下から聞いているのも、そのせいですか?」

「私は人間だしね」

 自分はどうなってしまうのだろう?ずっとこのまま、ここで半魔におびえ続けるのだろうか。不安になる。

「半魔に狙われている以上、今は外に出す事は出来ない。でも、ユーリアをこのままにしておく事に、私は納得していないの。絶対に諦めない」

「お母さま」

「ユーリア、私達は、あなたを王女として公表できない上に、一緒にも暮らせなくなってしまった。可愛い娘のこの状況が我慢できないの。……だから、諦めないで」

 何を?混乱し、困惑している娘に、王妃は笑った。

「生贄になる覚悟はいらないって事」

 生きろと言っているのだと、ぼんやり理解する。死にたくはないけれど、生き残れる気がしない。

「それで、具体的に対策はあるのですか?」

 バルトーが恐る恐る言った。

「ええ。あなたにとても期待しているわ」

「え?」

「実はね、この図書館に普通の人が長く居ると、狂ってしまうのよ」

 ユーリアはぎょっとしてバルトーを見た。……狂っている様子は無い。

「天使の残した禁書、創生禄は、自動筆記で今も歴史を書き記し続けている。とても危険な書物で、陛下も中を見たのは一度きり。その後暫く寝込んでいたわ。頭の中に神を賛美する声が響き続けて、精神を攻撃してくるのだとか。抵抗力を持たない人間は、閉じていても溢れ出た神力で、じわじわと狂っていくらしいわ」

 創生禄は知っている。絶対に中を見てはいけないと言われたからだ。

 まさかそんな危険な書物だとは。

「私は、半天を体に宿した経験があるから、普通とは言い難いんだけど、ここでユーリアと暮らすのは止められたわ。危険だからって」

 バルトーが青ざめて絶句している。当たり前だ。

 どうやって選んだのか分からないけれど、王太子……兄は、危険を承知でバルトーをここに放り込んだのだ。

 王家の人間は、彼に酷い仕打ちをしている。

 それなのに、思わず見てしまった彼のクラウンは黒味を帯びない。この人はどうなっているのだろう?

「バルトー・ロッソ。あなたはここに居て大丈夫だった。半魔からもユーリアを守ってくれた。……今言えるのはそれだけよ」

 王妃は立ち上がった。話はここで終わりらしい。

 しかし、ユーリアの中でも、バルトーの中でも話は全く終わっていない。

「お待ちください」

「待って!」

 二人が立ち上がって叫ぶ。

「あなた達に私から話せる事はこれ以上ないの」

 ユーリアもバルトーも、納得できていないけれど、これ以上は教えてもらえないのだと悟る。

「ユーリア、絶対に諦めてはだめよ。バルトー、ユーリアをお願いね」

 王妃はそう言うと部屋を出ていった。

 残った二人は立ち尽くしていた。沈黙が重い。

 とにもかくにも、告げられた事実が頭の中でぐるぐると渦巻いていて、考えがまとまらない。

 怖いから一人になりたくないけれど、この空気も辛い。もう、どうしたらいいのか分からない。

 すると、沈黙を破ってバルトーが言った。

「部屋に戻ってください。少し休まれた方がいいです」

「……」

「部屋の前に居ます。何かあったら、声をかけてください」

 バルトーに悪いと思ったけれど、どうせ護衛ですから、とか言われてしまう。そう思ったら、色々と言う気が失せた。

 もう、余裕が無いのだ。

「お願い……」

 ユーリアはそれだけ言うと、部屋へと戻った。外にバルトーが居てくれると思うとほっとする。

 のろのろと着替えをして、寝台に潜り込んで、ぎゅっと目を閉じた。

 衝撃が大き過ぎて、考える事を放棄した結果、疲労に体が負けた。

 ユーリアは、いつの間にか眠ってしまっていた。

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