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rain dream

夏です。

どこかで見たことあると思っても読み切って下さいm(_ _)m

『…大切な人はいますか?』

その言葉が頭の片隅にこべりつくように残っていた。

今は…いや今でもなんとも答えられない。

『…大切な人はいますか?』

公園の真ん中で茜雲を見上げていた。

「………」

まだ答えの出ない事に焦れた感じに明るい茜空から雨が降り始めた。

移動すること無くその場で空を見上げ続けた。

雨が明けると傘をさした母親と雨具を着た少女がこちらに歩いてきた。



毎日がつまらなく怠惰で愚鈍な日々が過ぎていた。

そんな毎日の中、日本は梅雨に入っていき雨が毎日のように降っていた。

初めて彼女に出会ったのはそんな時期だった。

彼女は公園の真ん中で白い傘をさしただそこにいた。

何となく見つめていると彼女はこちらを見ないで語り始めた。

「…貴方には大切な人はいますか?」

彼女の声は冷めており何を言っているのか理解できなかった。

「…いないのですね」

確かに本当に大切な人がいるかと言われたらいないだろう。

だがそれを他人に言われるのはどうも釈然としなかった。

「君にはいるのか?」

だから同じ質問を彼女に返してみた。

「います…いえ、いました」

彼女は相変わらずこちら見ずに白い傘をさしていた。

「…ごめん」

なぜ彼女を見つめていたのかやっと理解できた。

彼女が儚げに見えたからだ。

その儚げさは切なくて一枚の美しい絵画のようだったのだ。

「謝る必要はありませんよ…だっていきなり質問をしたのは私なんですから…」

白い傘をクルリと回しながら彼女は振り向いた。

雨に当たり溜まっていた水滴が四方八方に飛び辺りに撒き散らした。

その内の数滴が当たったがあまり気にしなかった…いや彼女が予想以上に可愛かったからみとれてしまったのだ。

「でも、もし…貴方にそんな人が出来たら……いえ、気にしないで下さい…」

彼女は何かを言いかけたが止めた。

その瞬間、雨がきつくなり音と視界を完全に防いだ。

雨の勢いが弱まると彼女はどこにもいなかった。

「雨の精霊だったのかな」

つまらないギャグを言いながら止む気配を見せない梅雨の雨を見上げた。

「何黄昏てるの?」

「雨の精霊にあったんだ」

後ろから声をかけられつまらない冗談で返した。

「ほえ?そうなんだ。すごいね」

「…はぁ」

素直に信じた幼馴染みの女の子に軽くため息を吐きながら後ろを向いた。

「ほえ?どうしたの?」

「何でもないよ」

彼女は心配そうな顔をしたがそれをいつものように無視して横を抜けて歩いた。

別に嫌いな訳ではない。

ただ幼馴染みと暗い雰囲気になるのが嫌いなのだ。

…と言うのが建前で本音は人気者の幼馴染みの隣にいたくないのだ。

比較されるとか誤解されるとか言うのがではなくただ彼女の意思とは関係なく集まる人混みと視線が嫌いなのだ。

公園から出て交差路を抜けた所で幼馴染みの声が後ろからやっと聞こえてきた。

「置いてかないでよ〜」

「早くしないと学校に遅刻する」

彼女が嫌いどころかどちらかと言えば好きだった。

だからこんなにも仲良く学校に通っているのだ。

しかし…

「まって〜〜っ…」

嫌な音が聞こえた気がした。

おそるおそる振り返るとそこには血の海を作りながら横たわる幼馴染みそして少し離れた所でガードレールにぶつかり止まる車があった。

これが何かの冗談なら本気でやめてほしい…

その思いを嘲笑うように鮮明に記憶が先ほどの音を反復した。

幼馴染みの声、車の急ブレーキの音…モノがぶつかる音、そして雨の嘲笑うような音…

必死に否定したが記憶は鮮明かつ繊細に思い出された。

どのくらいその場に立っていただろうか?

分からないが少しの間だと思いたかった。

携帯を取り出し救急車を呼び出し彼女の隣に立って雨から彼女の体を守った。

彼女の顔を見て吐き気が込み上げてきた。

傘を彼女にかけて彼女から少し離れた排水口に胃の中のモノを吐き出した。

ひとしきり吐き終わると救急車のサイレンが聞こえてきた。

運ばれる幼馴染みと車の運転手の姿を見ていると救命師の手に施されて救急車に乗せられた。



大切な人は無くして初めて気付くと言うことを本当の意味で気付くのも無くした後なのだと初めて気付いた。

運転手の人は急ブレーキの衝撃で意識が飛んでいた以外は軽傷みたく今は病室で寝ていた。

緊急手術室の扉の向こうに彼女はいる。

いったいいつまでかかるのだろうか?

体内時計ではすでに十時間を越えている感覚がしていた。

「……っち」

たまらず毒づいたその時彼女の両親が入ってきた。

「あっねぇ娘は…娘は大丈夫なの?」

彼女に良く似た彼女の母親が俺の肩を揺さぶりながら叫び出した。

揺さぶりの中ただ指で指すことだけでしか応えられない自分がもどかしかった。

その指の先を見つめて母親は青ざめ手に力を込めて彼女が怒った時と同じような表情で睨んできた。

「なんで娘を守ってくれなかったの?なんで…」

母親の一挙手一投足が彼女の何気ない仕草に似ていた。

「止めないか。そもそも責めるのはこの子じゃないだろ…それに…」

「……そうね…はい」

父親の制止により母親は手を離しハンカチを渡してくれた。

意味が分からず差し出されたハンカチを見ていたら母親は苦笑いしながら「口」と短くいった。

母親の一言を聞いて口に手を当てると血がベッタリとくっついた。

良く見てみると制服にも転々と口から血が流れていた。

こんなに血が出るほど唇を噛み締めていたのに気付かなかった。

「そんなに気負わなくていい」

冷静に見える父親だが視線が手術中のランプから離れていなかった。

とりあえず血を拭い取ったが制服に若干染みになってしまったが仕方なかった。

頭を冷やすために外に出ようと彼女の両親に一言言って外に出た。

外は相変わらずの雨模様で青空を見せてはくれなかった。

でもちょうど良かった。

今はサンサンと輝く活気溢れる太陽とどこまでも澄みわたる青空よりも全ての罪や汚れを洗い流してくれる梅雨独特の雨の方を期待していたからだ。

誰もいない所で雨にうたれたくて駐車場に向かうとそこの中心で白い傘を回しているあの人がいた。

「貴方にもいたのですね…大切な人」

「いた…じゃないいるんだ」

いたと言う過去形の言葉に半ばキレかけに応えた。

「それでも灯火はもうすぐ消えます」

彼女は申し訳なさそうにただ現状を言った。

「消させない…例えどんなことになっても、弱々しくなっても守って見せる…ただ祈ることしか出来ないのがアレだけどね」と苦笑いしながら応えた。

「怒らないのですね?」

完全に現状を怒り罵り狂乱するものだと思っていたらしく振り返った彼女は驚きを隠せてなかった。

「もうそろそろ戻るよ…」

「あっ待って…貴方に権利をあげます」

彼女の声に足を止めてしまった…いや止められたと言う方が正式かもしれない。

「貴方の存在と彼女の灯火どちらが大切ですか?」

彼女の声は梅雨の雨の音を吹き飛ばした。

「彼女の灯火を取れば貴方は貴方が築いた今までが無くなります。そして貴方が自分の存在を取れば彼女は死にます…ただ早いか遅いかの違いを除いて…」

彼女が一言を発するごとに彼女が違う存在に思えてきて彼女の一角が異空間に思えた。

「貴方にこれを選ぶ権利を与えます」

そして彼女の最後の一言で梅雨の騒々しい音が蘇った。

「……を選ぶ」

彼女に向かって梅雨に消されそうになるほど小さな声だが確かな意思のこもった目で宣言をした。



『…大切な人はいますか?』

未だに彼女が言った言葉が離れない。

アレからもう十八年も経ったと言うのに忘れなれなかった。

後悔はしていた。

選んだ結果が本当に良かったか分からなかった。

だからただ結果に後悔だけが残っていた。

彼女とはあの日以降会えていないただバトンが渡されただけだった。

「こら待ちなさい!」

「きゃははママぁこっちこっち」

「もぉ待ちなさいよ」

目の前には元、幼馴染みの彼女と彼女の子供の頃にそっくりな女の子がいた。

これが選んだ未来…

大切な彼女が生きていればそれで良いと思ったこの未来…

あの時、大切な人が目覚めて会いに行ったときに交わした最後の言葉…

「貴方だれですか?」

その時に全てを理解し後悔をした。

自分を知っている人はどこにもいなくなった世界でただ後悔だけが止まった時間に残った。

あの時から疑問ができた。

あの選択は本当に正しかったのか?

今でも分からなかった。

ただ大切な人はいた。

あの時、あの瞬間にはでも今は…

とりあえず歩き始めた。

次にバトンを受けとる者を探すために…


コレ…アレだよな…と思った方、十中八九それです。

アナタには大切な人がいますか?

大切なら家族でも、友人でも、恋人でもいいんです。

もし…その人が危険な状態の時にアナタが助けるための力があるなら助けられますか?

例えその代償がアナタの今までの存在だとしても…

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