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4.※警告、ここから先は○○○ロに耐性のある方のみお読み下さい……

※前回の終わり方で察していただけたように、これから地雷原をガンガン踏んでいきます。

 ソッチ系の話が受け付けない方はぜひ、別作品の『さくらんぼライフ』の方だけ読んでいただけますようお願い致します。



 さて予防線を張ったところで、現実に戻りましょうか。


「○○○ロって言いなさいよ!!」


 ここからですか……キツいですね……。


「すみませんが、わたしはソレに対して耐性がないのですよ……」


「何でよ!? ほぼ毎日出しまくってる癖に!!」


「まくってませんよ!? 失礼な!! 何にしても好きにはなれませんよ……」


「どうして!?」


「だって汚いですし、臭いですし……」


 わたしがそういうと、彼女の目が潤み始めました。


「みんなそうやって、あたくしの悪口を……」


「いやいや貴女自身の事じゃありませんよ?」


 わたしは慌てて彼女の発言を否定します。


「そんなこと無い……。……今だってあたくしの事、「この子相当な【○ん○顔】じゃない、プッ(笑)」と思ってる癖に!!」


「思ってませんよ!?」


 だいたい○ん○顔って、どんな顔なのでしょう?

 むしろ見てみた……くないですね、ええ……。


「だったら何であたくしの作品だけ、自主回収されちゃったのよ…………」


 とうとう彼女は泣き出してしまいました……。


 ――彼女の言う自主回収とは?――


 ザックリ説明すると、作品に不適切なものがあり、どっかの偉い人達の指摘を受ける前に、出版社が市場からサッサと回収することを指します。

 彼女の作品の場合、読者の方からドギツいクレームがあり、担当編集さん以外の「そりゃそうなるわな……」という【こうなるの知ってた】感満載の、ある出来事の事をいいます。

 ごくごく一部のマニアックな趣味の方々の間で語られる、あの伝説について知ってる限りの事を語りましょう。



 出版社の雑誌に掲載されている作品がコミックスになると、加筆修正を行う場合があります。

 わたしもそうなのですが、「あの時はこれがいいと思っていたけど、今考えるとこっちの方がいいな」と思えば、担当編集さんとの相談の上、加筆修正を行います。


 加筆修正を行うと、コミックス出版時に何らかの形でそう記載するよう、ウチの出版社では取り決めています。

 それで彼女もコミックス出版時、帯に『大量加筆・修正しました☆』と書いてあり、今ではすっかり消え去った彼女のファンの方々の期待値が、否が応でも高まっていました。


 それというのも……、……その前に彼女の作品について触れましょう。

 彼女自身はどうも勘違いしているのですが、彼女の作品が評価されたのは最後の数ページの悪夢ではなく、コトに至る前の三角関係の巧みさにありました。


 「あの攻めとこの攻め、受けはどちらを選ぶのか?」「くぅそうきたか!」「攻めが受けにまわるとは!!」みたいな伏線が好評だったのです。

 実際ネットでは、「最後のアレ以外は最高☆」「ホント最後だけ、最後だけ何とかすれば世界と戦えるのに……」「○ん○さえ飛び散らさなければ神作だった……」という嘆きにも似た評判が飛び交っていました。


 オチが見えてきたところで話に戻りましょう。


 彼女が加筆したのは、排泄物の量でした。

 修正したのは、登場人物の悲しい過去やら、苦い思い出など重要な部分のカットです。


 出版社には「ナニを増やしてんだ!?」「そこ無くしたら感情移入出来ないよ!?」「最後のアレを削り取れや!!」「作者と編集はバカなのか!?」との電話が鳴り止まなかったそうです。


 極めつけはコミックス出版記念で雑誌に載ったインタビュー記事でしょう。

 彼女は記事の中で、コミックス出版のためしっかり専門家に取材を行ったとのことでした。


 その内容とは……、※ここからはその記事の一部抜粋です。


『あたくし、コミックス出版の折、ある部分についての取材を行ったのですよ!』


『そうなんですか! して、その内容とは?』


『もちろん、一人の人間が排泄できる最大量についてですわ!!』


『…………えっ…………? …………もちろん…………?』


『まぁ結局、テンションが上がり過ぎて、それより多く描いてしまったのですが♪』


 この雑誌も当たり前のように回収されたわけですが、ネット住民の怒りの炎に油を注いだのは言うまでもありません。


 出版社のホームページには「何の取材してんだ!?」「マジでそこじゃねぇよ!?」「しかも取材全く生かせてないじゃん!!」「取りあえずその専門家と作者連れてこい、ネットに顔晒してやるから!!」と熱いコメントで埋め尽くされていました。


 【日本で○○○ロがもっとも脚光を浴びた日】として、このコミックス出版日は選定されたそうです。

 すぐに取りやめになりましたが。


 伝説についてはここまでなのですが、彼女の近況についてもう少し。


 元ファンの方には分かりませんが、ウチの出版社の編集の方々は彼女の顔を知っています。

 彼女は編集部へ行くたび、後ろ指を指され、クスクス笑いの餌食になっているそうです。


 心が折れた彼女はスランプに陥り、良い作品が描けなくなったそうです。

 今わたしに見せようとしている作品も、何の躍動感もない「ただ排泄物が描きたかっただけでは?」としか思わせられないような超駄作です。


 これではネームが通らないのも無理からぬことでしょう。

 彼女はスランプ打破の為にわたしの意見を聞きたいようですが……、厳しいようですがこのような作品にコメントする価値はありません。


 わたし達は曲がりなりにもプロです。

 プロである以上、さまよえる同業者に差し出せる手などはないのです。


 ……友達なら別ですが……。



「さて、そろそろおいとまさせていただきますよ」


 わたしは未だ泣き止まない彼女にそう告げました。


「……えっ、ちょっと待って……。まだ早いでしょ……?」


 彼女は服の袖で涙を拭いながら、返答してきます。


「申し訳ないのですが、わたしはお兄様との二人暮らしで、夕ご飯を作らなければいけないのです」


 その前に買い物も済まさなければならないですし、時間的にはギリギリです。


「そうだったの……。ゴメンね、こんな【腐れ○ん○】の為なんかに……」


 ……さっきからチョイチョイ彼女は自分自身の事を排泄物に例えるのですが、何でしょう、めちゃくちゃコメントしづらいですね……。


「ちゃんと家まで……、それより買い物が先かしら……。じゃあ、行きましょうか……」


 彼女は死人のような身振りで玄関を出ようとしています。

 助け船を出すならここでしょう。


「……今日はもう帰りますが、明日以降またこちらに窺ってもいいですか? その……友達として……」


 最後のセリフ、我ながら小っ恥ずかしいですね……。


「え~嫌よ……」


 しかも断られるとは!


「……だってあたくしみたいな【道端のビチ○○】と、アナタのようなスーパー美少女とじゃ全然釣り合わないわ!」


「さっきから何度も汚い表現はやめて下さい! もうわたし達友達でいいではないですか? ほら同業者な訳ですし……」


 友達作りって大変ですね……。

 皆さんこんなに苦労しているのでしょうか?


「……やっぱ嫌……」


「わたしの事、嫌いなんですね……」


 あまり人に好かれる性格でない事は自覚していましたが……。


「じゃなくて【青天目詩音】と友達は嫌。……ライバルでいたいもの……」


「はぁ……」


「……【椿姫春リリア】様となら、友達になる。いえ、なって下さい!」


 何だかややこしいことを言い出しましたね。

 しかも様付けとは、全く友達感がありません。


「あの、様付けはやめて下さい」


「でもそれじゃ、あたくし達の力関係がアヤフヤに……」


「友達に力関係なんて必要ありませんよ!」


「じゃあ何と呼べば……?」


「……リリアでいいです」


「……リリア……様?」


「様は無しで!」


「り……リリア?」


「はい」


 わたしが返事をすると、彼女は飛び切りの笑顔になりました。


「あ、あたくしの事は【おいそこの!】とお呼び下さい!」


「それじゃ下僕じゃないですか!?」


「それでは、あたくしの事は何と……?」


「そうですね……えっと……」


 涙のせいか、瞳をキラキラさせて待ってくれている人に、こう伝えるのは非常に心苦しいのですが……。


「あの……名前、何でしたっけ……?」


 ……未だかつて見たことのない唖然とした人の顔が、そこにはありました……。

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