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vr.7

―――― 10:50 ――――


「くっ、さすがに人型の外装は高い・・・・」


「いい加減諦めろって、他に買わなきゃいけない物もあるんだぞ」


 渋い顔でショーウィンドウにへばり付くツカサを、呆れ顔でジュンが窘める。


「だよな、装備の買い替えもしないとそろそろマズイし、俺は予定通りこのドローン型にするよ」


自分でも無理を言っている事が分かっていたツカサはガラスから離れると、彼は右手に持つ商品コードの書かれた薄い電子ボードをジュンへと渡す。

ボードの画面には家庭用プリンターサイズの箱が映っており、その中央部にある窪みには大型の扇風機ローターが付いている。


「ほお、良いなこれ。俺はこっちにしたよ」


そう言いながらジュンが自分の電子ボードを渡してくるのでツカサはそれを受け取ってサンプル画像を表示させた。

そこには円筒形の頭に6本足が生えた画像が映る。

足の先にはゴムタイヤが付いており、速度面も良さそうな一品に見えた。


「妙に熱心に探していると思ったら、多脚を探してたのか」


「かっこいいだろ? 」


「あとで良く見せてな」


自慢げなジュンの問いにツカサはキラキラと輝く瞳でそう答える。

彼らはお互いに頷き合うとカウンターへ進み、電子ボードを渡す事で無事に会計を終わらして行く。


「さーて、次はお待ちかねのAIだな」


「だな。売ってるのは下のファクトリーだったか? 」


楽しみで仕方のないと言った風のジュンにツカサが一応の確認をすると、彼は問題無いと頷いた。


 彼らがいるのはフォート・ルーインズにある多目的商業施設であり、発掘現場を利用した上下に広がる多層構造物だ。

開発途中の為剥き出しの部分もあるのだが、人工物の通路とテナントが広がっている。

2人の他にも生産職を選んだ者がギラついた目で品を眺め、商人となった者は笑顔の下に張り付く猛禽類の様な目で獲物おきゃくさんを見ていた。


ちなみにこういった一般人向けのお店で働くプレイヤーはNPCに対して日本の誇る『お も て な し』技術で顧客満足度を満たしている。

中には本職もいるのだろうか、見事なセールストークで自店の高額商品を販売している者もいた。


「メイヤーさんみたいな経験を積む為にこういった大型施設に就職したプレイヤーがいるのは知っていたが、思ったより多いんだな」


 純粋な賞賛を上げるツカサに、ジュンが世知辛い現実を教える。


「そう言う人達も多いんだが、弾代や修理代が掛り過ぎて生活費の為にここでバイトしてる人もいるらしいぞ」



2人は悲しそうに目を細めると、少しだけ足を速めて目的地へと歩くのだった。


 それからエレベーターを使っていくつか下の階層へと降り、案内板を見ながら目的の店を探していた彼らは漸く電子部品を取り扱うショップへとたどり着く。

ショーケースの中には電子基盤や道具の類が並んでいる。

中にはスタッフ手作りの動物型ロボットなどが動いており、通りを歩くちびっ子達を引き付けていた。


「いらっしゃいませー」


相手は見えないが、呼び鈴で店内にお客さんが入ってきた事を知ったスタッフ達が挨拶をし、ツカサとジュンはその中の懐かしい声を聞いて顔をほころばせる。


「こんにちは、デクスターさん」


「お久しぶりです」


カウンター奥の作業台で伝票と思われる書類を書いていた線の細い男性に声を掛けると相手は作業を止めて顔を上げ、彼らの姿を見て微笑んだ。


「お、体験版以来だな2人とも。元気にしてたか? 」


デクスターと呼ばれた赤い制服を着た男は嬉しそうに笑い、其々と握手をした。

彼はチュートリアル時代に2人と交友のあったプレイヤーであり、今日の買い物に合わせて連絡を取っていたのだ。


「頼まれていた物は準備できてるよ。少し待っていてくれ」


デクスターはそう言うと裏の方へと向かい、少ししてから銀色に輝くアタッシュケースを2つ持って来た。


「それってジュラルミンケースってやつですか? 」


「いや、この世界の独自物質で作ったケースらしいよ。硬さはこっちの方が数段上らしい」


ジュンが興味本位で聞くと、彼は苦笑してそれをカウンターへと置く。

急かす様な2人を確認し、デクスターは鷹揚に頷きながらパチリと子気味良い音を立ててロックを外す。

すると中のクッションで守られていた小さな電子部品が顔を出し、ツカサとジュンの前にメニュー画面が現れた。


「さて、お客様。商品の確認をお願い致します。」


恭しく手を添えたデクスターに頷き返し、データを確認して行く。

ある程度見終わった所を見越して彼はずっと疑問に思っていた事を口にした。


「しっかしお前ら、AIなんていきなり買えるのかよ? 在庫があったから言われた通り準備はしてやったけど強盗なんて御免だぞ? 」


デクスターの問いでギョッとした他のスタッフを尻目に、ツカサとジュンは人差し指と中指で挟んだカードを気障ったらしく見せつけニッと笑う。


「「一括でお願いします」」


その言葉に今度はデクスター自身が目を丸くした。


「冗談じゃ・・・・ないんだよな? 」


 フレームに比べれば圧倒的に安いとは言え、それでもなかなかの値段がするAIの購入に踏み切るのは多大な勇気が要る。

交友関係が有るのでフレームだけでなくホームを買った事を知っていたからこそ驚いている彼に2人は種明かしをした。


「先日、大型ミュータントのハントに成功しまして」


 顔を綻ばせながらツカサが言うと、指の間でカードを遊ばせながらジュンが続く。


「今だけとは言え、経費を差し引いても懐が温かいんですよ」


その言葉に納得したデクスターは深く息を吐いた。


「なるほど、ギャンブルの成功組って訳か。だが最初はフレームのパーツを色々買うって言ってなかったか? 」


ツカサとジュンはその質問が来た瞬間渋い顔をし、デクスターは内心でしまったと思った。


「実は後日談が有りましてね、完全に悲鳴を上げていた機体を輸送機でファクトリーへ送った帰り道で小型ミュータントに追いかけ回されたんですよ。」


そう言って遠い目をするツカサをデクスターが笑いを堪えながら促す。


「積荷が無かったお蔭で何とかキャリアーでも逃げ切れたんですけど、その時の教訓から真っ先にここに辿り着きました。人手は多いほど良いって事に」


言い切った彼の肩をジュンが優しく叩き、何も言わずに頷く。


「話は分かった。まあこっちとしては金さえ払ってくれれば構わんよ」


苦笑するデクスターにカードを渡して精算を済ませ、拠点への配達日時を打ち合わせると2人はショップを後にした。

 その後フードコートで食事を済ませ、残りの生活用品を色々と買い漁り帰路に付いた時はもう日も暮れており、これ以上の活動が出来ないのでログアウトを選んだのだが、自然と操作中の指が鈍る。


「帰りたくない・・・・」


「止めろジュン、決心が鈍る」


震える声でそう呟く相棒に、しんみりとした空気を纏う親友が声を掛けた。

彼らはその後たっぷり1分の時間をかけて操作を終了すると、現実の体をゆっくりと起こして重い溜息を吐くのだった。




―――― 04:26 ――――


 ホームであるプレハブ小屋の窓から見える暗い大地を見つめ、ツカサは深く呼吸をする。

仕事を早めに終える事の出来たツカサは、昨日とは逆に1時間早くログインする事が出来たのだ。


「さーて、今日の予定はと・・・」


相方のジュンがログインするまでにまだ時間があり、特にやる事の無いツカサは切替の為に顔を洗うとメニューを開いてメールのチェックや前日のうちに作っておいた予定表を改めて確認する。

パストタートルとの戦闘で修理に預けた機体も、購入したAIやそれを搭載する予定の特殊ユニットも本日配送予定な事を恨めしく思う。


「最初だもんな。仕方ないよな」


自分に言い聞かせる様にそう言うが、他人が彼の顔を見たら間違いなく苦笑するぐらいには沈んでいた。


「っし、ちょっと動き回るか」


 時間的に街のショップも開店前である事や、事前に連絡していたジュンのログインがもう少し先である事から壁に掛けてある上着と鍵を掴んだ。

引き戸を開くと冷たく乾いた風が吹き込み、日中とは違った顔を覗かせる大地につくづくここが日本ではない事を認識させられる。

だがツカサはこの瞬間を非常に好ましいと思い、自然と顔が綻ぶ。

 自らよりも劣る相手に無力感を与えられるよりは、スキル等明確なデータで評価を受け、誰かの為に動けるこちらの方がずっとやる気が出る。

事実としてそう思う者は感情移入派のプレイヤーに多かった。


「ほんと、現実あっちの方ももう少し上手く行けばなぁ・・・・」


 ツカサは異世界げんじつの事を思い出しながら肩を落とし、重い溜息を吐くと顔を上げる。

彼はそのままハンガーの片隅へと向かい長期契約を結んだレンタカーへと乗り込んだ。


「まあ、嫌な事を忘れる為に娯楽があるんだし、ジュンが来るまで時間を潰しますか。」


 鍵を回し、自分の愛車とは違う重いエンジン音を響かせ、お世辞にも上等とは言えない椅子で、優しさの欠片も無い振動を身に受ける。

右手でナビを操作し、ミュータントが出現しない比較的整備された行路を選択すると彼はゆっくりと車を走らせた。

左ハンドルなので乗る度に違和感が大きいのだが、通勤で車を使っている以上慣れる日は一生来ない事に自然と苦笑する。

車がハンガーから見通しの良過ぎる辺り出ると、周りに誰も人がいない事を確認したツカサは少しずつ速度を上げ、暗い荒野へと走り出して行くのだった。





ツカサとジュンのリアルは睡眠時間は最低7時間を確保するタイプ。

コンディションの調整などがしっかりと出来ており、仕事も優秀。

頼られる事が多く、仕事が多い。

同僚からの信頼は厚い。


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