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vr.6

―――― 05:12 ――――


「お疲れ、んでもっておはよう。」


「おはよう。しかし早いな。」


先日、街を出発した2人は順調に狩りを続けながらセーフティーエリアへと向かい、狩りに熱中し過ぎてエリアに到着するのが遅くなった事を除けば、特に問題無くログアウトした。

ジュンは仕事が長引いたツカサより1時間早くインしており、早朝のゲーム内を2時間ほど堪能していたのである。


「俺が留守の間の収穫は?」


「徒歩で辺りを散策しただけだからな。1人だった事もあってタンクにほんの少し溜めただけ。」


そう言ってジュンは苦笑しながらタンクを渡してきた。

昨日の数値より少しだけ増えているが、やはり2人で集めた時に比べると少ない。


「まあスポーツとかストレス解消としては十分に楽しめたよ。」


「ゲーム本来の目的としては大正解だから良いんじゃないか? 」


彼らは話しながら携帯食糧を齧り、テントの解体やキャリアーの給油など、少しずつ荷造りを進めて行く。

他のプレイヤーもちらほらと見えるが、キャリアーとフレームを持っていたのは2人だけで、何故こんな所をわざわざ陸路で輸送しているのかと怪訝な顔をしていた。


「いたたまれないな。」


「さっきまでは人が殆どいなかったから気にしてなかったけど、これは辛い。ツカサ急ごうぜ。」


その言葉を皮切りに、彼らは急いで準備を終え、キャリアーで出発するのだった。



―――― 08:23 ――――


途中で何度か休憩を入れながら車を走らせ続けた彼らは、ようやく目標のいるエリアへとたどり着いた。

2人は機体を起こすと地面に降り、フレームを片膝立ちにしてコクピットを開ける。

ハッチ上部に搭載されているウインチ付きの昇降機ワイヤーで地面に降りると、キャリアーの荷台を下ろしてロックを掛け、またコクピットへと戻った。


『俺、次はジェネじゃなくてAIにするわ。』


『CPUじゃなくてか? 気持ちは分かるけど高いぞ? 』



CPUとはこちらの指示に従って決まった動作を効率よく行ってくれる安価なシステムだ。

ただし、内蔵されているプログラム以外のことは出来ないので必要に応じて買い足さなければならない。


AIとはその名の通り人工知能である。

デメリットとして導入費用が高価な事と、ある程度成長するまでは低品質CPUの様に動く。

しかしメリットとして、育てて行くとプレイヤーに合わせて柔軟な選択を取る様になるので非常に汎用性が高くなる。


掲示板では一時期『スカイネ○トの反乱が起きたら~』と騒ぐ者もいたが、育てた後に甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるAIの動画が上がって以降、一気に沈静化した。

映像内のAIが美人のお姉さんと幼女だった事が原因である。

その後有志の手により呼ばせ方は自由で、性別・人種を問わず、果ては人型を問わない事が発見され、高価な機体の中には性交渉さえ行えることが発覚し、一部の者達を大いに沸かせた。

成長値に制限があったとは言え、体験版からの引継ぎがあった1つである。


ちなみに動画内では、幼女が舌足らずにプレイヤーの事を『お兄ちゃん』と呼び、美女は喋らない代わりに微笑みを絶やさず、一心に尽くしていた事が高評価を得ていた。


2人も健全な男として美女が欲しかったのだが、最初からホームを借りる事を決めていたので、泣く泣く諦めたのである。



『確かに教育を始めるなら早い方が良いし、昇降は少し面倒だが、いきなり手を出すほどか?』


コクピット内の通信で、ディスプレイに浮かぶツカサの顔が少し疲れた表情をしている事に気が付いたジュンが聞く。


『大型だとな、片膝立ちさせても高いんだよ・・・・それを足かけと命綱があるとは言え、ワイヤー1本は怖い。後はお前の言うとおり効率だな。』


『あー・・・・なるほど、そりゃあ重要だわ。』


ツカサの解答を聞いたジュンは憐みの眼差しを彼に送る。

結局買い物の件は無事に帰れたらという事で保留し、彼らは仕事の再確認を始めた。


『大型は俺がやる。援護と周りの中型はよろしくな。』


『中型はともかく、俺の豆鉄砲が大型に刺さるのかねぇ?』


『気を引いてくれれば十分さ。』


『了解だ。言うまでもないが、お前はブースターの使い過ぎに気を付けろよ。』


目標が決まると2人は機体を歩かせてキャリアーから距離を取る。

乾いた荒野に刻まれる1歩がひび割れた大地を震わせ、足跡の形に凹んで行く。

ジュンの機体ガゼルが軽快に歩き、ツカサの機体エルクが辺りを賑わす。

正面ディスプレイに映る果ての見えない荒野が彼らに途轍もない冒険心を感じさせ、握っている操縦桿と両方のペダルに自然と力が籠る。


『その内、月とか火星が実装されるかもな。』


攻略組はいじんでも運営側でもない以上、俺達がアームストロング船長になる事は無いよ。』


高所からでも地平線まで広がる赤く焼けた大地を見たジュンがそう言うと、ツカサが少し残念そうに答えた。

ある程度まで離れるとブースターを搭載しているエルクだけに表示されていた危険表示が解除され、それを見たツカサは嬉しそうに言う。


『ジュン、待たせたな。キャリアーが危険域から離れた。』


『ようやくか・・・・それじゃあ、行こうぜ!! 』


ツカサの報告を聞いたジュンは、一度だけ深呼吸すると楽しそうな笑顔を浮かべ、ガゼルの脚部に搭載されたローラーダッシュを起動させる。

フレームの足元に砂埃を巻き上げ、ジワジワと体がシートに押さえつけらえる衝撃に耐えながら、馴らす様に少しずつ速度を上げた。

ある程度の速度まで達すると、軽く唇を舐めて一気に加速する。


それをモニター越しに眺めていたツカサも笑い、エルクの背部に取り付けられた6基のブースターを軽く吹かせた。

機体が浮かび、後方の石や砂を吹き飛ばしながら前方を走るガゼルを追う。

ある程度まで飛ぶとブースターに回せるエネルギーが減りだし、警告音が鳴る。

それを聞いたツカサは着地し、数歩走ってチャージすると、また軽く吹かせた。

その度にかかるGが気持ちよく、仕事が無ければずっと遊んでいたいと思うのだが、残念ながらそうはいかない。

それにブースターとジャネレーターの出力にも、まだまだ不満があるのだ。

実際、瞬間的な速度であればガゼルを超えるのだが、長く飛ばせない事から徐々に距離が開いて行く。


『置いてくぞー。』


『先に見つけてて良いぞ。』


エルクのモニターに映る、自慢気な顔のジュンが映る。

ツカサはつまらなそうに言い返すと、ジュンは笑いながら速度を落とした。

それから30分ほど捜索をしていると、遠くで明らかにサイズの違う山が動いている事に彼らは気が付く。


『当たりか? 』


『わからん。とりあえず俺が先に行くから援護を頼む。』


ジュンが速度を落としてツカサと先頭が入れ替わり、2人は注意しながら近づくと、そこにはツカサの機体よりも圧倒的に大きな亀が居座っていた。

その周りにはジュンの機体サイズがごろごろしている。


『やったなジュン。大きさは試験で戦ったやつより少し小さいか?』


『ああ。中型の方は前みたいにお前の機体サイズじゃないから何とかなりそうだ。』


ツカサは右肩の鞘に積んでいた大剣を抜き、ジュンは腰に積んでいたアサルトライフルを右手で取る。


『カメラは回したから、お前のタイミングで突っ込んでいいぞ。こっちは外からばら撒くだけだ。』


『わかった。行って来る。』


お互いに短くそれだけ交わすと、エルクのブースターが青白い炎を上げて、パストタートルの群れに突っ込む。

エネルギーの警告音が鳴ると共に、右手に持った大剣を大きく掲げ、通り道にいた中型の亀に振り下ろす。

首に落ちた鋭利な鉄塊は、その重量を遺憾無く発揮して大木の様な首を斬り飛ばす。

それを見届けると、また急加速しながら中型の間を縫って本命へと迫る。


だが、いくら元々の気性が温厚とは言え、命の危険を感じたミュータントが大人しくやられるはずもない。


「 ――――――!! 」


特に群れを率いるボスは情報通り気性が荒く、群れの1匹がやられた事に気が付くと、凄まじい雄叫びを上げた。

外部の音を拾うマイクは切ってあるのにコクピット内にも咆哮が響く。

それを皮切りに、中型の亀達はツカサの機体へと迫った。


『ジュン!!』


『わかってる!!』


ツカサを援護する為ジュンは中型に肉薄し、手足や頭などの柔らかい部位に対して数発ずつライフルを撃ち込んでまた離れる。

巨大な銃身から轟音が響き渡り、大きな薬莢が宙を舞う。

飛び出した弾丸は確実に肉を抉り、生命活動を鈍らせていく。

ジュンは注意を引きつけながら、こちらを向いた個体には確実に頭へと当てる事で1匹ずつ数を減らしていった。


ツカサは自分の囲いが薄くなると、大型の方向へ向けて進みだす。

目の前にいるパストタートル達の突進を盾で往なしながらブースターを使って道をこじ開ける。

巨体を動かすほどの熱量を受けた亀達は目や喉を焼いて苦悶に震え、甘くなった包囲をさらに突き進む。


それを何度も繰り返すと、ツカサはようやく目標であるパストタートルへと肉薄した。


『取りついたぞ!!』


『弾薬の残り60%! 急いでくれ!!』


お互いに内臓無線機に向かって怒鳴り合い、何が必要かを理解し合う。

ジュンは弾幕を張って中型を少しでも引き離し、ツカサは取りついた左前足に向けて大剣を振り下ろす。

返り血がエルクを彩り、怒った大型のパストタートルはその場で足踏みをして大地を揺らした。

バランスを崩したツカサに、二足歩行をするかのように立ち上がった亀の巨大な前足が降りかかり、ツカサはブースターを全開で吹かせることで腹の下をくぐる。

襲い掛かるGが身体をシートに叩き付け、モニターに映る景色が一瞬にして変わった。

亀の右後足へと抜けたエルクは、その勢いを殺さない様に、大剣で足を横薙ぐ。

激痛で咆哮を上げ、大亀がバラスを崩したことを確認すると、ツカサはブースターを全開にして亀の背中へと飛ぶ。


『見えてる! そのままやれ!! 』


少し離れた所で中型を相手にするジュンが、目標の背中に乗ったエルクに気が付く。

振り落とそうとする動きを見せない事を見た彼は、相棒に向かって叫んだ。

それを聞いたツカサは止めを刺す為に様々な情報を映すコンソールを見る。

6基のブースターも、そちらへ回すエネルギーも異常は無く、大剣の耐久地がイエローゾーンに入っている事を除けば問題は無い。


『おおおおおおおおおおお!! 』


左腕に装備している盾を外して甲羅の上に捨てると、ツカサは雄叫びを上げて背中からさらに空へと向かって飛ぶ。


「喰らええええええええええ!! 」


ツカサは大剣を両手で持つと頭上に構え、エルクを地面に向けて一気に走らせた。

ディスプレイに映るズームされた獲物はようやくこちらが空を飛んだことに気が付いたのか、ゆっくりと頭を上げようとするがもう遅い。

むき出しの首へ向かって、ツカサは大剣を振り下ろし、パストタートルは首の半分を切り裂かれる。

機体に掛る肉を割く感触の中に一瞬だけ硬い感触があるが、それを重量と速度で断ち切ると、ツカサはエルクの姿勢を正し、ブースターを使って減速した。

着地した瞬間、各関節部分を表すモニターがアラートを鳴らすが、それを無視して獲物を見ると、そこには首の半分を骨ごと断たれて瀕死になっているパストタートルの姿があった。

流れている血の量から、そんなに長くはない事が窺える。


『やるにはやったがアラートが鳴りっぱなしだ。戦闘継続はキツイ。』


『ばっちり見てたぜ。俺はこのまま中型の掃除をしとくから、お前は背中の上で休んでろ。あ、回収班を呼んでくれると助かる。』


彼らは簡単に言うと通信を切ってお互いに動く。

ツカサはもう一度亀の背中に戻り、頭と首の傷をセットで撮影すると、捨てた盾を回収して依頼用端末を使い依頼の達成報告を入れる。

その時に亀の写真を添付しているので実績なしとは言え疑われることは無いだろう。

ジュンは言葉通り、逃げずに残った亀の殲滅に当たった。


それから1時間程でユニオン所属の超大型輸送機が何機も現場に到着し、責任者が機体から降りてくる。

すでに中型も殲滅しているので、辺りに危険は無い。


「いや~、実にお見事ですね。このサイズを倒すどころか、周りにいた中型まで狩って頂けるとは・・・・一緒に来た輸送機では全部持ち帰れないので、早速応援を手配しましたよ。あ、申し遅れました。私、パストユニオン狩猟部門で査察官を務めておりますエイブラハムです。」


責任者の男はそう言うと名刺を2人に渡し、これから先大型を狩る事があれば、また会うかもしれない事などを伝える。

彼はツカサの持つ依頼用端末に首から下げている職員カードを翳し、自分が正規の職員であることを証明した。


「それなら、近い内にまた顔を合わせそうですね。」


「あと何件かは大型討伐依頼を受ける予定ですので、その時はお願いします。」


ツカサとジュンも軽く自己紹介すると、エイブラハムは嬉しそうに世間話をする。

情報が得られる事と、ユニオン内部に伝手が出来る事は純粋にありがたいので、2人は喜んで参加した。

何よりフランクな相手な事もあり、純粋に楽だったのだ。


「まったく、あのサイズのパストタートルが街に向かって歩いて来たら大惨事なんですがね・・・・」


中には予算が足りずに今回の様な大型が出てしまったという愚痴もあったが、中には他国の情勢など知らなかった事もあったので、結果としてはかなり良いだろう。

その後もいくつか話をしていると、エイブラハムは他のスタッフに呼ばれて仕事に戻って行った。


「目的不明の武装集団か・・・・ジュン、どう思う?」


「どう考えてもイベントだろうが、向こうが行動を起こさない以上、今は動き様が無いな。」


彼らは得られた情報の中で幾つか気になった事を話しあうが、結局今出来る事はお金稼ぎしかないという結論に落ち着き、エイブラハムたちに挨拶すると、キャリアーの場所まで戻る事にした。


キャリアー近くには別の大型輸送機が止まっており、端末を使って彼らがユニオンの正規クルーである事を確認すると、返り血と戦闘でボロボロになった機体を預ける。

このまま街で整備を受けさせてから、ホームに運んでもらう予定だ。

自分達はキャリアーが有るので陸路である。

ちなみに輸送部隊の彼らはエイブラハムと同時に呼んでいたので少しだけ待たせてしまったが、彼らによると短い方だったらしい。機内で軽くサボれたと笑っていた。

飛んで行く愛機へ手を振って見送ると、2人は車に乗り込む。


『ツカサ、帰るまでが遠足だからな。どうぞ。』


『お前こそ帰りの狩りでしくじるなよ。どうぞ。』


彼らは笑いながら無線を飛ばすと、帰り道のミュータントを狩りながらホームへ戻るのだった。



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