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vr.5

―――― 18:25 ――――


写真スクショを撮り終えた2人は部屋に戻ると、冷蔵庫で冷やしてあった瓶ビールを開けて乾杯する。

そのまま冷凍物のピザやフライドチキン等を温めると簡易なパーティを始めた。


「次のパーツは絶対にジェネレーターだって! 体験版の時に何回もガス欠起こしただろ! 」


「それはお前が最大出力でブースト掛けたからだろうが! 俺ならレーダーとミサイルだ! 」


いい感じで酔いの回って来たツカサとジュンは次の買い物について熱く語り合う。


ジェネレーターとは車におけるエンジンである。

他の国ではフレームも燃料を積んだエンジンを使うのだが、この国、パストカントリーは、遺跡発掘で大きくなった国であり、発掘された『機械』を動力として使っていた。

未だに原理が解明されていないのだが、自家発電する事と、大きなエネルギーを得られる事だけは分かっているので、動力部品として流通している。

その為、他の国と違いジェネレーターと呼ばれていた。


ツカサの希望は彼にとっての生命線であるブースターをもっと長く使う為に、フレームの心臓であるジェネレーターを交換する事であり、ブースターではなくローラーダッシュが搭載されている為、出力に問題の無いジュンは武装の追加を主張していた。

これについては個人のお金で何とかなるのだが、問題は次である。


「共同出資は当然としてだ、なあジュン、施設の拡張で欲しい物ってあるか?」


「ホームのガーダーとか航空輸送機も捨てがたいが、最速で欲しいのはオートの整備マシンだな。洗車までしてくれる奴が良い。次がキャリアーの運転手。」


2人はホームを借りた時に貰ったカタログを見ながら悩んでいた。

プレイヤーは依頼クエストに行けば留守になるし、ログアウトしても居なくなる。

その為『ガーダー』と呼ばれる、ホームを守るユニットなどを配置する必要があるし、現在の移動手段であるキャリアー1台ずつよりは、まとめて航空輸送機に乗せた方が早いし楽だ。

何より格好良い。

フレームを積んだキャリアーを自分で運転して、目的地の少し離れた所でデッキアップし、車両を放置して仕事に向かわないといけない現状を、彼らは余り格好良くないと、大いに気にしていた。


だがそれよりも必要としたのは、簡易点検してくれるメカニックで、スキル構成が戦闘に偏っている2人だとメンテナンス系は絶望的なのだ。

街の修理屋に出せば問題無いのだが、やはりある程度はホームで何とかしたいと考えるのが人間である。


「ミュータントの返り血を考えると洗車は要るよな。そうなると整備ユニットだけじゃなく、洗浄用水を入れたタンクに洗車場も増設してと・・・・うわ、3つ揃えると高っけぇ。でも最低ラインなら俺達の予算ギリギリで行けなくもないか。」


「ジュン、予定変更だ。大型ミュータントを狩りに行くぞ。今の予算だと確かに買えるが、それをするとお前は弾代の関係でしばらくナイフ一本、最低でも1マガジンになるだろうが。」


カタログを片手に計算をしていたジュンが、自らの出した数字で頭を抱えていると、それを見たツカサが迷わずに言い切る。

そのまま依頼用タブレットを起動し、目を付けていた依頼をジュンに見せた。



『 依頼名  : 大きなパストタートル

  依頼主  : フォートルーインズ地方安全保障部 

  参加条件 : 討伐依頼のクリア数10回以上

               or

         チュートリアルの中級クリア済(フレーム部門)


フォートルーインズの北部でパストタートルの異常繁殖を確認しました。本来であれば毎年ある程度の駆除を行っているのですが、ここ数年は前大戦の戦後処理に力を割いている為、駆除作業が思うように進んでいません。

依頼内容は、群れの中に確認された50mクラスの大型を狩って頂く事で、それよりも小さな他の中型を倒していただければ、その分報酬も上乗せします。

目標とされている大型のパストタートルは気性が荒いので十分に注意してください。 』


読み終えたジュンは渋い顔をするが、記載された報酬額と追加報酬が魅力的な事もあり、すぐに首を振らない。


「ツカサ、お前分かってんのか? 大型のパストタートルって言ったら、俺達が中級の修了試験で戦ったアレだぞ。」


「今日出来る事を、明日まで先延ばしにすべきでは無い。」


「俺達は偉人じゃねえって・・・・」


結局報酬の魅力に負けた彼らは、どちらからともなく苦笑し合うと、瓶に残っていた酒を一気に煽る。


「まーた、あの化け物とやり合うのかよ。馬鹿だぜ俺ら。」


「その馬鹿クラスを5回やれば、欲しい3点セットが揃うんだ。たぶん最速だぞ? 夢が溢れてて良いじゃねえか。」


冷めたピザを手に取りながらジュンがぼやくと、ツカサが笑いながら言う。

ちなみに大型の絡む依頼報酬は桁が1つ上がるので、件の3点だけなら3~4回で足りるのだが、修理代と弾薬代と目的地に向かうキャリアーの燃料代等を考慮したので5回としている。

彼らは依頼を受けると、他にもクリアできそうな仕事にチェックを付けておき、もう少し飲んでから眠るのだった。



―――― 翌 7:40 ――――


端末にユニオンからのメールが来ている事を確認したツカサとジュンは、顔を洗っている間に交代でメールを読む。

内容は依頼に対する最終確認と、有償だがサポートとして輸送機やオペレーター等を別に付けられるという内容だった。協力者の中には別のプレイヤーもいる。


「あると便利なのは間違いないんだが・・・・ジュン、どうする?」


「本音を言えば、往復の航空輸送とオペレーターが欲しい。」


航空輸送をしてもらえば移動時間が圧倒的に短縮でき、オペレーターは本部から連絡を受け取るので、運が良ければ目標の位置を早く掴む事も出来る。

ただし利用料は成否を問わず発生し、料金が報酬の数%なので、高い報酬で失敗するとその後に追い打ちをかけてくるのだ。


結局、悩みに悩んだ彼らは泣く泣くサポート類を諦め、依頼の契約を正式に結ぶと、食料などの荷物を持ってハンガーへと向かった。

ツカサはサイドラックに置いてある盾を左腕に嵌め、ジュンは左右の腰にライフルの予備弾倉を積み、左腕に盾を付け、右手でライフルを持つ。

順番にキャリアーへ機体を積むと、ツカサの持つ依頼用端末に仕事が受理された通知が届いた。


『こちら1号車、クエスト開始だそうだ。どうぞ。』


『2号車了解。まずは予定通りメイヤーさんの所に行こうぜ。どうぞ。』


『了解、それじゃあ先に出るぞ。以上。』


2人は車載通信機で連絡を取ると、マイクをコンソール近くのフックに掛けて発車する。

特大の荷物が有るので速度は出せないが、余裕を持ってホームを出たので、時間的にはかなり余裕があった。


―――― 10:38 ――――


フォートルーインズに到着したツカサとジュンは、積荷の検査を受けた後にキャリアーを専用の駐車スペースに止め、車両とフレームにパスワードなどのロックを作動させた。

2人は車から降りてメイヤーの店へ向かうと、事前に連絡していた通りいくつかの装備を借り受ける。


「本当に大型を狙いに行くんだね・・・・」


「あ、メイヤーさん信じてなかったんですか? 」


「提案した俺が言うのもなんだけど、最初は中型を狙うよな。」


苦笑いを浮かべるメイヤーに、2人は予想通りの反応だと笑う。

その後店長に挨拶をすると、彼らは店を後にしてキャリアーへと戻った。


「ジュン良かったな、念願の小銃を持てて。」


ツカサはジュンが肩に掛けているライフルを見て茶化すと、彼は肩を竦めて息を吐く。


「道中のミュータントでしっかりと憂さ晴らししてやる。弾薬も多めに買ったしな。」


彼はそう言って、上着のポケットと腰に付けたポーチを叩く。


このゲームでは鞄やポケットと言った収納アイテムには収納が可能な容量と大きさが設定されており、入れるアイテムの大きさが入れ物の最大値よりも低ければ、いくつ種類が増えても入れる事が出来る。

後は収納したアイテムの合計重量が、入れ物の容量を越えなければいい。

ジュンはそれを利用してアサルトライフルとハンドガンの弾倉を大量に入れているのだ。

ツカサの場合は散弾銃の弾を2種類とハンドガンのマガジンをポーチに収めている。


彼らの予定は、地図に表示される作戦エリアへ入るまでにミュータントを極力仕留め、借りてきた数個のエネルギータンクを満タンにする予定であった。

これは距離的に現実時間が日を跨いでしまう為、クリアが明日以降になる事からの選択である。


「セーフティーエリアまで真っ直ぐ行けば余裕はあるけど、狩りもするから急ごうぜ。」


「おう。後ろから来たら、ちゃんと援護してくれよ。」


セーフティーエリアとは、街やホームの外でもミュータントが襲ってこないエリアだ。

場所によっては給水所だけでなく、簡単な宿泊施設もあるのでPCにもNPCにも重宝されている。


「車上からじゃ俺の銃は狙えないからな。周囲の警戒は任せてくれ。」


ツカサはそう言うと自分の肩に下げている銃を軽く揺らす。

彼らはお互いに頷き合うと車に乗り込み、今度はジュンの先導で目的地へと向かうのであった。


・今日出来る事を明日まで先延ばしにすべきでは無い。

                   ベンジャミン・フランクリン

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