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「確認が出来ました、ツカサ様とジュン様ですね? 少々お待ちください。」
フォート・ルーインズの一角にある傭兵事業斡旋事務所、通称ユニオンに訪れた2人は依頼を受け取る為の専用端末を借りに来ていた。
彼らは受付のお姉さんから認識アイテムのドックタグを返してもらいスタッフ側の手続きを待っている。
ちなみにドックタグ以外にも種類が有り、カスタムショップのメイヤーはカードだ。
本来、家や武器を借りる為には先に登録を済ませないといけないのだが、体験版をプレイしている時に登録を済ましていた彼らにその必要は無く、初日からやりたい事をゆっくりとやっていたのである。
優良物件を引き当てられたのもこれが大きい。
「ツカサ、これで俺達も正式に最低野郎の仲間入りだな。」
「街の警護やミュータント駆除と正義の味方から始まって、他国からの破壊工作鎮圧や他国への破壊工作と歴史の裏側まで何でも来いだからな・・・・」
ユニオンには合法非合法様々な依頼が舞い込んおり、中には洒落にならないモノも多数ある。
体験版では国境付近でラ○カス事件さながらの大問題を起こしたプレイヤーもおり、あと一歩で戦争が勃発しそうな状況になった事もあった。
体験版だった事もあり、さすがに運営のてこ入れで最悪の事態は回避されたが、騙されて事件を起こしてしまった当事者達は、騙した連中への報復を決意し、その時が来たらテロリストへ落ちると明言している。
「お待たせしました。こちらが依頼専用の端末となります。」
プラチナブロンドが美しい、受付のお姉さんはそう言って2台のごつごつしたタブレットをカウンターに置く。
衝撃と防塵に考慮してあるのでどうしても大きくなるのだが、雰囲気が出て良いと言うのが殆どの感想だ。
「起動にはどちらかの認識アイテムが必要となります。お二人で依頼を受ける際にはそれぞれの認識アイテムをかざすか、PTを組んだ状態で受注してください。」
その他にも細かい説明を聞き、2人はお礼を言って施設を後にすると、お祝い用の酒と食糧を買い込んでホームへと戻る。
電力が通った事で冷蔵庫が使えるようになったのでそちらへ荷物を仕舞い、一度ログアウトして自分達の補給を済ませて、またログインした。
「さすがに並んでいるのは中型までのミュータント討伐ばっかりだな。」
「新米だし、最初から強襲依頼が来ても装備の面で参加できねえって。ツカサのフレームが重量級だから、やろうと思えば大型に挑戦できるけどどうする?」
2人は居住施設でタブレットを操作しながら依頼を眺めて行く。
昨日まで倒していたミュータント、パストラプトルは小型に分類される物で、武器さえあれば一般人でも倒す事が出来る。
訓練を受けた人間であれば、ツカサとジュンの様に少数で対応する事も可能だ。
だが中型以上になると大きさが5mを超えだし、戦闘力が上がるので、専用の装備を持たねば倒せない。
そこで手っ取り早いのがフレームによる駆除である。
ユニオンにはそうした依頼が集められ、お金の欲しい傭兵隊が頑張るのだ。
「まあ、正式版の記念すべき初仕事だ。中型の得物で手を打とうぜ。」
「そうだな。あ、俺が当てられる相手にしろよ。」
結局、無難な案で方針をまとめると、2人は掲示板で情報を集めて時間を潰す。
時刻が4時を回った所で、彼らの部屋に重い排気音が響き渡った。
ベッドに転がっていたツカサが窓から外を覗くと、そこには2台の大型キャリアと1台の大型トレーラーが止まっている。
キャリアは積荷に濃い緑色のシートを掛けており、トレーラーは銀色の大型コンテナを牽引していた。
「ジュン、来たみたいだぞ。」
「うっし、行こうぜ。」
ジュンは読んでいた掲示板を閉じて立ち上がり、ツカサもそれに続いて外へ出た。
丁度彼らを探そうとしていたら業者からトレーラーごと積まれているフレームを受け取る。
「では、こちらにサインをお願いします。」
「はいはい、えーっと・・・・よし、ご苦労様です。」
ツカサが置き場所の指示を出している間に、ジュンが運転してきた担当の者からボードを受け取り、サインを書くとボードを返す。
「ここ数日は私達みたいな傭兵が一気に増えて大変なんじゃないですか?」
「ええ、たった数日間の特需ですが、我々みたいな運送業者は嬉しい悲鳴を上げてますよ。先日、ここからだいぶ東に行った所へ1日掛けてコンテナを運んだのに比べれば、この辺りは街も近いし楽なものですね。」
ボードを受け取った責任者はジュンといくつか世間話を交わすと、次の配達があると言って、部下達と共に牽引車で帰って行った。
それを見送った彼らはハンガーへ移動し、協力しながら荷台の紐を解く。
掛けられていたシートを剥すと、そこには20mほどの機体が納められていた。
色は全体的に少し暗めの灰色で装甲は肉厚過ぎず薄過ぎずの中間にある。
ジュンが胸部にあるスイッチを迷わず押すと、コクピットハッチの装甲面が上下に開く。
そのまま乗り込みシートに座ると、計器のスイッチを幾つか動かし、ハッチを締めて心臓であるジェネレーターを起動させる。
それを合図に休眠していたシステムが動き出し、コクピット内のディスプレイに次々と情報が映し出された。
ジュンはそれを流し見て、問題がない事を確認すると、カメラのスイッチを入れてディスプレイに外部の映像を投影する。
頭部に装備されたゴーグル型のバイザーが緑に灯ると、正面にある天井を映し出す。
『ツカサ、上げてくれ。』
ジュンが機内からそう語ると、外部の小型スピーカーから音が出る。
それを合図にツカサがキャリアに乗り、運転席のスイッチを幾つか操作する事で荷台部分が90度せり上がった。
『ロックの解除を頼む。』
『こけるなよ?』
『不安になる事言わないでくれ。』
お互いに搭載されたスピーカーで軽口を叩くと、ツカサはジュンの指示に従い、機体の拘束を外す。
フゥインと、軽いようで重い音が辺りに響くと、軽く地面が揺れた。
ツカサのフレームが大地へと一歩を踏み出したのである。
彼はそのまま機を動かすと、ハンガーラックと呼ばれる、機体を立たせて保管や整備などを行う場所へと歩かせた。
左手に見えるラックを少しだけ通り過ぎると、ジュンはフレームをバックさせて車庫入れに成功する。
『ふぅ・・・・知らないハンガーは怖いぜ。』
『次の俺が緊張するぐらいには完璧だったよ。』
背中を拘束具がしっかりとロックした事を確認すると、ジュンが額の汗を軽く拭って息を吐き、キャリアの運転席から見ていたツカサが声を掛ける。
コクピットハッチを開いたジュンは、フレームの足元にあるリフトを遠隔起動させ、胸の位置まで上げるとそちらに移り、また地面へと下ろす事で大地に立つ。
「よーっし、次はお前の番だ。しっかり審査してやるからな。」
「まだまだ若葉なんで甘口で宜しく。」
彼らは笑いながらもう1台のキャリアへ向かうと、ロープをほどいてシートを剥す。
現れたのはジュンの機体よりも重厚な青色のフレームだった。
大きさは30mほどで、全身に分厚い装甲が取り付けられている。
ツカサは首元の前側にあるコクピットへ乗り込むと、自らの愛機を起動させた。
計器類の異常がない事を確認し、ディスプレイに外部の映像を映し出す。
『準備オッケーだ。やってくれ。』
『了解、デッキアップする。』
先程と同じように荷台が直立し、2人は慣れた手付きでロックを外した。
ジュンのフレームよりも重い駆動音が辺りに響き、一歩を踏みしめる度に腹の底へと衝撃が襲う。
ツカサはジュンの向かいにあるラックへと車庫入れし、同じように機体から降りてきた。
「相変らず大型の移動は迫力があるな。」
「しかも重量型だからな。周りへの配慮なんて一切ないのが欠点だ。」
彼らは笑いながら話し、最後の大型コンテナへと向かう。
ツカサが端の方にあるスイッチを押すと、コンテナの側面から上面が折り畳まれるように開いた。
検品時に中身を見ていないジュンは、ワクワクしながらそれを眺める。
中には、少し曲を描いた青色の分厚い大型装甲版と、それよりは薄いが代わりに長さのある鈍色の板が1組に、灰色の中型装甲版とアサルトライフルが1組入っていた。
「こうやって並べてみると改めて思うんだが、お前の方、サイズおかしいだろ。俺の銃と中盾が玩具じゃねえか。」
「一応言っておくが、俺の盾も中盾だからな? 本当は大盾が欲しかったけど、予算の都合で断念したんだよ。まあ初期の機体だから重量的にもきつかったが。」
2人で武装の感想を言い合うと、天井の特殊クレーンを動かしてまずはツカサの盾を吊り上げる。
工場内などの物とは違い、フレーム用のクレーンは専用の固定具が付いているので、ワイヤー等を用いる必要は無い。
「いやー、ちょっと値が張ったけど、この物件にしといてよかったよ。」
「お前の武装が重過ぎんだよ、だから最初ぐらい中型にしとけって言っただろうが・・・・」
作業用フレームとはその名の通り戦闘以外の様々な場所で使われるフレームで、中型までの機体であれば、作業用が装備を運ぶことも出来る。
天井クレーンは基本的に両肩武装などの重量物用なのだ。
苦笑を浮かべた趣味人にジュンが呆れながら操作を引き継ぐと、ツカサは機体の左側に併設されているウェポンラックへと向かう。
「さすがに悪かったと思ってるよ。よし、盾を下ろしてくれ。」
「あいよ。その代り、俺が無理して買い物する時は大目に見てくれよ。」
クレーンに吊られた大型用の中盾がゆっくりと下ろされラックの隣に来ると、ツカサの操作でフックなどの固定具が現れる。
本来は目的に応じた武器を、立てかけられた中から選べるようにする為のウェポンラックなのだが、今回はたった1つの盾を抱えただけで積載量の数値が60%まで進んだ。
ツカサは固定したラック側に問題がない事を確認すると、相方に手を振って合図をする。
それを見たジュンはクレーンの固定を外し、またコンテナの方へと移動させた。
正面に見える建築物の壁にしか見えない盾から凄まじい威圧感を感じたツカサは、これ1枚に人間が何人乗れるだろうかと考えていたのだが、相方を待たせている事を思い出し作業に戻る。
現在のホームでは機体の後ろ側にはラックが無いので、大剣は背中の右側にあるブレード専用アーム(通称:鞘)に直接装備した。
ホームの貧弱な初期フレーム固定具が最大積載量の80%を超えて、軽く冷や汗が流れるが、何とか規定値内に収まった事で安堵の溜息を吐く。
次はジュンの番となり、左ラックに盾と予備弾倉、右ラックに銃と予備弾倉を固定して終了となった。
武器のラック収納は機体へ負担が掛らない代わりに、再装備をしないといけない為時間が少しだけ掛るのだが、最初だけは綺麗に使おうと言う考えから2人はウェポンラックを使用している。
本来整備用ロボットもNPCもいないのに、ここまでやる必要は無いのだ。
「格好良いな。」
「ああ、これの為だけに無駄な事をしたんだもんな。」
作業を終えた彼らの顔は、とてつもない達成感と夢を叶えた子供の様な表情を浮かべている。
その後、様々な角度でのスクリーンショット撮影が終わるまで、2人は自分の世界を堪能するのだった。
需要があれば一応プロットはあるので書くかも?