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vr.1

一般家庭に全身体感型のVR機器がお手頃価格で買えるようになって早10年。

世の中には様々なジャンルのVRゲームが生まれ、消えて行った。

これはバーチャルが既存の技術となった時代に現れた1つのゲームの物語である。



中肉中背の若い男がベッドに腰掛けながら、VR機器であるヘルメットを片手にワクワクした気持ちを抑えきれない様に携帯電話スマホで話していた。


「ああ、こっちはもう準備できてるよ。キャラも作り終わってるから、後は開始時刻を待つだけだな。じゅんそっちは?」


『こっちも準備オッケー。開始まであと10分か・・・・待ち遠しいな!』


受話器からも同じ年齢ぐらいである男の声が響き、2人は楽しそうに今か今かとその時を待っていた。


彼らが楽しみにしているのは大手VRゲームメーカーが開発した新作ゲーム『Metalメタル mercenariesマーセナリーズ』通称mmsである。


プレイヤーは愛機である二足歩行兵器<フレーム>を駆り、傭兵の1人として世界を渡り歩くVRMMOだ。

機体は小型・中型・大型・特殊の4種類を選ぶ。

熟練度としてスキルシステムを採用しており、使えば使っただけその分野が得意になるシステムだ。

取得数に上限は無いので尖り過ぎたスペシャリストになるも手を広げ過ぎたジェネラリストになるも自由である。

もちろん戦闘以外にも整備や生産等があり、これまでに発売されたロボット物のVRゲームを大きく突き放すグラフィックと音質は多くのユーザーを魅了した。

ただし、売りとしている自由性の高さから、暴力的・性的・グロテスクな表現が多分に含まれているので人口数はそんなに多くないとも予想されている。


公式の説明にも『男女問わず性的や暴力的に襲われる可能性が有ります。ある程度制限は出来ますが、そこに至るまでの恐怖などは感じますので、大変注意してください。』と明記されていた。

事実としてチュートリアルが遊べる体験版で逞しい男に尻を狙われた男性プレイヤーは多く、未だにネットの掲示板を良い意味でも悪い意味でも賑わせている。

女性プレイヤーの反応は様々で、これは無理だと完全否定する者とある程度なら許容できる者で評価は一気に割れた。




『残り3分、誠司、向こうで会おうぜ。』


「迷子になるなよな。」


『お前こそいきなり掘られるんじゃねえぞ。』


誠司と呼ばれた男が電話を切り、ヘルメットの電源を入れる。

被りながらベッドに横たわり、身体の感覚を半分だけ機器側に送ると、既にインストールされているmmsを起動させた。残りの感覚が徐々に機器へと引っ張られていく。

この日は土曜日で時刻は朝の9時だ。

誠司も淳もサービス初日は重いと分かっていたが、彼らは迷わずログインを決めていた。

読込み中を表すリングが回っているが、中々繋がらずにもどかしい気持ちが募る。

そしてその時が訪れた。

画面に表示された、新しい文字を読む。


『現在サーバーが大変混雑しており、接続に失敗しました。』


読み終えると同時に現実の方へ感覚が完全に戻り、誠司はメットを外して溜息を吐く。

それから数分ほどだろうか、彼の携帯が着信音を鳴らす。

彼が画面を見ると、そこには淳の名前が表示されていた。

分かっていた事だけに苦笑すると、誠司は通話を受ける。


「どうした?」


『わかるだろ?』


「まあな。」


受話器から聞こえる声は先ほどと打って変わり、ひどく落ち込んでいる。

誠司が少しだけ笑いながら答えると、次は淳が小さく笑って言う。


『お前も随分落ち込んでるな。』


「わかるか?」


『まあな。』


2人はお互いに苦笑すると、そのまま少しだけ話しを続け、お互い1時間後に再チャレンジをすると言って電話を切った。

1人暮らしの誠司は自分の部屋を見回して、家事が残っていない事と冷蔵庫に昼食と夜食の準備がしてある事を再確認すると溜息を吐いて時が過ぎるのを待つ。


それから1時間後、誠司は祈りながらもう一度起動の手順を踏むと、今度は間違いなく接続された。

意識が現実と切り離され、何もない真っ白い空間へと通される。


少しだけ待つと、目の前に緑色のボードが現れ、女性の声でアナウンスが始まった。


『メタルマーセナリーズの世界へようこそ。これからこの世界であなたの分身となるキャラクターを作成します。既に作成がお済のお客様はボードの右側を、この場で作成されるお客様はボードの左側をタッチしてください。』


誠司はアナウンスに従い既に作成していたキャラを選択すると、そのまま初期設定を次々と終えて行く。

最後に開始する5つの国と、いくつかのスキルを選べば終わりだ。


『以上で設定は終了となります。では、メタルマーセナリーズの世界をお楽しみください。』


女性の事務的な答えを全て聞き終えると、チュートリアルを受けるかどうかの質問が表示され、体験版を遊んでいた誠司は迷わずに『いいえ』を選択する。

次の瞬間、急激な眠気が彼を襲う。


(まるで欲しいゲームの発売日前日みたいだ。)


内心でそう苦笑すると、誠司の意識は闇へと落ちて行った。




「おぉ、気が付いたか。」


優しそうな老人の声でゆっくりと意識が覚醒する。

目の前に天井が見える事から自分が仰向けで寝ている事に気が付き、体を起こす。

そこには声を掛けてくれたであろう白衣の老人がこちらを見ていた。


「安心しろ、ここはお前が目指していた街、フォート・ルーインズの病院だ。お前さんは砦の外で行き倒れていた所を助けられたんじゃよ。」


誠司は老人の言葉で、ここが自分の選んだスタート地点である事を理解すると安堵の息を吐く。

始まり方は様々だと書かれていたが、まさか開幕早々に自分が行き倒れるとは思っていなかった彼は内心で苦笑する。


「危ない所を助けて頂いてありがとうございます。」


誠司がお礼を言うと医者の老人は笑いながら頷く。


「どうやら大丈夫そうじゃな。とりあえず、自分のステータスを開いてみなさい。開き方は分かるか?」


「ええ、大丈夫です。」


誠司は自分の首に下げられた銀色のプレートを触り、メニューを起動させる。

目の前の空間に緑色のプレートが浮かび上がり、その中から自分の状態を確認する為の項目であるステータスを選択し、一通り目を通す。

自分のキャラの全身が映っているが、髪と目の色を茶色に変えただけで他は現実と変わりない。

満腹度と水分が少ない事を除けば至って問題なしであった。


「よーし、まずは名前を教えてもらっても良いかな?」


「ええ、私の名前はツカサ(・・・)です。」


誠司は自分のプレイヤーキャラ名を名乗ると老人から掛けられる質問に次々と答えて行く。

医師は問題が無いと判断すると早速退院の手続きに入る。

ツカサは新たに呼ばれた看護婦の後ろを付いて行き、受付で料金を支払うと預かられていた荷物を受け取り、施設を後にした。


建物の外は強い日差しが照りつけ、乾いた風が吹き抜ける。

コンクリートで作られたSFチックな街の作りは昔両親に見せられた動物型ロボットのアニメを思い出す。

辺りを見回しながら、とりあえずMAPを開こうとしたツカサに突然通信が入る。

慌てて背負った鞄の中から端末を取り出すと、体験版の時に登録していたアドレスからメールが1件入っていた。


『件名: ウェルカムトゥーザ_ボ・ト・ム・ズ ♡

・ツカサ、ジュンだ。俺の方は何とかインできた。今はフォート・ルーインズに向かってる。到着まで10分もしないみたいだ。つうか書いてる途中で街が見えて来たわ、到着は南門らしい。そっちもイン出来たら返信をくれ。』


今回はフレンド登録済みだったが、mmsの様に広大で、スタート位置に若干のズレがあるゲームでは待ち合わせが上手く行かない事が多々あるので名前を指定したメールが良く使われる。

偶に間違いがある事も事実だが、受信側も拒否設定が簡単にできるので、ストーカーなどの被害は少ない。

プレイ時間が延び、ゲームに深く慣れた者ほど没入感を途中で区切る事を嫌がり、プレイ中はリアルでの連絡を避けたがる事も原因だ。


メールを呼んだ誠司は渋々意識を半分だけ現実に戻し、枕元に置いてある携帯を見た。

そこには殆ど同じ文面のメールが届いている。

これでゲーム中のメールが間違いではない事と、PKプレイヤーキラーが送って来た偽装メールでない事を確認した誠司はゲームの中に戻り、迎えに行く旨をメールで返信すると、街の人に話を聞きながら南門へと向かった。


南門に到着したツカサが目にしたのは1組の中規模なキャラバンが荷物検査を受けている所であり、辺りを見回すと探し人は簡単に見つかる。


『すごーい!』

『兄ちゃん、もっと見せて!!』

「よっしゃ任せろ!」


子供達の輪の中で金髪を肩まで伸ばした細身の男がボールジャグリングを見せていた。

体験版で何度も一緒に遊んだジュンで間違いない。

少しだけ近付くと、ジュンはツカサに気が付くが、子供の相手を優先してボールを1つ増やした。

その姿を見てツカサは軽く微笑む。

好きにやれと許可を受けたジュンも自然と顔が綻び、どんどん速度を上げて行く。

子供の空間に大人が入るのは気が引けるのか、彼と同じように輪の少し外から見守る大人も多い。

それからもう少しだけ芸を見せると、ジュンのボールジャグリングはお開きとなった。

子供達がもっと見せてとせがんでいるが、家族と思われる人達に手を引かれてキャラバンへと帰って行く。

ジュンはキャラバンの責任者と思われる人と何かを話しており、最後に固い握手を交わすと、責任者の人はキャラバンへと帰って行った。

子供達が泣きながら手を振っているのが微笑ましい。

ジュンもそれに手を振り返して、キャラバンが街の奥へと入って行くと、手を下げてこちらを見る。


「すまねえ、待たせたな。」


「気にすんなって。そっちはもう良いのか?」


ジュンがツカサへと振り返り、笑いながら謝ると、ツカサもそう笑い返し、もう移動しても大丈夫なのかを確認した。


「ああ、無事に通行出来たよ。むしろ礼を言われたぐらいさ。そっちは後で話すとして、拠点探しと行きますか。ほれ、とりあえずPT申請を受け取れ。」


ジュンがそう言うと、メニュー画面を操作してツカサをPTへと招待する。

ツカサはそれを受諾すると、2人は街の不動産へ向けて歩き出した。



設定の様な物

・制限年齢23歳以上

・ゲーム内時間は、現実時間1時間に付き2時間進む。

 現実時間の09:00~10:00はゲーム内時間だと09:00~11:00となる。

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