第1話 入学
4月5日の朝、僕は
「……行ってきます。」
と、誰もいない家に向かってつぶやき家を出た。
僕の名前は櫻井 希異。15歳。根暗な性格であまり人と関わらないようにしており、普段は家に引きこもってゲームばかりしている。ルックスはまあまあいいがこの性格が故に恋愛経験は全くない。
今日4月5日は僕が入った私立高校、明陽高校の入学式だ。だからといって特に緊張しているわけでもなく、これからの高校生活が楽しみでわくわくしているわけでもなく、今までと少し環境が変わったというくらいの認識でしかない。というのも、僕はこの高校に好きで入ったわけではない。ただ近くにあったからという理由で、特に受験勉強を頑張って入ったとか、この学校の校風に惹かれたということではないのである。これからの高校生活について特に思っていることはないが、強いて言えばこの高校の偏差値が周りの高校より少し高いので勉強について行けるか少し不安であるということぐらいだ。なぜこのレベルが少し高い高校に入れたのかというと、僕は生まれつき頭が少し良く、中学の定期テストでは勉強しなくても平均点以上は余裕で取れた。そこで、受験勉強もあまりしないまま気まぐれでこの高校を受けたらまぐれで得意なところばかり出題されたり、勘で選んだ選択問題が正解していたりして思った以上に高得点を取ってしまい合格できてしまったということだ。勉強についていけないからといって勉強する気はさらさらないが。
家から徒歩で約5分したら明陽高校の門の前に着いた。門の近くに咲いている桜は満開でとても綺麗だ。僕はその満開の桜に出迎えられながら門の中に足を踏み入れた。
このあと僕は在校生に案内され僕のクラスに行った。どうやら僕は1年3組らしい。たしか1組には入学前にやったテストで優秀な成績を取った人がなるらしいから僕の成績はこの程度らしい。
席について荷物を置くとすぐに、体育館で行われる入学式へ行った。
指定された席につき前を見る。
「一同起立。えー、只今より平成26年度入学式を始めます。一同礼。着席」
司会の人がお決まりの言葉を述べ、入学式が始まった。相変わらず校長先生の話が長かったりして退屈だ。最近ゲームでほぼ徹夜していたので睡魔が襲ってきて、僕は眠りについた。
「新入生代表、愛川 奈々。」
この言葉で僕は目が覚めた。あの人がどうやら成績トップの人らしい。
「満開の桜に迎えられ、この明陽高校に入学出来たことを大変嬉しく思います。私達新入生は、これからの高校生活を最高の思い出にするために、楽しむところは楽しみ、しっかりするところはしっかりし、文武両道を目指して頑張っていきます。ご清聴ありがとうございました。」
そう言い、舞台から降りていった。
「一同起立。これにて平成26年度入学式を終わります。一同礼。担任の先生の指示に従って組ごとで解散。」
僕達は最後にクラスに戻った。クラスに戻ったら少しそのまま待機だそうだ。暇なのでクラスの中を見渡していると気づいたことがある。僕と同じ中学の人がいない。この高校を受験した人は結構いたはずなのに。まさか、この高校に合格できる人が全然いないほど僕の中学のレベルが低かったということなのか。僕が悲観していると担任の先生がやって来た。
その後は担任の先生から諸連絡があった。明日から通常授業があるから教科書を忘れないように、もちろん昼以降も授業があるから弁当を持ってくる人は忘れないように、担任の名前は山田浩輔、今日はもう何もないから帰っていいだそうだ。
それから僕は馴れ馴れしく話しかけてくるクラスメイトを無視してクラスを出た。
家に帰ろうとしているときに重大なことに気づいた。家に帰っても食べるものが全くない。てっきり昼からも学校があると思っていて、昼食は学食で食べようと思っていたからだ。しょうがないから寄り道してマクナドルドでハンバーガーでも食べるか。
その後、僕はハンバーガーを食べ、家に帰った。もうすぐゲーム、ケダットモンスターのインターネット大会がやるのでケダモンの育成でもしようと思ってゲーム機を手に取り、作業を始める。しかし、その作業があまりに単調過ぎたため再び睡魔に襲われ、眠りについた。
「助けてっ!」
そう叫び声が聞こえた気がした。その時、僕はなぜか森の中にいた。僕はその声に気づいていないのか、気づいているのに聞こえないふりをしているのか、近くにいる仲の良さそうな人と楽しそうにキャンプファイヤーをしている。
「もうダメッ…意識が……。」
再び叫び声が聞こえたような気がした。しかし、僕は何の変化もなくキャンプファイヤーを楽しんでいる。
ピンポーン。
玄関のインターホンが鳴り響く。僕はその音で目が覚めた。どうやら僕は夢を観ていたらしい。時計を見ると、もう午後5時を過ぎていた。
僕は玄関に行き、
「はい。何ですか。」
と言った。
「俺だよ兄ちゃん。鍵開けてー。」
僕が鍵を開けたら
「ただいまー!」
と元気よく弟の櫻井 創が入ってきた。手には学校のかばんと中に食材がたくさん入った買い物袋を持っている。創は今、中学2年生の13歳だ。創は私立の霧ノ山中学に通っている。創は本当に僕と兄弟かって言うぐらい明るく、成績優秀でスポーツ万能だ。なので、兄の僕が勝っているものがほとんどない。唯一勝っているものといえば、僕のほうがイケメンだということぐらいだ。
僕は創と2人でこの一軒家に住んでいる。両親は僕が2歳の時交通事故で亡くなった。その後、僕達はおじさんに引き取られたが、おじさんは家事を少ししかやってくれなくて、ほぼ家にいなかった。僕達が大きくなった今、家事を全くやらず、家に全く来ず、年に1回顔を見せるぐらいだ。しかし、お金はしっかり送ってきてくれるので、僕は私立の高校に行けたし金銭面では全く不自由していない。僕は昔、夢にまで、創以外のたくさんの家族に囲まれて楽しそうにしているのを見るぐらい家族が欲しかった。今はそんなことないが。2人で住んでいるので家事を僕達でやらないといけない。が、僕は料理が全くできず、不器用で洗濯物がうまく畳めず、あと面倒くさがりやなので家事は創にほとんど任せっきりになっている。このことに僕は少し罪悪感を感じている。なので、この恩をいつか返そうと思っているが返せないままどんどん月日が流れていっていた。