十三日目
これは、カウンセリングを始めて十三日目の話だ。
今日のカウンセリングを終えレポートを書いていた。
実のところ僕の仕事は、彼女とカウンセリングをしている時間よりも、レポートを書く時間や、カウンセリングの流れについての会議をしている時間の方が圧倒的に長い。
それだけ慎重な実験なんだ。
「調子はどうかね?」
教授から声をかけられた。
「順調、だとおもいます」
僕は、パソコンから手をはなし、教授に応答する。
「そうか」
僕と教授はそれなりに会話をするけれど、事務的なものばかりで、このような雑談に近い会話は珍しい。
「彼女も、君のカウンセリングが始まってから、実験に対して幾分か前向きになった。話し相手を作るリスクは大きかったが、リスクに見合った効果は出ているようだ。君はよくやってくれている」
教授が人を労うなんてさらに珍しい。
途方もない実験に突然身を置くこととなった僕への教授なりの気遣いなのかもしれない。
「……光栄です」
僕は、彼女といるときは彼女を人として扱い、教授といるときは彼女を実験体として扱っている。
まるで本音と建前。いや、建前と建前か。
僕の本当の意思はどこにあるのだろうか?
人間はとうの昔に社会の奴隷に成り下がっている。
言いたいことも言えず、やりたいこともできない。
自分と自分が分離していくような感覚。
ある意味では、僕も彼女と同じなのかもしれない。