七日目
「ところでキミは、私の誕生日知ってる?」
これは、カウンセリングを始めて七日目の話だ。
「知りません」
もちろん知っている。
「私の誕生日は今日から23日後なんだぁ」
つまり、カウンセリングを始めてから30日目にあたる。
ちなみに彼女が、自分の誕生日を日付ではなく、日にちで言うのは、諸事情により暦の知識を学習させていないからだ。
よって、彼女は相対的にしか日付を知ることが出来ない。
「そうですか、では何かお祝いを考えておかないといけませんね」
「うん、楽しみにしているよ。はー、自由時間、楽しみだなぁ」
「自由時間?」
もちろん、その言葉の意味も知っている。
「うーん、何から説明しようか。私は誕生日の一日前に転生の準備で眠らされて、記憶をコピーするんだ。そして、誕生日の丸一日を使って新しい体に、記憶を移す。新しい体が目覚めた時には次の日、つまり誕生日が過ぎてるんだ」
「なるほど、それで自由時間とは?」
「でも、転生前の私、つまりは君の前にいる私は記憶をコピーされた後も生きてるわけじゃん。その私は、誕生日の1日間だけ、自由時間がもらえるんだ。この部屋の外に出て、好きのことをする時間が……」
「なるほど」
もちろん知っているが、彼女の言葉に付け足すならその自由時間が終わった後、転生前の彼女は処分される。つまり、殺される。
彼女はそれを知ったうえで、自由行動日を楽しみという。
それは残酷なことかもしれない。
だが、現実はもっと残酷だ。
実際には、記憶をコピーする段階で、脳が壊れて死亡する。
つまり、自由時間とは、彼女に希望を持たせるための教授の嘘だ。
「それで、もしよかったらなんだけど、そのときはキミが外の世界を案内してよ」
そんなことを知るわけのない彼女は、嬉々として誕生日の話題を進める。
「ええ……もちろんいいですよ」
ひどく、残酷だ。
「それにしても、やっと私の番が回ってきたんだね」
「どういうことですか?」
「いままで20回以上、誕生日がくると思って眠ったら、次起きた時には一日飛んでベットの上にいたんだ。それはなかなか苦しいよ」
つまり、転生前の期待も希望も全て解消されることなく、転生後に引き継がれる。
だが、同じ記憶と人格を持っていても、転生後の彼女は転生前の彼女ではないので自由時間が与えられない。
教授の資料にも書いてあった。
彼女の希望のためにと提案した自由時間が、逆に彼女を苦しめていると。
今後も毎年彼女の中には、誕生日前の希望だけが蓄積し、それが叶うことはない。
それは精神的に相当に堪えるはずだ。
「あーあ、早く誕生日来ないかなぁ」