雪融けの日は遠く
ホラー系。初挑戦です(笑)
苦手な方 注意。
雪融けの日は遠く、僕のキモチは雪に埋もれて凍った。
ーー2月14日 PM 4:50
天気 晴れのち曇り、ところにより雪
今日は、世に言う『バレンタインデー』の日。
僕は、手に持っているひとつの箱を見て立ち尽くしていた。
ーー『はっぴー・ばれんたいん。幸せなあなたに、ビターなプレゼント』
そう言って渡された箱。
綺麗に包装されていて、怪しいところなんてない。
ーーこの箱を渡してきた少女が、初対面である事を除いては。
ふわり、ふわりと。
厚く空に覆い被さった雲から、真っ白な雪が舞い落ちてくる。
そのことに気づいて、折り畳み傘を出そうとした僕は、異変を感じた。
ーー変だ。可笑しい。……逃げろ!
盛んに本能が警報を鳴らしているのを感じた。
頭がガンガンと叩かれたように揺れ、視界が心なしか赤くなっている。心臓が耳の直ぐ横にあるかのように、鼓動の音が大きく聞こえる。寒さだけでなく、身体が震える。
ーーここにいてはいけない!離れろ!離れろ!
頭ではそう思うのに、震える身体は思うように動いてくれない。
一層、鼓動の音が大きくなる。
耳鳴りがして、頭がズキズキ痛む。
食いしばったはずの口からは、カタカタと音が漏れる。寒さだけじゃない。怖い。恐い…!
静かに降り積もる雪が、周りの音を消していく。
もう、自分の出している音しか聞こえなかった。
耐えきれなくて、うずくまって耳を塞ぐ。
きつく、目を閉じた。
……そうでもしないと、泣き叫びそうだった。
ーー誰か、誰か…!助けて……!!
気が狂いそうになる程の静寂な雪の世界で、僕は必死に助けを求めた。
もう、まともに思考が働いていなかった。
ここは、人通りの多い大通り。
休日だということもあいまって、カップルや家族連れの人が多かったはず。
それだけのことを、なんとか思いだした僕は、ふってわいた希望に歓喜した。
誰かが、僕の異常な様子に気づいて、声をかけてくれれば…。
そんな淡い幻想は、残酷にも……打ち砕かれた。
どこまでも静寂の世界が続き、人の声はおろか、車の走行音すら聞こえて来ない。
流石に可笑しいと、顔をあげた僕が。
この世界は、決して甘くは無いのだと。
理解するには、充分過ぎた。
人の気配が全く無い交差点。
ガランとした道路。
黒々とした影を落とすだけの、色のない信号機。
街の明かりも薄暗く、別の街のようだった。
そして、何より。
「ーーーーぇ……?」
僕の周りだけ、雪が積もっていなかった。
……周りは、薄く積もっているというのに。
意図的に雪が避けたのかと思うぐらいに、僕の手の届く範囲に雪が降って来なかった。
「……ぁ、…………ぁぁぁあああ"あ"あ"!!」
その意味を理解した訳ではない。
ただーーもう二度と、元の生活には戻れないのだと。
そう、つきつけられたようだった。
僕に、こんなに声が出せたのかと。
恐らく人生で一番大きな声を出した叫びは。
ーー全て、雪に呑み込まれた。
そして僕は
雪に埋もれて
キエタ
遺ったのは。
孤独を叫ぶ、憐れな獣。