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反逆

「私は、玩具を大事にするほうなんだ」


そう言いながら、女神は軽く腕を振る。殺意も敵意もない。それこそ遊ぶような気楽さで、その動作も柔らかくて、それを避けられない自分に、ファグナリスは混乱した。

弾き飛ばされる、ということは基本的にない。この世界は無限にあるように見えて、実は四方を壁に囲まれている、そうイメージをすれば、次元の彼方まで吹き飛ばされることはない。・・・ただ、それに大した意味はない。

女神の力は、圧倒的過ぎて、抗うことすら出来ないからだ。

『英雄』たちの技も、力も、何もかもが意味を成さない。存在が違う。まさしく次元が違っていて、ファグナリスはただ甚振られるしかなかった。

一撃で仕留められなくても、女神に焦った様子もない。

耐えられたことを褒め、ファグナリスの体を優しく起こし、更に攻撃を加える。


「悪い子にはお仕置きしないというけど、別にそんな必要はないと思う。悪の定義というのは、その人それぞれだと思うの。それが悪いことだと思っていないのなら、怒るだけ無駄で、どんなに躾けようと、結局周囲の作ったルールに押し潰される。・・・今みたいにね」


「・・・」


片腕が粉砕され、右足の膝から先が消し飛んだ。血が流れていないのは、ファグナリスの魔力の熱が限界を超えていて、切り離された部分が炭化しているからだ。肋骨もほとんどが皹が入っていて、幾つかは内臓を貫いている。

生きていられるのは、ただ単に彼の持っている魔力が、あらゆる器官を補っているからでしかなく、いっそ死んだほうがマシな状態だった。


「・・・」


「私は・・・君のそういう目が好き。誰かを憎悪するその瞳がとっても素敵だと思う。だからつい、いじめちゃう。本当は泣きたいんでしょう? 君は、今までの『■■■』の中で一番弱い。でも、『女神のギフト』に対する耐久力がずば抜けてた」


無造作に女神はファグナリスの胸を踏みつける。その衝撃で、吐血した。


「それが、君を生かした理由だよ。・・・知ってた? 『英雄』の持つ特有の力は、私たち女神が与えたプレゼントだって。君たちは本当に特別で、でも、その分だけ、私たちの『所有物』なんだよ。私のモノが、私に抗うなんて、出来るわけない」


「・・・ああ、やっぱり、俺たちはお前らにとって特別なんだ」


「・・・?」


「だったら、やっぱり、俺で正解だ(・・・・・)。・・・さぁ、みんな。お前たちの敵が、そこにいるぞ。取り戻せ、お前たちが持つべきものをっ!」


「何?」


次元の壁を引き裂いて、それぞれ英雄たちの持っていた武器が女神の棺に対応するようにファグナリスの周囲を旋回する。


「それが、どうかしたの?」


「・・・お前は、お前が思っている以上に、みんなに恨まれてるんだよ。それを、教えてやるよ」


「っ?」


浮遊するそれぞれの武器がその切っ先を女神の方に向け、放たれた。

反射的に防御行動を取った女神だったが、それらの武器は彼女ではなくその後ろにある棺に吸い込まれた。


「・・・そら、受け取れ」


黒いの焔が各々の武器に伸び、そこにファグナリスが喰らった『英雄』たちそれぞれの力が返還されていく。


「ここなら、体を再形成するのも、難しくないから。お前たちの魂に刻まれた記憶ごと返してやる。サービスだ」


「しまっ・・・!」


ローザンヌを除く全ての『英雄』たちが、武器を持ってそこに立った。それぞれ棺の中で眠る女神の姿を見て、弾かれたように武器を振るった。

彼女が止める間もなかった。棺は破壊されて、封じられていた女神が解き放たれた。

ようやく、取り戻せた・・・そんな言葉が誰かから漏れた。


「・・・最初から、俺が勝てるなんて思ってない。俺は、お前の力を殺ぐのが目的だったんだよ」


「・・・なるほど。『英雄』を殺しまわってたのは、そういうことだったんだ。でも、その程度で、私が揺らぐと思う? またみんな殺して、眠らせるだけだよ」


「いや、お前は揺らぐ。絶対に。・・・奪い取ってやるよ、お前の大事なものを・・・っ!」


ついでに責任から何まで全部押し付けてやる。

小さく呟いて、女神のベッドに向かって黒い焔を伸ばす。意図に気付いて、女神がそれを防ごうとするが、それを『英雄』たちが押し留めた。


「ファグナリス、あとで文句言うからな」


「ケービット・・・じゃ、ないか。それは、向こうに頼むよ」


槍を構える『英雄』に苦笑を投げかけてる間に、黒い焔は、彼女のベッドに横にさせられていた『俺』の体に届く。


「全部返してやる! お前のだろ! 余さず全部持っていけっ!」


一瞬だった。

黒い焔を纏い、剣を持った『俺』が、女神に襲い掛かっていた。


「はははははっ! よぉ、久しぶりだな!」


「~~~っ!」


「特別扱いありがとうよ、おかげでまた戦える。さぁ、愉しもうぜ! 今度こそ、俺たちの勝ちだろうがなっ!」


高笑いをして、女神に襲い掛かる『俺』の傍らにローザンヌに似た女神が大剣を携えて、寄り添っていた。その姿に、ファグナリスは目を細める。

お前が傍にいたかったのは、俺じゃないよ。勘違いしちゃ、駄目だ。

倒れる彼の姿を見ることなく、女神たちは戦場を移していく。それを僅かの間見送り、ファグナリスはため息をついた。力を失った以上、ここにいることは出来ない。叩き出されるように、ファグナリスの体はこの世界から消失した。

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