彼と彼女
ファグナリスが、馬車から離れ進路の偵察に向かってしばらくして、ケービットたちは襲撃を受けた。周囲に敵がいないと油断した瞬間を狙われた。これは、ケービットのミスだった。周囲の安全化は自分自身がやるべきだったと、彼は後悔した。
不意をつかれた部隊は混乱の坩堝となった。
立て直すべく、目につく劣勢になった兵士を助けて回る。向こうも手練れであったが、ケービットに比べれば取るに足らない相手だった。
そのケービットの穂先が、二本の山刀に受け止められた。
「テメェは・・・」
「こうして、刃を合わすのは久しいな」
「カーラム!」
「ケービット・・・お前と決着をつけられるとは思っていなかったぞ・・・」
「俺もだ。ここでまた、戦えるとはなぁ!!」
槍を引き戻し、間合いを取る。カーラムが離れる隙を与えてくれたのだ。
「・・・その槍・・・アールキエ様より賜ったものだな?」
「あぁ、神器って奴だろ? 手に馴染むんでな、ありがたく使わせてもらってるぜ。何か? 文句でもあんのかよ」
「いや、ない。それは、どういう経緯にしろ、お前の手に渡っていた。『八大竜王』の一頭であるお前に、な」
含むような言い回しに、僅かに苛立ったがケービットはそれを顔に出すことはしなかった。代わりに一気に間合いをつめ、連続で槍を突き出した。それを危なげなくカーラムは捌いて見せる。
お互いに思うのは相手の強さ。無傷で戦いを終えられないだろうという現実だった。
ファグナリスは、丘の上から彼らの戦闘を見下ろしていた。そこは、戦況を観察するにはかなりよい場所で、全て手に取るように見えていた。状態はケービットのおかげで五分といったところで、ここにファグナリスが加われば自軍が有利になる・・・それは間違いなかったが、ファグナリスは、この戦線に加わるつもりはなかった。
彼は探していた。必ずここに来ると確信している、彼女の姿を。その姿を確認し、『確信』するまで動かない。例え、ケービットと自分を残して部隊が全滅しようとも、だ。
「おい、テメェ!」
「・・・?」
「こんなとこで余裕ぶっこきやがって! 舐めてんのか、あぁ!?」
悪態をつきながら近付いてくる青年は、僅かに呼吸を止めたかと思うと爆発的な勢いで間合いを詰めた。その勢いのまま振り下ろされた刃をファグナリスは受け流し、青年から僅かに距離を取った。
「・・・アベルから聞いたことがある。あぁ、確かに改造人間だ。・・・疑似英雄といったところか」
「あ? 何言ってんだ?」
「・・・」
ため息をついて間合いを詰めた。青年はファグナリスが目の前に立つまで反応できず、その次に振り抜かれた刃にも反応できなかった。
あまりにもあっさりと、青年の首ははね飛ばされた。もし、これが『英雄』たちと戦う以前のファグナリスであれば、大いに苦戦していただろう。だが、今の彼は以前とは違う。
「・・・あぁ、そこか」
ここからでも解る。彼女は、その口元に笑みを浮かべて彼の立つ丘を見上げていた。遊び相手を見付けられて喜ぶ子供のように。
彼女の変わらない姿に、ファグナリスは苦笑を浮かべていた。
彼らの邂逅と時を同じくするようにカーラムとケービットの戦いは本人たちの意思や思惑を無視するように決着を迎えようとしていた。
あまりにも実力が噛み合いすぎた。攻撃力がお互いの防御を越えていて、削り合いになってしまったのだ。
お互いの秘技の限りを尽くした。
勝ち負けや、お互いの生死に悔いはなかった。このまま、決着がつくのなら。
「おお!」
「おらぁ!」
武人として彼らは死力を尽くした。だが、ここは戦場で、後ろから斬られて事切れようが文句を言うことは出来ない。それを失念した以上、責任は彼らにある。
「は、が・・・」
まずはカーラムだった。ケービットの穂先とは別に漆黒の刀身が胸から突き出ていた。何度か、口を動かしたあと、カーラムの体は一瞬で黒い焔に包まれ、消失した。
「・・・ファグナリスっ!! テメェ!」
ずたずたにされた体を引き摺るようにファグナリスに近付いたケービットの腹に剣が突き立てられる。
「・・・悪いな」
「な、あ・・・」
「すぐに次が始まる。それまで待機しててくれ」
黒い焔が、ケービットの体を一瞬で焼き尽くす。それを最後まで見据えて、周囲に黒い焔を放ち、残った兵を飲み込んだ。
「あーあ、酷いものね。みんな根こそぎにしちゃって。・・・昔からの仲間もいたんでしょ?」
「あぁ・・・でも、決めたことだから。最後までやり抜くしかないんだ・・・裏切り者と言われても・・・だから、あんたにも付き合ってもらう」
「聞いていいかしら?」
「・・・」
「何故、私なの?」
「あんたが、女神の寝所の鍵だからだ。・・・俺は女神を叩き起こす。俺の、ために」
「ふぅん・・・うん、まぁいいわ。付き合ってあげる。さぁ、遊びましょう?」
人生を悔いなく楽しみましょう・・・?




