表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/87

戦場

それは、僅かな乱れもなく災害のようにテニキアス王国連合の兵列に襲い掛かった。黒い蝗は、そこら中の命を容赦なく貪った。己の命を棄てるように、彼らの主のように。

全ての国境線を、彼らは同時に襲撃した。宣戦布告などなかった。彼らは、どこかの国に属しているわけではなく、侵略のための戦争でもなかったからだ。彼らはただ、命を貪りに来たのだ。群れの頭がそれを望んだから。

だから、敵を駆逐したところで何も変わりはしない。彼らの戦いは終わらない。

遠く離れた地でも同じことが起こっているかと思うと、ケービットの背筋に冷たいものが走った。

横に佇むファグナリスは、その様子を一瞥すると、御者の席に座り、馬に鞭を打ってその場から逃げるように馬車を走らせた。

このどさくさに紛れて国境を越えてテニキアス王国に入るつもりなのだった。


「この人数で大丈夫なのか?」


「・・・問題ないよ。俺たちは、ただテニキアス王国の司令官を暗殺するだけなんだから」


混乱する戦場を立て直させないのと、更に指揮系統の混乱に拍車をかけるのが、ファグナリスたちの表向きの目的だった。

部隊を動かすための理由が必要だから、ファグナリスはそれを設定しただけで、ファグナリス自身には別に目的がある。

テニキアス王国連合に属している『英雄』の力を簒奪する。それが成れば、ファグナリスの目的は達せられるのだ。

女神からこの世界を奪い取れる。


「病床の王様殺したところで何が変わるってんだ?・・・お前、別に何か考えてんだろ」


「多少は考えてるよ。ただ・・・ケービットは別に知らなくていいことだから」


「テメェ・・・」


「余計なことは考えなくていい。幾らケービットでも気をとられると、死ぬよ?」


「・・・ちっ。賢しくなりやがって。あぁ、はいはい。解りましたよ。やれって言われたことはきっちりこなしてやらぁな」


「頼もしいね。頼りにしてるよ」


それはそうだろうと、ケービットは小さく呟く。連れてきている兵士は、どう考えても未熟で、正直役に立つか解らない。士気はそれなりにあるが、それだけだ。

小さなミスが全滅を招くものだが、彼らを連れていくのは敵に見付けてくれと言っているようなものだとケービットは思う。まるで無駄に死ににいくようだ。

ファグナリスが、そのことに気付いていないわけがない。解っていてやっているのだろう・・・ケービットは、彼に対して抱いた感情を捨てることはせずに、警戒を深めた。

もしかしたら、ファグナリスは自分達を裏切ろうとしているのではないか。そんな考えが浮かび上がり、ケービットは臍を噛んだ。



アールキエの耳にその情報が届いたのは、戦端が開かれて二日も経たないころだった。前線で投降し捕虜になった敵将が言うには、戦乱に乗じて、あえて刺客が放たれたというものだった。

テニキアス王が殺されたところで痛くも痒くもないが、その情報にアールキエの食指が動いた。敵将の情報はあまりにも緻密かつ正確であったのも、それに拍車をかけた。

何せ、彼は放たれた刺客の人数から、移動ルートまで知っていたのだ。


「罠・・・というか、誘いよね、これ」


アールキエの独り言にカーラムは肯定を示した。


「十中八九、罠でしょう」


「大部隊を動かすには相手の人数が少ないし、小隊で当たるべき・・・かしら?」


「そうですね。念のために我々が向かうべきでしょう・・・と、言って欲しいのでしょう?」


「ふふ。まぁ、実際、王都の守備を考えれば動かせる人数には限りがあるしね。用いる戦力は最低限で、かつ効果的じゃなくてはいけないもの。その点、私やあなたならなんの問題もないわ」


「仰る通りで。・・・準備は整っております。いつでも我らは出られます」


「よろしい。ならば、今すぐ出るわ」


「は」


恭しく敬礼し、カーラムは踵を返した。その様を見送り、アールキエはパーティーに出席するためのおめかしをするように武具を身に纏う。

予感があった。

この戦いが生涯で最も苛烈で、満たされるようなものになる。

そんな、予感が。



途中、小休止という形でファグナリスは馬車を止めた。道程としては三分の二ほどを終えており、間もなくテニキアス王国の王都が見える頃合いである。

そろそろ馬車を捨てることも考えながら、この戦争の大局には意味をなさない仕掛けをするため、小さな丘の頂上にしゃがみこむ。

土に触れる指先から、呪文が染み込むように地面に流れていく。

それが、尽きようとするころ、ファグナリスは何気ない動作で、空いている腕を頭上に掲げた。

甲高い金属音が、夕闇の迫った夜空に鳴り響く。指先についた土を払って、ファグナリスはゆっくりと立ち上がった。

たたらを踏んだ直後の姿勢で立ち尽くすテニキアス王国の兵士を一瞥し、彼が反応する前に切り捨てた。

・・・まるで、それを合図にするように怒号が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ