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引継 その10

群れてくる兵士を掻き分けるように殺すアメティスタの頭上高くへと、兵士を、騎馬を踏み台にして飛ぶ。

太陽を背にして、落下する。

僅かにアメティスタはこちらに視線を向けた。が、そこには何か抗うような気配はなかった。・・・きっと遠く、聞こえた彼女が倒れる音が、合図だったのだろうと思う。切っ先が額を割り、さらにまっすぐに突き立てられる。

終わりの音が、耳朶を打つ。

倒れ伏していく彼の耳元で、ファグナリスは何事かをそっと呟いた。誰にも聞こえないように、誰にも聞かれないように。


『・・・ああ、成る程。お前の目的は・・・』


崩れ落ちて、消えていく中、薄っすらと笑みを浮かべて、彼は去っていった。


「・・・、・・・、・・・、・・・勝ち鬨を、あげろっ! 我らの勝利だっ!」


最初は小さな声だった。

しかし、それは次第に大きくなり、そして地上を埋め尽くす怒号へと変わった。


「残党を駆逐しろっ! 一人たりとも逃すなっ! 行けっ! 追い立てろっ!」


吐き出すように言い、兵士はその指示に従って走り出す。気付けば、教会本部から火の手が上がっていた。それを背中に、兵士たちの流れを逆に向かってくるローザンヌの姿が見えた。彼女は険しい表情でファグナリスを見据えると、僅かに歩調を上げた。


「・・・ローザンヌ」


「はい、なんですか?」


「後のことは、イグナスに任せる。・・・だめだ、眠い。・・・」


「伝言なんてしませんよ、自分で伝えてください。寝ないでっ! ほらっ!」


ばちん、と頬を叩かれ、ファグナリスは顔をしかめた。だが、おかげで僅かに眠気は引いた。確かにこんなところで寝ているところを兵士に見られるわけには行かないし、命令ならば自分の口で伝えなければ。人伝の言葉ほど曖昧なものはないのだから。

のろのろと立ち上がり、ローザンヌにサポートを受けながら、指揮天幕に向かった。


「・・・ファグナリス様っ? ど、どうされたんですか!」


「今後の指示をする。聞け。一度しか言えない」


「え、あ、はっ!」


「今後、軍の指揮はお前に任せる。だが、女王陛下には逆らうな。いいな、あれは大事な後ろ盾だ。なくすわけにはいかない。あと、大国には手を出すな。全面戦争はまだ先のことだ。そのための工作をしている。二年待て。いいな、二年だ。その間に、完全に教会支配地域を平定しろ。俺が潰したのは主要国だけだからな。寝首をかかれないように、徹底的にやれ・・・終わったら、適当に小競り合いでもしてろ」


「はっ!・・・あの、しかし、ファグナリス様、その言い様だとまるで・・・」


「・・・これは俺が動けなくなった時のための指示だ。・・・細かいことはお前に任せるよ、イグナス。頼んだよ・・・」


「はっ! 全霊を持って当たらせていただきますっ!」


「よし。ならば、残党狩りの指揮を執れ。きっちりとやれよ、いいな?」


「はいっ! お任せくださいっ!」


敬礼し、駆けていくイグナスの背中を見送り、ファグナリスは大きく息を吐き出しながら椅子にもたれかかるように座り込んだ。


「・・・だめだ。眠い。もう限界だ。・・・ローザンヌ」


「なんですか?」


「彼女から何を聞いた?」


「・・・『私』たちのことです」


「そうか。うん、まぁ、だろうね。・・・で、どうする?」


「どうするとは?」


「俺は、お前を殺すよ。次に目を覚ましたとき、次の行動に移る時、俺はお前を殺す。その時、お前がどんな存在であれ、例え、俺の・・・」


「私は逃げません。隠れません。ここにいますよ。ここが、私の場所です。ずっと昔から、そうだったでしょう?」


「・・・・・・気が変わったら好きにしろ。どうせ、しばらく、起きれないから」


ファグナリスの目蓋がゆっくりと落ち、穏やかな寝息を立て始めた。今、この瞬間、ファグナリスはもっとも無防備な姿を晒している。寝首を掻こうというならば、容易く出来るだろう。


「・・・そんなこと出来るわけないじゃないですか。どうしろって言うんですか」


逃げるのは嫌だった。隠れるのも嫌だった。殺す?・・・出来るわけがない。嫌だ、そんなことはしたくない。そんなことをするために一緒にいたわけじゃない。

つまり、今のところ、選択肢はない。

与えられている選択肢は少なくて、選べる行動もまた同じ。ただ、まだ時間はある。考えを放棄さえしなければ、何か見つかるかもしれない。


「・・・まぁ、それでも見付からなければ、諦めればいいだけです。簡単ですよ、ええ。とっても簡単。『私』は、ただ『私』に還るだけですから・・・」


静かに寄り添うように彼の横に腰掛けて、ぼさぼさの黒髪を梳くように撫でる。寝顔は、年よりもずっと幼いものだった。

それも、しょうがない。だって、眠りだけが彼が穏やかでいられる時間なのだから。ありとあらゆるしがらみから、この瞬間だけは、彼は自由だった。


「・・・渡しませんよ、絶対に。■■■・・・ええ、お前なんかに絶対に渡さない。これは(・・・)私のだ(・・・)

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