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引継 その8

何もかもが変わった。

黒い焔が蛇のように地べたを這いずり回り、ありとあらゆるものを飲み込んでいく。その光景は、軍団に入って日の浅いものには畏敬を。深くファグナリスと関わってきたものには感動を与えた。イグナスもまた感涙が頬を伝うことを止めることが出来なかった。今すぐにも戦場に降り立ち、その身を投げ出してしまいたい感情に駆られた。

何故感動するのか?

理由は至極簡単である。

偉大なる指導者であった彼らの『王』が、真実、神の如き存在であったことの歓喜である。神と一体となることが出来る喜びに勝るものがあるだろうか。否。狂信者にはそれ以上の狂喜はない。神に率いられし神の軍勢。

ああ、やはり負けるわけなどなかったのだ。何故なら、神に率いられているのだから。

だから、イグナスは戦場に兵を進める。歓喜の前に、軍勢は勢いを増し、教会の信者に襲い掛かった。恐れはない。死ねば『王』の一部となってまた戦えるから。全ての同胞を救うために、永遠に戦い続けられるから。

それらの姿から、ローザンヌは視線を切った。眼下で行われる世界を滅ぼしかねない戦いから。


「縋るものは誰にだって必要よ。視線を逸らしたところで、終わって見える結果はどうやってもあなたに突きつけられるのよ?」


「・・・解かってます。そんなことは、言われなくとも。・・・ひとつ。聞いても?」


「何?」


「・・・あの方が負けたら、どうされるつもりですか?」


「何も。ここで、自害するだけよ。彼に殺されるということは、必ず、私の元に(・・・・)戻ってくるということ(・・・・・・・・・)。だから、死ぬわ、ここで。心配しなくとも、彼に復讐したりなんかしないから。・・・意味がないもの」


「・・・それで納得できるんですか?」


「するわ。それだけの時間を生きてきたんだもの」




ファグナリスの攻撃は、何重にも重ねられている。地を這うように襲い来る黒の焔。剣の投擲。そして接近しての斬撃。それもすぐさま距離を取り、決定的なダメージを与えさせない。もし相手が苛立って突っ込んでくれば、それを狙い済まして切り捨てる。

そして、相手の弱点を容赦なく突く。たとえば、今ならば求道王の左側面。眼球を抉り出された故に視界の消失した求道王からすれば、死角からの攻撃と大差ない。


「ねちねちと・・・鬱陶しい」


「粘っこいな、お前」


「うるせぇよ。お前らと一緒にするな。俺は短期教育しか受けてねぇんだよ。お前らみたいに時間かけて身体作ってねぇんだ。だが・・・充分だろ? ねちねちとしてて悪いけどよ、これが俺の戦い方なんでね」


「・・・しようがない。俺も戦い方を変えよう。剣で決着とはいかないのが、残念だが」


小さく息を吐き出して、アメティスタは刀を投げ捨てた。からんからんと乾いた甲高い音が響き、その音にファグナリスは僅かに顔をしかめ、求道王はアメティスタに襲い掛かった。当然の判断で、ファグナリスもその後を追うようにアメティスタに向けて剣を投擲した。


『通用せんよ、もう。それでは、弱いからな』


求道王の拳が跳ね上げられ、ファグナリスの剣が弾き飛ばされる。

その姿を見て、ファグナリスは微笑を浮かべ、求道王は眉間の皺を深くした。

アメティスタの姿は、大きくその形を変えていた。紫水晶のような瞳はそのままに猛禽類のものに変わり、体躯も一回り以上巨大になっている。額を割るように捩れた角が覗く。その姿は、そのまま悪魔と呼んで差し支えないだろう。

彼の掌に冷たい魔力が集中し、僅かな間も無くそれは放たれた。

光線が地面を舐めるように進み、天に跳ね上げられる。僅か数秒の後、抉れた場所が耐えかねたように爆発する。


「・・・はっ、さすがは崩壊後最初の『魔人』ってとこか。それで手加減してるんだから・・・はは、笑えるな・・・ま、意識があるだけマシか。ホント・・・あいつは俺のトラウマを抉るのが上手だ。本当に、本当に可愛いやつめ(・・・・・・)


苦笑を浮かべ、小さく息を吐き出し、ファグナリスは眉を八の字に歪めた。


「それでもやらなきゃダメなんだ。飲み込めよ、俺」


いつの間にか怒りは押さえ込まれ、冷静な思考が戻ってきていた。激昂直後の自分を思い出して七転八倒したい気分を抑え、ファグナリスは剣を握る手に僅かに力を込めた。

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