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引継 その7

「・・・やられた」


ここで女神に介入されるとは思っていなかった。それはファグナリス、アメティスタ両者に言えたことだったが、焦燥の度合いは圧倒的にアメティスタの方が高かった。

ただでさえ強かった求道王が、さらに女神の強化を受けている。と、なれば、勝敗を考えるまでもない。一対一で戦えば駆逐されるのは自分の方であるのは間違いない。・・・その結論に二人は至った。

だから、アメティスタに向かう求道王の背中に、ファグナリスは剣を振り下ろした。


「・・・」


それを、求道王は見ることすらせずに回避する。振り向く動作をそのまま回り蹴りの動きに変えて、求道王はファグナリスの身体を打ち据えた。それに耐え切れず、ファグナリスは錐揉み回転をしながら周辺の兵士を巻き添えに弾き飛ばされた。


「・・・なんだ。さっきのは。私は忙しい。竜を殺したら相手をしてやるから、おとなしくしていなさい」


「ここまで裏目に出るとは・・・さすがに・・・きついな」


まるで自分の今までの行いが帰ってきたかのようだ。

アメティスタは求道王の正面に立ちながら苦笑を浮かべた。求道王の動きは見える。回避は出来るだろう。だが、無手の打撃から放たれる衝撃自体がアメティスタの身体を襲い、徐々に彼の身体を追い詰めていくだろうことは、目に見える。

それがまだ始まっていないだけ。


「さぁ、竜よ、私に駆逐されろ。それが主の望みである」


「・・・ふぅ・・・舐めてくれるなよ・・・」


油断なく構える求道王に隙が見られることはない。それでも、切り込むしかなかった。それはあっさりといなされ、強烈な一撃がアメティスタに打ち込まれた。




「・・・っ!」


「・・・介入してきたのね・・・彼女。なら・・・少し手伝うわ」




血反吐を吐きながらアメティスタはそれでも立ち上がった。本来ならば、この一撃で終わっているはずである。それだけの威力があの一撃にはあったのは間違いない。だから、求道王は僅かに眉をしかめた。


「女神の恩恵がお前だけに与えられると思うなよ・・・女神は一柱だけじゃないぞ」


「・・・なら、動けなくなるまで叩きのめせばいいだけだろう?・・・・・・っ!」


「っ!」


黒い焔が、地面を伝い、ありとあらゆるものを飲み込んで一気に燃え上がった。熱はない。ただ、それに対する恐れだけが二人を掴み、一気にその場から飛び退かせた。


「■■■のやつ・・・余計なことを。余計なことをっ! 邪魔しやがってっ! 俺の、俺の邪魔をするんじゃねぇええええええええ!! くそがっ! こんなとこで消費するわけにはいかねぇのにっ! ああ、ああっ! だが我慢できねぇ! お前ら今ここでまとめて駆逐してやるっ! 食い尽くしてやる!」


「・・・あれは、全竜・・・!? いや、駆逐対象が増えただけか・・・」


「・・・藪を突付いたか・・・」


黒の気炎に包まれて、ファグナリスが求道王に向かって突進した。




あー・・・切れた。最近はだいぶ落ち着いたのに、本当に久しぶりに切れた。何千年ぶりだろうか。彼が激昂する姿を見るのは。確かに煽ったけれど、まさかここまで効果的だったとは思わなかった。きっと、私が直接手を出したのが面白くないのだろう。出し惜しみをしているから、こういうことになるんだけど、彼はそれを理解してくれただろうか。

じゃあもし・・・全ての段階で私が面白くなるように間接的に手を入れていたことに気付いたら、彼はどんな顔をするのだろう・・・うふふ。愉しいなぁ。




ファグナリスは、求道王に肉薄する瞬間、手近にいた兵士を一突きにし、求道王に向かって振り回すように投擲した。


「ちっ!」


求道王はそれを軽く片手で払いのけ・・・その瞬間に襲ってきたファグナリスの持つ、兵士をぶん回したせいで折れた剣の切っ先が彼の左目を抉り取った。


「がっ、あ・・・っ!」


闇雲に、しかし人一人を撲殺するには充分な力を込められた一撃を足を止めずに頬を掠らせるように回避し、剣をその手首に向かって振り上げる。が、その刃はそれを切断することも、僅かに傷つけることも出来ずに止まった。

小さく舌打ちをして、一気に求道王の間合いから飛び退きながら、求道王に斬りかかろうとしていたアメティスタに向かって剣を投擲した。それはアメティスタの足元に突き立ち・・・爆発四散した。


「・・・さすがにあれで仕留めるのは無理か」


爆煙がもうもうと立ち込める中、吐き捨てるように言って。適当に兵士を縊り殺し、剣を奪う。銀の刃は一瞬で漆黒に染まった。ついでとも言うようにもう一本拾い上げ、これもまたすぐに漆黒に染め上げられる。

煙が晴れた時、三竦みの状態でそれぞれ睨み合うように立っていた。


「・・・まさか攻撃されるとは思わなかったぞ、ファグナリス」


「ちょうどいいと思ったんだよ、まとめて殺すにはな」


「貴様・・・力を隠していたな? 最初からそれでやっていれば、まともに戦えただろうに」


「こっちにもやり方とか、信用とかあるんだよ。そういうのを組み立てなきゃならなかったからな。だが、もういい・・・ここにいる奴らも巻き添えだ。お前の大好きな女神様に捧げてやるよ。満足だろ? 満足したらな、さっさと俺に殺されてくれや」


「面白い、吼えるな」


「しかし・・・面白いくらいに口調が変わるな、お前」


「うっせぇな。多少丁寧にいわねぇと訛りが出るんだよ」

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