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引継 その2

教会総本山の立地は、一言で言うならば『攻め難い』だ。

広大な山脈が向かい合い、重なり合う狭間に彼の総本山は存在していた。高い山肌を背にしているため退路はないが、その代わり、注意を前面に向けているだけでいいという利点がある。教会の中には、少なくともそこに住んでいる人間を独自に養うだけの生産があり、さらに教皇の扱う魔法により季節を無視して収穫をすることが出来ることにより、篭城したところで餓えることもなく、地下水脈のおかげで乾くこともない。

唯一自弁できないといえば兵力ぐらいなものだが、そこまで疲弊することはまず考えられなかった。少なくとも、今までは。

何故ならここを攻めたとしても守りに入られれば決め手に欠け、背後から『英雄』たちが襲いかかってくる。それに抗える軍隊はこれまでなかった。

しかし、今はその『英雄』はおらず、篭城したところで城壁ごと破壊出来る破壊魔法を操る魔術師がいる軍隊を相手取らなければならない。そして、その背後には『英雄』殺しがいる。権謀術中により事を為したはいえ、『英雄』を殺したという事実は変わりない。まして、それがなくとも『英雄』を倒せたかもしれないという可能性すら残している以上、教会も総力を挙げるしかなかった。

もはや、退路はないとさえ言えた。

だが、教会にいる人間の士気は異様な高さを保っていた。彼らは・・・所謂狂信者である。彼らの拠り所である教会が、その教えが破壊されようとしている中で、自ずとその士気は高まっていたとしても、特段おかしいことはない。

ファグナリスとしても、こうなることは予想していたが、まさか教会の内部にいるはずである奴隷たちが叛旗を翻す前に虐殺されるとは考えてもいなかったとは言わないが、実際に起こるとは思ってもいなかった。


「いや、だが今までの事を考えればこうなると断言して然るべきだったか・・・」


「なんて、なんてことを・・・っ! 教会の屑どもめっ!!」


「・・・」


イグナスが教会の外壁から吊るされ、あるいはその直下に投げ捨てられている目を背けたくなるような惨状の死体を見て歯軋りした。周囲の兵の様子も似たような様子である。誰も彼もが怒りに身を打ち震わせている。

ローザンヌは冷静を保っているように見せて、惨状から僅かに目を背け、微かに肩を震わせていた。

それを横目で見ながらファグナリスは僅かにため息をついた。

これで損害を少なくする戦いをすることが出来なくなった、というのもあるが、冷静さを欠いた兵たちが『余計』なことをする可能性が高まってしまったからだ。

ファグナリスは、その事実を冷静に受け止めながら、僅かに唇の端を歪めた。


「イグナス」


「は、なんでしょうか!」


「お前が指揮を執れ。良い経験になる。・・・マリウスを連れて本隊の指揮所に入れ」


「は、え? いや、あの・・・」


「出来ないのか?」


「・・・ご命令とあらば!」


「よし。じゃあ、やれ。期待してる」


「はっ!」


緊張に顔を強張らせながら、しかしファグナリスにかけられた言葉が嬉しくて堪らないという様子でイグナスはマリウスのいる指揮天幕に入っていった。


「ファグナリス、無茶です」


「そうだね」


「イグナスにやらせたらどれだけの犠牲者が出ると・・・」


「ああ。それでいいんだ。今回の戦いは、今までの比ではないほどの犠牲者が出る。俺が指揮をとってもね」


「だからイグナスにやらせるということですか? そんなの、ただ責任をおしつけてるだけじゃないですか!」


「別にそんなつもりはないよ。犠牲がどうやっても大きくなるというのなら、経験を積ませると言う意味でイグナスに任せたほうが良い。・・・俺が前線に出てフォローすれば、全滅はない。もう、悠長にやって暇はないんだ。これからを戦い抜くためには、どうあっても成長してもらうしかない。それに・・・あそこには呪縛に囚われたままの『彼女』がいる」


「・・・解かってます。・・・解かりますよ、不完全にあそこにいるのが」


「ローザンヌ」


「ええ。『彼女』の相手は私がします。()はそれが最善ですから」


「・・・あの子には悪いことをする。本当に申し訳が立たない。・・・もっと早く気付いていれば」


「気付いていれば、何か変わりましたか?」


「多少はね」


詮無いことだと解かっていても、無力感に苛まれることはある。ファグナリスは、その虚無感を慈しむように苦笑を浮かべて、剣を抜いた。僅かの間もなく刀身が漆黒に染まる。

神経が焦げる痛み。筋肉が焼ける痛み。皮膚が爛れ落ちる痛み。その全てを抱きながら、ファグナリスは足を踏み出す。

今回、出し惜しみをする余裕はない。何せ、『英雄』に対しての策がない。アメティスタと呼ばれる彼を相手取るための布石がないのだ。彼には彼女以外何もなく、おそらくそれ以外のものに対する執着がない。故に、人質を取ることも用意周到に張り巡らせた罠に落とすことも出来ない。場所が場所んだけに寝首を掻くことも難しい。

無傷ではすまない。

まかり間違えば、首を晒されるのは己である。その自覚はあった。

だが、殺されるのであればそれでも良かった。次を用意していない以上、延々と続く戦いの輪廻から離れることが出来るのだから。

自らの死も復讐の演出。

ならば死を厭うことはない。

嬉々として受け入れよう。


「さぁ。時間だ」

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