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過去 その3

イグナスたちは攻めあぐねていた。幾重にも張られた結界と、自動人形の兵士が行く手を阻み、進軍の停滞しているところを魔法兵器で狙い撃ちされる。ファグナリスが速攻で決めたいと言っていた理由が、それで解かった。


「ローザンヌ様!」


「何ですか?」


散っていく兵士を感情を隠した瞳で見つめていたローザンヌにイグナスは呼びかけていた。聞きたいことは山ほどある。

例えば、なぜ今この場にファグナリスがいないのか。まさか前線に切り込みあっさりと死んだなどということはありえないことをイグナスは重々理解しているから、彼の生死を尋ねるようなことはしない。だが、いないならばどこで、いったい何をしているのか。目の前の小さな砦にはファグナリスが目標と定めた『英雄』がいることは間違いないのに。


「ファグナリス様は何処で何をされているのですか!? このままでは全滅も・・・っ!」


「そうですね。あの人にも考えがありますから、そう心配しなくてもいいですよ。ああ、でも、イグナス、だからといってあなたが前線に突っ込んじゃだめですよ? あなたが死んでしまうと、後々の計画に狂いが出てしまいますから」


「・・・仲間を見捨てよ、と?」


「いいえ。時が来るまで動くな、と言ってるんです。厳命ですよ。・・・ただまぁ、このままではジリ貧というのも解かります。不安になるのも。だから・・・少し手を貸して上げますね」


時計を確認し、ローザンヌはゆったりとした動作で大剣を抜いた。


「兵を下がらせて。私が結界と人形を片付けますから」


イグナスが兵に撤退の合図を出したのを確認し、ローザンヌはため息をつきながら本陣を出て追い討ちをかけてくる人形に向かって軽く大剣を振った。光の筋が走った、とイグナスは感じた。その直後には爆音と五体揃っていた人形の四肢が空に向かって跳ね上げられていた。

返す刃で幾重にも張られていた結界がたった一撃で粉砕される。


「再突入。もう、魔法使いを守る壁はありません。全員で一斉にかかって、殺してください」


「ろ、ローザンヌ様が切り開いた道を無駄にするな! 突撃ー!」


ローザンヌの横を兵たちが駆け抜けていく。最後にイグナスが、どこか怯えた瞳でローザンヌを一瞬だけ見て駆けていった。

・・・いつものことだ。全てを一撃で塵芥に変えられる強大な力を振るえば、恐れられるのは決まっている。『英雄』たちはそれを利用して今の地位を手に入れた。同じことが出来るかと問われれば、ローザンヌは無理だと答える。

何故なら・・・疎まれることが恐ろしいから。一人ぼっちは嫌だ。悲しい。辛い。その感情を飲み込み踏み越えられるからこそ、その力を利用出来るのだ。


「覚悟が足りないということは、解かってるんですけどね・・・」


だから、ミエルハンス皇国にいる時、全力を出すことはしなかった。ファグナリスたちに恐れられるのが嫌だったからだ。疎まれたくなかった。

ファグナリスと一年一緒に、その最初の段階で自分のことを打ち明けた。ファグナリスの態度は非常に淡白なもので、いまさらそんなことを言われても困るという感情の方が強かったようにも思える。ただその告白が彼との距離を一気に縮めた。


「・・・うう、若い・・・」


「何が?」


「・・・どこに行ってたんですか?」


恨みがましく、また唐突に現れたファグナリスを睨み付けるように見上げる。初めて会ったときは少し低いくらいだった背丈も、追い越されてしまったのだと、改めて実感する。


「頼みごとをしていた人に会っていた。・・・こっちももうすぐ終わるか。余計な手出しをしたな?」


「イグナスが泣きついてきましたから」


「・・・・・・まだ一人立ちは無理か」


「英雄を相手にしてるんですから」


「・・・いずれ、俺たちの力を使わずに戦ってもらわなきゃいけないんだ。こんなところで苦戦されては困るし、俺たちの力に頼られても困る。・・・・・・。ごめん、ローザンヌ。また嫌な思いをさせたね」


「大丈夫です。あなたがいてくれれば、嫌われようと疎まれようと構いません」


「・・・そう言わないでくれ。やりにくいよ」


苦笑を浮かべて、ファグナリスはローザンヌの横をすり抜けた。その背中をローザンヌは請われる前に追う。


「後始末は、イグナスに押し付けようと思うんだけど」


「良いですね。多少の苦労はしょうがないです。今回本当に役に立ちませんでしたし」


「・・・そんなに駄目だった?」


「結構無駄死にを出しましたから。もう少しやりようを教えてあげたほうがいいかもしれませんよ」


「・・・面倒だ。そこまで手がかかるのか」


「あなたとは違いますよ、あの子達は」


「・・・知ってるよ。・・・面倒だからマリウスに任せよう。きっとその方がいい。と、思う。たぶん」


ため息をつき、ファグナリスは億劫そうに肩を落とした。その肩を優しく撫で付け、そっと支えるように傍らにローザンヌは立った。

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