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英雄

教会の誇る五大国家の英雄が、用意された座に一同に会するのは、教会の歴史上異例のことだった。全員と面識があるのは一人だけ。

教皇・アメティスタと同じ名を与えられている『奴隷』である青年は、紫水晶のような瞳を座にある一同に向けた。


「教皇に変わり、お集まり頂いた皆に礼をさせてもらう。ありがとう」


淡々とした棒読みのような台詞に、どこかから呆れたようなため息が漏れた。

所詮は奴隷。教養など望むべくもなし。しかも、この奴隷はどこぞから流れてきた出地不明の男である。偉大なる教皇のお側に侍らせて良いものだろうか?

そんな疑問が持ち上がることは、王たちの間ではあった。だが、青年は間違いなく『英雄』の力を持っている。

彼がその気になれば国ひとつ程度、簡単に滅ぼせるのである。

そのことをこの座に集った英雄たちは知っている。

だから、先程のため息はどちらかというと、まだこちらの言葉に慣れていないことに対する呆れである。


「先日、教会に対し宣戦布告が為されたことは承知されているだろう。彼らは布告通り、奴隷を解放し、自軍の戦力としながら、聖地であるここに前進している。それも猛烈な勢いで」


「ならば、補給線をたてばいい。進軍速度が速いなら補給線は延びきっているはずだ」


「・・・奴等は、併呑した街や村から『徴収』を行っている。後腐れのないよう余分な住人を皆殺しにしてな。彼らは捕虜も人質も取る気はないのだろうさ。だから、これだけ早い進軍が出来る。新たな兵士に教育も与えていないようだ。その必要がないんだろうな」


「どういうことだ?」


「ベルゼアムという国があっただろう?」


「あぁ、あの異端者どもの・・・」


「奴等は彼等が奴隷となっている地域を中心に進軍している。国民全てが戦闘教育を受けていた場所の奴隷だ。今さら教育など不要だろう?」


「成る程。下調べは完璧ということか・・・」


その呟きに奴隷の青年は、小さく頷いた。


「ウォーロック。このままの進軍ルートでいけば、まずはお前が戦うことになるだろう」


奴隷の青年は、この座の中で一際でかい男に声を投げた。


「おぉ、そうか。ま、いつも通り、蹴散らしゃいいんだろ? 木っ端を払うだけの簡単な戦いだな」


確かに、と奴隷の青年以外は声をあわせるように笑ったが、奴隷の青年だけは面倒そうに欠伸を漏らし、小さく息を吐いた。



「このまま行けばまずは予定通り、『破砕』のウォーロックとかち合うことになる」


ファグナリスの口から漏れた名前に、幹部将校たちは息を飲んだ。『英雄』を知らない人間は西側にはいない。彼らによって奴隷に堕とされた人間も多い。だが、彼らは正面から『英雄』と事を構えたいとは思っていない。

彼らは知っているからだ。

『英雄』という存在がどれだけ人間の枠外から外れているのかを。彼らと戦うということが、自分たちの完全な死を意味しているということを。

それを解かった上で、ファグナリスは宣言する。


「奴ら、慢心の塊だ。何せ、もうこの世界にはあいつらと比肩する敵がいないと思っているからな。『英雄』は五人。それが、奴らの常識だ。そして、お前らの。・・・だが、案ずるな。所詮、少し外れただけの人間だ。殺し方なんぞ無数にある。ウォーロックはその中でも多様な方法で殺せる稀有な『英雄』だ。俺を信じろとは言わない。だが、それは事実だ。俺が証明する。ウォーロックと戦うのは俺一人だけだ」


「な・・・っ! 無謀ですファグナリス様!」


「イグナス、うるさい」


「ローザンヌ様! ファグナリス様をお止めしないんですか!?」


「この人は幾ら言っても聞いてくれません。もういいです」


拗ねたようにそっぽを向いて、イグナスの諫言を跳ね除ける。イグナスはその様子に慌てふためき、誰かの助力を得ようと周囲を見回したが、ローザンヌが暗に認めてしまっている以上、彼らに進言をする自由はなかった。

イグナスは周囲の様子を知ると、大きく息を吐き、肩を落として椅子に座り込んだ。


「イグナス、お前の心配するようなことは起きない。断言する。俺は一切、手傷を負わずにウォーロックの首を切り落とす。・・・無論? お前らが俺の期待する働きをしてくれたなら、という前提があるがな」


「は・・・? 我らの働きですか?」


「そうだ。しっかり働いてくれよ。マリウス」


「うん。じゃあ、作戦会議、始めようか」


邪悪とも呼べる笑みを浮かべて、マリウスがファグナリスの横に立ち、作戦の概要を伝えた。それは、一歩間違えば、大きく自軍の士気を貶めるものだったが、反対するものはいなかった。

何故なら、ある意味で皆は『英雄』ウォーロックを信頼していたからだ。


「な、危険はないだろ? あとは、お前らがやってくれればそれでいい。簡単な話だ」


口元だけに笑みを浮かべて、ファグナリスは全員を睥睨した。決して出来ないとは言わせないと、脅しをかけるかのように。

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