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始動 その3

教会と戦うということは、神の信奉者全てを敵に回すということだ。教会の信奉する女神に帰依し、祈りを捧げているのは各国の存在する。国を挙げて信奉しているなんてのはざらだ。しかし、それを信奉しない、許されない人間もいる。

奴隷だ。

彼らを救ってくれるものはいない。助けてくれるものはいない。神に縋ることすら出来ない許されない。女神は不浄を嫌うとされているからだ。人間以下の存在に、女神を信奉する権利はない。しかし、例え信奉し、帰依する権利を与えられたとしても、彼らは女神を信奉することはないだろう。

彼らは。過酷な運命を課した神を恨んでいる。憎しみを抱え、怨嗟を抱え、憤怒を抱え、しかしそれを抑え込まれている。女神の名の下に彼らを責め苛む全てを憎悪をしている。だが、彼らに抗う手段はなかった。ありとあらゆるものを剥奪されているからだ。魔術も、魔力も、奴隷は封じられている。そのための術式があり、奴隷に堕とされたその時に、呪いを与えられる。封印の術式は強固で並みの魔術師では解呪することが出来ない。それが出来るのは神官だけなのだ。奴隷を作り出すのは教会の特権である。

テニキアス王国連合も、名が違うだけで同じ女神を信奉しており、似通った術式を持っている。

この世界に奴隷のいない国はない。

彼らは気付いていない。潜在的な敵を自らの内に抱えていることを。ただ、例外として滅ぼされたベルゼアムだけが、奴隷を保持していなかった。彼らは教会の教えを強固に否定していた。だからこそ、滅ぼされたのだが・・・


「ファグナリス、本気ですか?」


「何が?」


「教会に宣戦布告することです。それがどれほどの敵を抱えるのか解かっているのですか?」


「解かってるよ。世界全てを敵に回すってことぐらい理解してるさ。だから、やるんだ。ローザンヌ。これは、必要なことだ。奴隷なんてくだらないものを無くす。それが俺の目的だ。俺と一緒に見てきただろう? 虐げられていた彼らを。ミエルハンス皇国では見ることが出来なかったが、あの国だって、王都以外には奴隷はいた。俺もある意味そうだった。・・・くく。馬鹿馬鹿しい。俺たちは女神の奴隷だっていうのに、その真似事するなんて、さ」


吐き棄てるように言ったファグナリスの言葉には、抑え切れない憎悪が篭っていた。その感情の深さにローザンヌは息を呑む。

ファグナリスの一番変わった部分があるとすれば、ここだ。

負の感情を隠すことがなくなったこと。それと同時にファグナリスは自分の命を省みることも、弟妹のことを口にすることもなくなった。


「・・・そうですか。まぁ、理解しているならいいです。ですが、それはアベルくんたちと戦うということですよ? いいんですか?」


「ああ、そうだな。仕方ないんじゃないか? その辺り、アベルには賢明な判断をしてもらうさ。あいつも今は立派な王なんだ。自分で判断しなきゃいけない。いつまでもおんぶに抱っこで生きていけるものか。大人なんだから」


「確かに甘やかしていたんでしょうけど・・・いきなり突っぱねるのは」


「いつまでも保護者をしていたら、アベルだって成長しない。俺と戦うというのなら・・・まぁ、しょうがない。戦うさ。降伏勧告ぐらいはしてやるが、それまでだ」


アベルのことを出しても、ファグナリスの意思は変わらない。ローザンヌは説得することを諦めた。別に奴隷を解放することを否定しているわけではない。ただ・・・彼の望んでいる先が解からない。その辺りがかなり掴み所がなく、曖昧に誤魔化されることが多いからだ。


「・・・解かりました。では、現実的な問題を考えましょう。・・・『英雄』についてです」


教会の影響力の強い西側には、より強く教会に忠誠を誓っている国が五つある。それらの国には一人ずつ強大な力を有する『英雄』と呼ばれる者たちがいる。彼らの戦闘能力は一人にして一軍に匹敵すると言われており、実際、他国の小競り合いに『英雄』が一人だけで出向し、争いを収めたこともある。双方の軍に壊滅的な被害を与えて、だ。

彼らの持つ武具は教会より与えられた神器であると言われている。その力は、天を貫き地を割ると言われている。

それらには大規模破壊魔術を超える天災に等しい力が秘められていた。

ローザンヌは幾度かその力を見たことがあるため、軍勢で戦うことに不安を覚えていた。彼らと戦うだけで被害がとんでもないことになるからだ。


「・・・『英雄』は最早人ではありません。彼らの持つ力は、危険です」


「うん。知ってるよ」


「なら、彼らと戦うことがどれほど無謀なことか、解かっているはずです」


「ローザンヌがそれを言うか?」


「・・・む。・・・まぁ、私も人のことを言えませんけど」


ローザンヌもまた神器を所持している『英雄』の一人である。ファグナリスと旅をした一年で得られたものではなく、彼女は生まれながらにしてそれを所持していた。孤児であった彼女は、教会に拾われた時には既に神器『獅子王の大剣』を掻き抱いていたそうだ。おそらく、彼女の父か母がそれの所持者だったのだろう、とファグナリスは考えている。ただし。教会はその事実を把握していない。理由は解からないが、孤児が親の武器を持ってさ迷い歩くなど、この辺りではそう珍しいことではないからだろう。


「まぁ、大丈夫だよ。基本的に奴らが出てきたら、俺とローザンヌが相手をすればいい。それでなんとかなる。俺たちは前線では戦えなくなるけど、彼ら兵士たちは優秀だし、そのための戦術はその都度考えるし、そのための教育だってしてきた」


「簡単に言いますが。それがどれほど難しいことか、解かってますか?」


「解かってるよ。解かってるから、こうやって戦うことを考えてるんじゃないか。それに、切り札を簡単に切る奴はいない。切ってくれたら好都合。それを叩き潰せば、兵の士気は落ちる。それこそ、絶望的なまでにな。そういうのに頼り切りになるから、一回崩してしまえば脆い」


皮肉気に嘲笑い、ファグナリスは地図を指で叩いた。他にも懸念はある。教会が保持している兵器だ。それは、人知を超える破壊をもたらす。『英雄』に次ぐ脅威と考えていいだろう。ただ、それは所詮、ファグナリスたちが構築した大規模破壊魔術と威力は変わらない。

対処法もある。戦いようはあるのである。


「俺たちが気にすべきは、『英雄』ただ一点だ。奴らが出てくるだけで戦局は大きく変わってしまう。・・・だが、殺せないわけじゃないんだ。どんな手段でも、奴らは殺せる。所詮、人間だ。無論、俺も含めてな」


不死身の人間などいない。

殺せない生物などない。

手段さえあれば、生物は死ぬ。殺せる。


「それを、証明してあげよう」


陰惨な笑みを浮かべて、ファグナリスは立ち上がった。

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