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黒焔 その2

「・・・あまり驚かないんだな」

「あんたのことは、報告に聞いていた。もしかしたら、と思うことはあったよ」

ファグナリスの心は思った以上に穏やかだった。喜びも憤りもない。疑問すら抱かない。目の前にいるのが、敵としか認識出来ないからだ。

「・・・お前は疑問に思ったことはないか?」

「?」

「何故、お前は今の地位にいられるのか。それに関して、お前はこう考えているはずだ。『たまたま自分に戦いに関する才能があった』と。・・・違う。お前に才能何てものはない。なにもな。・・・教えてやる。今からな」

黒の男の持つ剣が漆黒に染まる。対抗するためにファグナリスも剣に魔力を流し込んだ。

黒の男は、緩やかな動作で剣を振るった。それを回避し黒の男の首目掛けて剣を振る。その攻撃は黒の男の持つ剣に止められた。

「同じ力なんだ。止められないわけがないだろう・・・」

虚をつかれたファグナリスは、強かに殴り飛ばされた。そのまま蹴り上げられ、踏みにじられ、また殴られた。何度もそれが繰り返された。

幾つかの肋骨が折れ、罅を入れられたが剣で切りつけられることはなかった。

痛みに体が震え、血へどを吐いた。

「・・・痛いか? 大丈夫だ。すぐに直る。俺たちはそういう風に出来ているからな。ほら、ニウリエラの頭を弄ったように土から奪い取れ。そこは、生命の宝庫だ」

言われたまま、痛みから逃れるためにファグナリスは魔力を大地に向けた。黒い焔のような線が地面を覆った。

一瞬だった。

黒い焔の線が燃え上がり周囲を焼き尽くすと、ファグナリスはケガを忘れさせるような動きで立ち上がった。地面は、土と砂が入り交じった寂れたものに変わっていた。

「・・・何が起こったのか解るか?」

「ああ」

黒い焔の線が覆ったところから、そこにあった生命を奪い取り我が物とし、回復に回したのだ。しかし、そんな魔術は存在しない。たがらこそ、ファグナリスは自身に起こったことが信じられなかった。

「この力は、回復だけじゃない。相手の知識や技術を奪うことも出来る。お前がニウリエラの記憶を垣間見たようにな」

「・・・」

「解るか? お前には才能なんてものはない。今、お前が出来ることは、全てそれが出来ていた他人を殺し奪い取ったものだ。・・・お前の性格は、お前の母に似ている。家族を想う優しい人だった・・・」

懐古するように彼は目を閉じた。

「待て。俺の母親は、物心ついたあとも生きていた。俺は殺してない・・・!」

「・・・リリアナのことを言っているなら、それは違う。彼女はお前の乳母になるはずだったんだ。子を流産した彼女がお前を連れて逃げ出した。しかし、それを責めるつもりはない。あの状況では仕方なかった」

「・・・嘘だ、嘘だ!」

「すぐにわかる。すぐにな」

激情に駆られ、ファグナリスは黒の男に飛び掛かった。

いつもならこんな行動は取らない。潔く退き、追ってくるならば部隊で対応する。ファグナリスは、自身がそれほど強くないことを知っているのだから。

だが、今はそんなことすら忘れていた。

ただ地面を蹴り上げ、叫びながら飛び掛かる。動きが洗練されることはなく、不様に地面に叩きつけられる。

「お前の母は、小さな国の弱小貴族の娘だった。俺はしがない旅人だった。俺は、戦うことに疲れていて、彼女と出会ったのは偶々だった。色々あったよ、色々な。リリアナは、彼女の幼馴染みで、そのツテでリリアナと出会った」

「黙れ!」

「昔話は嫌いか?」

「俺の母親は、リリアナだ! お前の語る人なんて知らない!」

「当たり前だ。お前が殺したんだからな」

「っ!」

「お前の部隊指揮を俺は覚えがある。彼もお前が殺したんだ。お前がやれることは全て借り物だ。本来、俺たちは何も出来ないんだから。・・・お前が激昂しているのは、その事実に覚えがあるからだ。お前、将来の夢を見たこともないだろう? しょうがない。お前にはそれを見るための骨子がないんだ」

「黙れぇええええ!」

周囲を焼き尽くすように黒い焔が荒れ狂う。それが触れた部分が、それがどんなものであれ形を保つことはなかった。

それを見て、黒の男は目を細めた。

「お前が産まれた時もこんな風だった。お前は、触れるもの全てを飲み込んだ。己の空白を埋めるためにな。俺が傍にいてやれなかったからだ。だから、別にお前に恨みはないさ・・・俺は、疲れたよ。疲れた・・・」

黒の男は、穏やかな笑みを浮かべると、抵抗することなくその焔に包まれた。彼は焼き尽くされ、骨の一辺すら残ることなく焼失した。

ファグナリスは、黒の男の焼失に伴って自身を襲った情報の奔流に耐えきれず、意識を失った。

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