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黒焔

首をカスペルに渡した。この首はアベルが王宮にたどり着いた後、国民と反乱軍の前にアベルの手によって晒されることになっている。これを持って、反乱は終結したとするつもりなのだ。

軍はカスペル以下、信頼のおける将軍が完全に掌握した。少なくとも王都周辺で軍事行動が行われることはない。

速やかに事が進んだお陰で被害はほとんどなく、結果として予想し得る最高の形で終息することになるだろう。

さすがに抵抗のない場所で暴れるほど、アベルはバカではないだろうし、ニウリエラもそれは強制は出来まい。

ファグナリスは、事態の終了を宣言し、部隊に休養を言い渡し、解散した。

ただ、兵の仕事はここで終わりだが、ファグナリスの仕事はまだ終わらない。これから、アベルの出迎えに行き、これまでのツケを払わせるべく今後の予定を叩き込まなくてはならないのだ。

アベルの地獄はこれからである。今までのんびり自由に遊んでいたのだから、馬車馬のように働いてもらう。

カスペルも今回についてはかなり立腹しているから、スパルタで政治を叩き込むだろう。

そこにファグナリスは関わるつもりはなかった。古参の兵士に言われた通り、少し休養を取ろうと思っていた。カスペルもが、それに対して個人的には賛同してくれていたのも、ファグナリスの背を押した。

そんなことを考えている内に、アベルの陣営に入っていた。使者は立てていたから、すんなりと陣内に入ることが出来た。

馬を近くにいた兵士に預け、天幕を潜る。

「・・・アベル、久しぶりだな」

「うん。久しぶり、兄ちゃん。異母姉さんの具合が悪いんだろ? こんなとこにいていいのか?」

「お前が言うな、バカ野郎。お前が余計なことをしなきゃ、傍にいてやれたんだ」

「う・・・ごめん、兄ちゃん。でも・・・」

「解ってる。・・・だが、覚悟は出来てるんだろうな?これから、お前の立場は大きく変わる。今までのようにのんびり出来ると思うなよ」

「解ってる」

ファグナリスの恫喝のような言葉に、アベルは力強く答えた。

「よし。なら、登城する前に目を通せ。ただし、馬の上でな」

「これは?」

「今後の予定だ。休む暇はないぞ」

ぱらぱらと手渡された書類にざっと目を通し、アベルは眉をしかめた。

「マジか・・・」

「諦めろよ・・・ニウリエラ様は?」

「彼女なら、少し外に出てるよ。たぶん、丘の方だと思う」

「・・・そうか。少し彼女に話がある。先に出ていろ。護衛部隊を引き連れていけよ」

「解った」

素直に頷くアベルを一瞥し、ファグナリスは踵を返した。


結局、さほど国力を削ることもできず、内政に食い込むことも出来なかった。しかし、それに対してさほどショックはなかった。アールキエが、もはやこの国の行く末を見通していることが解ったからだ。次の指示が与えられるまでは、静かにアベルに寄り添えることに喜びを感じている自分に、ニウリエラは苦笑を浮かべた。

「・・・来たのね」

「あぁ・・・アベルの手前、手荒なことはしたくない。お前の管理している工場の場所を吐け」

「教えれば見逃してくれるの?」

「見逃す。・・・お前とアベルの関係は知っている。監視つきになるが、アベルの傍にいても良い」

「・・・」

ニウリエラは滑らかに自分が直轄している工場の場所を全て吐いた。

「素直だな」

「この国の行く末は決まっているわ。もう、隠すこともない。それよりも、私を見逃すなんて、どういうつもり?」

「何も変わらないからだ。今さらお前を排除したところで、何も変わらない。なら、無駄なことはしない。疲れるだけだからな。確かに煮え湯を飲まされたし、暗殺したいとは思ったが・・・」

それは個人の感情とは、関係ないことだ。ニウリエラのことが嫌いだから、憎いから殺したかったわけではないのだから。


「ならば、排除しよう」


剣の切っ先が、ニウリエラの胸を貫いていた。彼女の背後には全身を黒で固めた壮年の男が立っていた。無表情、無感情のまま剣を引き抜き血を払った。

「あ、あ、ニウリエラ、ニウリエラ?」

「アベル!?」

「貴様ぁああああっ!!」

おそらく、少し心配になったのだろう。天幕から出たアベルが、見たのは凶刃に倒れる愛した女の姿だった。

剣を抜き、アベルは黒の男に襲い掛かった。

しかし、怒りに任せた一撃はあっさりといなされた。アベルは突っ込んだ勢いのまま丘を転げ落ちた。

立ち上がるアベルに殺意を見て取った黒の男は、アベルに向かって剣を降り下ろした。

「ぐっ・・・」

「兄ちゃん!?」

黒の男の剣を受け止め、ファグナリスは唸り声を上げた。

「ニウリエラを連れて行け」

「・・・」

「早くしろ!!」

「くそっ!」

アベルは、ニウリエラを抱えあげ、馬に飛び乗った。

「あの娘は、助かるまい」

「解ってるさ・・・」

せめて最期ぐらいは、穏やかに逝って欲しいと咄嗟に考えたから、アベルに発破をかけたのだ。

「あんた、あの娘の仲間じゃないのか? 何であんなことをした」

「お前が望んだからだ。それを叶えた。それだけだ」

「訳が解らん。お前、何者だ」

「・・・俺が解らないのもしょうがない。だが、俺はお前を知っている。お前は、俺の『次の俺(むすこ)』だ」

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