表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/87

蜂起 その3

「・・・早い」

王都での動きに、ニウリエラは驚嘆した。カスペルの決断力が高すぎて、仕掛けた側が混乱させられ、対策に焦らされるという事態に陥らされてしまった。

王都の内側の情報を握っているのはニウリエラだけだから、誰にも相談出来ないし、したところで理解出来る人間も少ない。

王都での動きは本来、こちら側にとっては喜ぶべき事態なのだ。それに対応する理由がない。そう考えるだろう。

しかし、王都での動きは首をすげ替えるだけで現状が変わるわけではない。だが、それを学のない民にそれが理解出来るかどうか。単純に上が変わればいいわけではない。本来なら全てを変えるべきなのだが、ニウリエラにそこまでしてやる義理はない。

彼女の任務は、ミエルハンス皇国の弱体化である。これもその一環であり、あわよくば内政に食い込むための手段でしかない。

だが、カスペルの動きはそれを阻害するものだ。彼は国を護るために頭をすげ替える決断したのだ。おそらく王冠はアベルが戴くことになるだろう。現王の一党はファグナリスが殺し尽くす。抵抗の暇さえ与えられないはずだ。

しかし、それではニウリエラが政治に関われない。カスペルに排除されるのが目に見えている。

「ニウリエラ、どうかしたのか?」

「アベル・・・なんでもないわ。ただ、王都の動きが気になるだけ」

「そうだな・・・思ったより向こうの動きが緩慢だ。本気で鎮圧する気があるのかって思うよ」

「・・・そうね。もしかしたら、やる気がないのかもしれないわね・・・」

カスペルが圧力をかけているのだろう。兵力を温存したいのだ。暴徒もまた、元を正せば平穏を好む変てつのない民だ。彼らは生産力である。無駄に数を減らしたくないのだろう。

賢明な判断だ。何が起きているか正確に把握している証拠だ。

「なんにせよ、この調子なら被害を最小限に抑えられるはずだ。不気味なくらい順調だ」

それが実父と実兄の暗躍によるものだと、アベルは気付けない。しかし、それはしょうがないことだろう。まさか、そこまで甘やかされているなんて誰が考えるだろう。

素直が取り柄のお坊っちゃま。可愛がられ、甘やかされていることに気付かないお人形。半ば意思が尊重されているせいで、自立していると思い込んでいるのが、憐れで、それ故に愛しく感じられる。

そう。まるで、自分を見ているかのように錯覚する。

アールキエの従順な人形。気紛れで壊される取り替えのきく代替品。

似て非なるものなのに。・・・いや、だからこそ、だろう。

「・・・アベル」

切ない声で、アベルを呼ぶ。彼は、疑問符を浮かべながら、それでも近付いてきた。そっと、首に腕を絡め、耳元でまた名前を呼んだ。

今は、ただ彼の温もりが無性に欲しかった。


ニウリエラとは別口で報告を受けたアールキエは、興味のない声で、そう、とだけ答えた。実際、ミエルハンス皇国の動向にもはや興味はなかった。

ニウリエラの企みが上手くいこうがいくまいが、帰決は変わらない。事はそういう段階に入っている。

今回の蜂起を受けて、あちら側を纏めている教会はミエルハンス皇国を見捨てるだろう。隙あらば自ら支配に乗り出すはずだ。戦力には事欠かない。何せテニキアス王国連合との矢面に立っていたのはミエルハンス皇国だけで、他の傘下にある国は傷付いていない十全の戦力を保持している。

そして、ミエルハンス皇国は今回の事態で、深く傷付くことになる。それこそ他国に介入されるほどに。

生き残るには別の後ろ楯が必要だ。

そう。教会と敵対することを恐れない強国ーーつまりテニキアス王国連合だ。連合に加入すれば、一先ず国の体裁は守れる。少なくとも、哀れに滅ぶことはなくなる。

遺恨があるから、ある程度領土は割譲されるが、それだけだ。前回の戦争を主導した上層部は今回の件で処刑されるから、こちらから言うことはない。賠償は払わせる。

それで手打ちだ。

「これで一旦戦争は終わりね」

膝の上に乗せた我が子をあやしながら、憂鬱な声で呟く。

現在、アールキエの肩書きは正王妃。以前の王妃は、アールキエが世継ぎを産んだことで、今は後宮に追いやられ、日々を静かに、穏やかに過ごしている。元々以前の王妃は野心があるような人ではなかったので、今の暮らしに満足しているようだった。

何せ、病に苦しみ床に伏せる愛する王の傍に愛する娘たちといられるのだから、文句などあるまい。

そのような状況だから、テニキアス王国連合の政治はアールキエが支配している。名目としては、王の代行である王子を支えるという形になる。

それに反発する勢力もあるが、片付くのは時間の問題だった。

アールキエに忠誠を誓う若い勢力が、それぞれの国で台頭し、権力闘争に勝ち抜いている。おそらく次の御前会議では、集まる顔ぶれが一変することになるだろう。

「とりあえず、国力を上げないとね。じゃないと、次の戦争が出来ないわ。しばらくは平和の維持。それが最優先かしら・・・」

幾つかの死刑執行書に片手間でサインし、カーラムを呼びつけて手渡した。

恭しく頭を下げて退室するカーラムを横目に、またアールキエはため息をついた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ