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蜂起 その2

カスペルがブチキレた。

アベルが、ニウリエラに唆されていることは、無論、理解していたし、それ自体はアベルが若く未熟であるから仕方ないと思わない部分がないわけではなかったが、まさか陛下に刃を向ける企みに乗ってしまうほどだとは思っていなかったのだ。

大事な我が子ではあるから、基本的にやりたいことは自由にやらせてきた。戦場に身を置くのはまだ早いと思ったから、それだけはさせなかったが。

しかし、まさか。こんなことになるとは。それが、カスペルの正直な感想である。

同じように報告を聞いたファグナリスは、僅かに眉をしかめただけだった。カスペルと比べ王に対する忠誠心はかなり低いから、面倒なことになったという感覚でしかなかったのだ。

「アベル、あのバカ息子が・・・!」

執務机の上に重ねられた書類や小物を払い除け、カスペルは苛立ちを隠すことなく叫んだ。


ミエルハンス皇国の東側、テニキアス王国連合を背にした地区で大規模な暴動が起こった。そこを管轄する領主の私兵が鎮圧に向かったが、暴徒と接触した後、連絡を断った。領主がことの以上を察し、王都に救援を要請。近くを監査、行軍していた部隊がのんびりと現場に向かったことで状況が判明した。

まず、領主の私兵だが、司令官以下幹部は殺され、それ以外の兵が暴徒に吸収されていた。司令官たちを殺したのは、彼らの部下で、それは唐突な裏切りなどではなく予定通りの行動だった。

彼らは領主や司令官らに日頃から不満を抱いており、何かしらの切っ掛けがあればこういう行動をとることは予測されていた。

この辺りの民は、かなりの鬱屈を抱えていた。それはこの辺りがテニキアス王国連合の国境に接しており、戦禍に巻き込まれやすいということ。加えて脅威に対抗するための兵力を整えるための兵役。しかし、ここまでなら我慢がきく。必要なことであり、どうしようもできないことだからだ。

だからこそ、領主個人の私腹を肥やすためのす重税に耐えられなかった。そのせいで、不幸や絶望に追い込まれた人間は数えきれないほどいた。王はその事実に無関心で、王自身も放蕩に耽っている。たまに動けば戦争で、結局搾取されてしまう。

限界だったのだ。

そこに手を差し伸べるものが現れた。背中を押すものが現れたことが引き金になった。さらに、そこに民を代表する、王位継承権を保持する青年が現れた。

もはや、遠慮する理由はなくなった。

彼らは、新たな王たる人間を担ぎ上げたのだ。その王こそが、自分達を救ってくれると信じたのだ。

無論、夢想である。

「アベルに政治展望などない。例え王を打倒したところで、現状が変わるわけではない。逆に悪化する可能性の方が高い・・・」

王を打倒するということは、現政権を維持している家臣団を根こそぎ駆逐するということである。それは明らかな国力の弱体化を意味する。

アベルの周囲に政治に関われる人材はいない。

ニウリエラに頼れば、テニキアス王国連合に吸収されるのは目に見えている。

ただ、教会との繋がりが揺らいでいる現状では、今の段階でも連合に加わることは考えられている。問題はどれだけの国力を維持したまま加入するかだ。

最高は現状のまま。

最悪は完全に吸収されること。

妥協点は、幾つかの領土を宗主国となるテニキアスに明け渡し、弱体を最低限に留めること。

なんにせよ、今回の事態を治めなくてはならない。

まずはそれからだ。

「ファグナリス。私はどうすべきだと思う?」

「率直に言って、現在の王は限界です。そろそろ次を考えるべきかと。・・・例え、今回の件を治めたとしても、カスペル様の処罰は免れないでしょう。先手を打ちましょう」

「お前は率直だな」

「生まれがよくないもので。だからこそ、家族だけは守ります」

「私はお前の家族か?」

「はい。アベルもまた」

「・・・私はそれほど権力に執着はないつもりだ。ただ、家を守りたいだけの人間なんだ」

「はい」

「言い訳をさせてくれ。・・・けしてこの状況を望んだわけじゃないんだ。反意など・・・抱いたこともない」

「解っています。あなたは、誠心誠意、陛下に仕えていました。それを自分は知っています」

「ままならないな・・・本当に」

深々とため息をついて、カスペルは深く椅子に腰かけた。

「ファグナリス。出兵しよう。幾つか協力者を作る」

「心当たりは?」

「幾つかある。不満を抱きつつも懸命に仕えている人間がいる。彼らと今後について擦り合わせをする。ここで挙兵したら、どれぐらいで終わる?」

「二時間以内に終わります」

「アベルが、ここまで来るのにまだ、時間はあるな」

「はい。かなり余裕を持って行動出来るでしょう」

アベルが正規軍を蹴散らして王都に辿り着くまで、かなりの日数を要するはずだ。その間に意見を擦り合わせるのはさほど難しいことではない。

「・・・こんな時期にすまないね。本当はリーゼリアの傍にいたいだろう?」

「仕方ありませんよ。タイミングが悪かった。それだけです」

諦めの混じったため息を吐き、ファグナリスは肩を竦めた。

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