表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/87

蜂起

実戦では使えない魔術による通信で、アールキエはニウリエラから報告を受けていた。事態に関してはほぼ予想通り推移していた。

ミエルハンス皇国の各地に配していた密偵の報告もそれを裏付けていた。幾つかの後押しとして、燻る民や下級貴族の家族を事故や病気に見せ掛けて暗殺し、怒りや恨みを煽り、テニキアス王国連合から秘密りに金や武器、魔術的な技術を流しテニキアス王国連合に対してのイメージを揺るがし、内乱の火種をばら蒔いた。

内側に協力者がいたから出来た荒業だ。

「思ったより脆かったわね」

「はい。私を強硬に排除しようとしなかった弊害ですね」

理由は幾つかあるが、一番はファグナリスの弱腰だった。最も事態の核心に身を起きながら、根本的な解決を図ろうとしなかった結果だ。

無論、そうなるように仕向けた部分があることはニウリエラは否定しない。

ニウリルという、他人の身体を奪い取り活動している最中にアールキエが気にしていた部隊について調べ、ファグナリスのことを知った。特段クローズされていた情報ではなかったから、簡単に来歴を知ることが出来た。彼の人となりまで調べ、なんの役にたつかと思ったが、それが意外と役立ったことに今でもニウリエラは驚きを覚えている。

「ただ、それでも水際の対応は厄介です。カスペルは優秀ですね」

ファグナリスたちが強硬しなかったのは、ニウリエラを直接排除することだけで、それ以外の部分に妥協を見せなかった。

例えば、腐敗貴族を使いクーデターを画策したが、直前にファグナリスたちがそれを最低限の犠牲で終息させてしまった。計画が失敗することは前提だったが、予想よりも被害を抑えられてしまった。ついでにカスペルにとって邪魔な貴族、ニウリエラの信奉者も始末されてしまい、ニウリエラの発言力は低下させられてしまった。

麻薬に関しても、浸透率を抑え込まれている。少なくとも市政に出回る数はかなり少なくされている。

ファグナリスは、自分が思っている以上に彼女の手札を潰していた。彼女が直轄する工場以外、全て潰されているのが証左である。

「市政に出回っていないのであれば、それはありがたいことだわ。浸透させたいのはあくまで行政関係者だけなのだし」

「それについては滞りなく。この一年でだいぶ汚染出来ました。幾つかの領地は機能不全を起こしています」

「少し早いけど、次の段階に進める?」

「無論です。手駒は揃っています。いつでも望むままに」

「では次の段階に。期待しているわ」

ぶつりと通信が断ち切られる。ニウリエラは、深く息を吐き出し、体の内側に凝った疲れを吐き出した。

直接ファグナリスが仕掛けてくることはないと思ってはいたが、それでも事を起こす段階に至れば、周囲を警戒せざるを得ず、緊張と恐怖で身体が思うように動かなくなることはよくあった。

それをまぎらわすため、ニウリエラは文机の引き出しから薬包を取り出し、一気に煽った。

多幸感に包まれ、ニウリエラは緩い微笑を浮かべた。

感覚が落ち着くまで待ってから、ニウリエラはアベルを呼び出した。

「どうかした?」

「アベル。確認したいことがあるの」

「なに?」

この一年で、アベルは以前よりもずっと大人びた。幼さがなくなり、余裕が言葉や動作の端々に現れるようになったのだ。無論、そこにはニウリエラとの関係も含まれる。

アベルは否定するが、実質的にニウリエラと彼は恋人のような関係になっていた。そこには様々な思惑が行き交っていたが、この関係だけは偶発的に発展したものだった。

ニウリエラにしても、今のアベルとの関係は心地好いものだったが、アールキエに対する忠誠心は揺るぎないものであり、彼女の命令ならば、この関係を利用することに躊躇いはなかった。

命令は降された。ニウリエラは、ただそれに従うだけだ。

「これから私は、ある人たちに会うことになっているの。それは、あなたの御父様や・・・陛下の運命を大きく変えるものになる。でも、信じてほしい。私は、私の利益のために何かをするわけじゃない。そして、それはアベル・・・あなたの価値観や信じていたものを壊すわ。もし、あなたが望まないなら、無理強いはしない」

「ニウリエラ・・・俺は、君を護ると誓った。君のためならどんな困難だって受け入れるし、乗り越える。絶対に君を一人にしない」

「・・・ありがとう」

与えられると解っていた言葉だったが、とても嬉しかった。

「アベル。愛してるわ」

アベルの胸に体を預け、囁くような声で本心を伝えた。


この三日後、アベルはニウリエラに連れられて、王都から離れた小さな村に案内された。そこにいたのは、貧困層の女であったり重税を課せられ困窮する農民であったりした。

彼らに共通するのは、現在の王政に対する不満を抱く民であるということ。

そこでアベルは、ミエルハンス皇国の今の姿を知った。

「・・・アベル、私は、彼らを救いたいの。あなたが、旗頭になれば、これから起こる戦いの正統性を得ることが出来るの。お願い、彼らを助けて。そしてあなたの手で正しい世界を取り戻して!」

僅かに迷いながら、アベルはニウリエラの言葉を受け入れた。

きっとファグナリスも理解してくれると、楽観的に考えて。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ