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麗しき・・・ その3

ファグナリスの言葉にニウリルは目を見開いた。そして愚かにも、その言葉を発した彼をじっと見据えたまま硬直してしまった。

その行動自体が自分の首を絞めていると解っていながら、だ。

「なぜ・・・」

「・・・最近の話だが、この辺りにたちの悪い薬が出回っていてな。調査をしていた人間がいたんだ」

「・・・」

向けられるファグナリスの瞳は冷たい。確証があるのだ。

ニウリルに覚えがないわけではない。ファグナリスのいう薬を、自ら常習しているし、アールキエの指示で実験として街にも流している。だが、ニウリルは物を流す前段階に関わっていても、いざ売り出す段に置いては一切関与していなかった。

自分の素性も公言していない。

何故、ファグナリスは確証を持っているのか。疑問だけがニウリルの心の中に渦巻いていた。

「薬、ですか? それが私になんの関係があると?」

「売人を一人ずつ、別々の場所で一気に締め上げた。二日前の話だ。ただ、そのまま状況は、俺にあげられずに進んだ。元締めのお前の名前が出た時点で、お前を仲介した男に当たった。吐いてくれたのが十時間前の話だ。解ったことは、お前の名と素性とテニキアス王国連合が関わっているということ」

テニキアス王国連合が、ミエルハンス皇国の弱体化を狙って薬をばら蒔こうとしているのも、情報を欲して人を潜入させるのも理解できることだ。ファグナリスも同じようなことをしているのだから。

ただ、理解できないのは、テニキアス王国連合に滅ぼされたオルナントの王女が、テニキアス王国連合の手先になっているという事実だ。

苦界に身を落としてまで仕える義理などないのだ。奴隷として売り払われたのならともかくとして、だ。

「何故、テニキアス王国連合に忠誠を誓うような真似をしているんだ?」

「・・・」

「あぁ、言わなくていい。勝手に識るから」

ニウリルの肩を掴む手に力が入る。その痛みに彼女は苦悶の声をあげた。

ファグナリスの腕に黒い焔が絡み付いている。少なくともニウリルにはそう見えた。

それで、ファグナリスはニウリルの額に叩き付けるに触れた。

「ぎっ・・・!?」

内臓を直接引っ掻き回されるような痛みが、ニウリルを襲った。異物が体の中で暴れまわっている、否。神経を直接焼き尽くされているのだと、ニウリルが気付くまでさほど時間はかからなかった。

あまりの痛みに声すら上げられない。

それでも、ニウリルはファグナリスを突き飛ばすことに成功した。それだけで、痛みが消え失せた。だが・・・

「記憶、が・・・!?」

焼け爛れたように、記憶が焼失した。

「・・・ち。虫食いか」

吐き捨てるように言って、ファグナリスは黒い焔に包まれたような腕を抱えながら立ち上がった。

その「在り方」にニウリルは覚えがあった。

「黒の男・・・!?」

ならば、ここにいるのはあまりにも危険過ぎる。砕けたような腰を引っ張り上げるように立ち上がり、ニウリルは踵を返して走り出した。

その後ろ姿を、ファグナリスは無感動に見据えた。


焼失した記憶に、困るものはない。そもそも与えられていた情報に重要なものはない。ただ、記憶を焼かれ、失った事実は、思った以上のショックをニウリルに与えていた。

走っている方向さえも、実は定かではない。

とにかく、ファグナリスから遠ざかりたかった。あの近くには濃密な死の気配に包まれていて、一秒でも長くいてはいけないと心底から思わされた。

恐ろしかったのだ。

だから、そんな時に現れた少女にニウリルは気抜けしてしまった。

修道服を身に纏った金髪金瞳の少女。その手には体格に不釣り合いな巨大な剣が握られていて、どこかこの世界から浮いていた。

「オルナント王女、ですね?」

静かな声だった。とても澄んでいて、清廉なその声にニウリルは反射的に頷いていた。

「殺します。どうぞ恨んでください」

大剣を上段に構え、呼気が吐き出された瞬間、彼女から大質量の魔力が放たれた。目も眩むほどの金色の輝きが周囲を照らし出す。

「・・・うそ」

たかが人間一人に向けるような力ではない。一帯を焼き尽くしたとしてもまだ有り余るであろう力の奔流。それを一身に浴びせられるというのはどれほどの恐怖か。

既にニウリルは意識を半ば投げ出していた。抵抗の無意味さは考えなくとも解ったからだ。

「敬意を表し、私の全力で肉片ひとつ残さず消します。なので、死体の処理等、気にすることはありません。誰にも辱しめさせませんから」

大剣が降り下ろされる。

金色の魔力が、津波のようにニウリルの体を飲み込んだ。一辺の容赦なく、肉片ひとつ残さず、ニウリルはこの世から完全に消失した。


「・・・っ、はっ、あ、はあ、はあ、はあ・・・」

彼女は呼気を乱しながら、横たわっていたベッドから転がり落ちるように起き上がった。

その様子を愉しそうにアールキエが眺めている。

「どう? 気分は?」

「本当に死んだかと・・・」

「良い経験をしたわね」

「最悪の気分です・・・」

「それは可哀想に。さ、報告なさい。それが終わったら休んでもいいわ」

「はい」

恭しくこうべを垂れる彼女からの報告を受けて、アールキエは満足そうに笑った。

「いいわ。そういうのが欲しかったのよ」

うまくおつかいをこなせた子供を褒めるように、彼女の頭を優しく撫でてやる。

「あ、それと、なんですが・・・」

「ん? なぁに?」

「向こうに黒の男と同じような奴を見付けました」

「そう。・・・そう、詳しく聞かせてくれるかしら?」

微笑み、アールキエは彼女の言葉にこれまで以上に深く耳を傾けた。

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