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日常 その4

タストリアの国境を超えるテニキアス王国連合の姿を視界に捉え、アキエナを侍らせたファグナリスは小さく頷いた。

タストリアの方もテニキアス王国連合の動きに合わせて部隊が展開を始めていた。

「マリウス。準備の方は?」

「いつでも行けるよ。指示通り、術式展開は見習いの魔術兵に任せてある」

「ケービット、お前の部隊を所定の位置に移動してくれ。別命あるまで待機」

「了解」

「フー、なんで見習いに任せるの?」

「熟練の魔術兵を育成するのは時間がかかる。これは経験を積ませることと、未熟な魔術兵でも術式を起動させられるのか見るための実験だよ」

淡々とした口調で事務的に説明をし、ファグナリスは注意深くテニキアス王国連合側を見据えた。今回の実験では、比較的テニキアス王国連合側にダメージを与えるように攻撃を行うようにするため、タイミングを計る必要があった。

「・・・これより第二次大規模攻性魔術起動実験を開始する。術式を展開せよ」

「了解。術式起動開始」

マリウスの指示により、四方八方に散らされた魔術兵たちによる詠唱が始まった。

魔術を知らない人間でも解るほどの高密度の魔力が、うねりをあげて周囲に満ちていく。しかし、これは同時に相手にこちらが攻撃を仕掛けることを喧伝しているようなもので、折角の奇襲のチャンスを潰しているようなものだ。勘の良いものならば、こちらの居場所に見当をつけることも可能だろう。

無論、これは想定の範囲内のことであるから、無駄に焦ることはしない。

「ケービット。五分間、こちらの位置に感付いた奴を適当に牽制してくれ」

「出るかね、そんな奴」

伝令を出し、ケービットは前線に向かって前進した。

ケービットの予想に反して、すぐにタストリア、テニキアス両軍から小部隊が突出し、魔術兵配置位置へ移動を開始した。

「勘の良い隊長がいたんだね。可哀想」

「優秀なのが仇になったってことだ。残念だ」

「ファグナリス、予想より展開が遅いみたいなんだ。幾つかの過程を省略したいんだけど、いいかい?」

「許可する」

「ありがとう」

マリウスが、素早く術式を構築し幾つかの省略パターンを構築した。その中のもっとも早く組上がる形を各配置魔術兵に送り付けた。

構築され始めていた魔方陣の形が僅かに歪み、しかし、先ほどより早い速度で構築が再開された。

「うん。これで予定通り完成するけど、想定よりも威力は落ちるね」

「三十%ぐらいかな。前後するけどそのくらい」

マリウスの言葉をアキエナが補足する。三十%ぐらいならば、問題はないと判断し、ファグナリスは小さく頷いた。

ケービットが少しやり過ぎな程度の損害を与えて撤退を開始した。彼の部隊が陽動になってしまい、両軍をちょうど術式の中央に呼び込んでしまったようだが、どうしようもないので、このまま状況を進めることにする。

ちらりとマリウスを見る。

「いつでも」

「術式解放。攻撃開始」

「了解。術式解放攻撃開始」

魔方陣が空に投射される。そのあまりにも巨大さに両軍は動きを止めた。それが、自分たちの首を絞めたことに、彼らは気付かなかった。

光の柱が地面に向かって放たれる。最初の一本から始まり、すぐに魔方陣から溢れるように無数に両軍に向かって堕ちた。

暴威は数秒に渡って振るわれた。逃げ惑うことすら許されず、両軍はあっという間に瓦解した。

「実験終了。魔術兵を回収し撤退する」

剣を抜き、小隊を一つ引き連れ、ファグナリスはあの魔術攻撃に曝されて尚、戦意を失なっていない兵士たちを絶望の淵に叩き込むように攻撃を開始した。

タストリア、テニキアスの区別なく、ファグナリスたちは剣を振るった。逃げるものは基本的に見逃した。


「ねぇ、フー」

帰路の道すがら、アキエナは甘えるような声でファグナリスを呼んだ。

部隊の指揮をケービットに任せ、アキエナを村に送り届けるところでの話。

「なんで、あんな魔術を作ろうとしてるの? 城でも落とす気?」

「俺は俺の部隊を出来るだけ消耗させたくないだけだよ。・・・最近の陛下はどうもおかしい。何かにつけて殺せ殺せと言う。幾つかの有力貴族に俺の部隊から密偵をつけてるんだけど、それも無意味だ。彼らに反意はない」

「・・・でも、攻めろと言われたら従うしかない。あぁ、だから対軍対城の武器が必要なんだね」

有力な貴族の住まいは、王都ほどではないにしろ、かなり堅牢に作られていることが多い。それは、その領地が一つの防衛線としての役割を果たしているからだ。

それを落とそうというのなら、生半可な装備では太刀打ち出来ない。兵の損害もバカにならないだろう。だからこそ、ファグナリスは大きな力を求め、日々魔術的な実験を繰り返しているのだ。

「・・・そういうことなら、もっと積極的に協力しないとね。頑張っちゃうぞ~!」

程々にね、と小さく呟くように言って、ファグナリスはアキエナから視線を切った。

その様子に微笑を浮かべて、アキエナはファグナリスの頬を優しく撫でた。彼の感触を確かめるように緩やかに。

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