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覇焔の夢見た理想郷  作者: 葦原葛西
少年と少女
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密命 その4

ファグナリスは、警備という名目で本来なら立ち入ることの出来ないパーティー会場に足を踏み入れた。全てがきらびやかに写るこの会場で浮いていないか気になったが、すぐに気にならなくなった。

アールキエの姿を見付けたからだ。

・・・考えることは一緒だということだろう。アールキエの隣にいる豪奢な衣装を纏った青年が、おそらく弟王だ。

「何を熱心に見詰めてるんですか?」

「ああ、綺麗な子だね。気になるのかい?」

ローザンヌとマリウスが、ケービットと似たようなことを言い放ち、ファグナリスをげんなりとさせた。

彼女たちも警備名目だが、見事にドレスを着こなしている様はどこぞの令嬢や子息と言われてもしっくりと来る。違和感がないのだ。ごく当たり前に彼女たちはこの場に馴染んでいる。

「違うよ。もう、ケービットといいお前たちといい、なんでもかんでも言えばいいってもんじゃないだろ?」

「とりあえず疑問は口にすべきかと」

「推察って大事だと思うよ。解らないことが解る喜びなんてのもあるわけだし」

「それ、他人の行動に関係ある?」

一挙手一投足に意味を探すほど無茶はないだろうに。そんなことしたら、世の中は疑問だらけで回らなくなる。

「ないねぇ」

「邪推は楽しいですよ」

「・・・聖職者の言葉じゃない」

「ここにいる時点で、聖職者ではなくなってると思うけどね。僕はもう割りきってるよ。元々、好きでいた場所ではないしね」

「それはそれ。これはこれ、ですよ」

言い方は違うが、意味は同じだ。

誰しも何かを諦め、何かを割り切る。それはどんな人間だろうと変わらない。それを成長と呼ぶか、逃避と呼ぶか、それぞれである。

「もういいから、リーゼリアの護衛に戻ってくれよ!」

「いいじゃないか。暇なんだよ。それに知ってるんだよ? ファグナリス、君、ケービットと遊び歩いていたらしいじゃないか。僕らが真面目に仕事している時に」

「とは言ってもリーゼリア様のお話に相槌を打って、お菓子を食べながらお茶をしていただけですが」

「ローザンヌ、それは内緒にしようって言ったじゃないか。帰ったらご飯を食べさせてもらうんじゃなかったの?」

「いえ、それでも朝からお酒を飲んでいた方よりはマシという流れにしようと思いまして」

「成る程。一理あるね」

ねぇよ! と、力一杯叫びたかったが場所が場所なので自重せざるを得ず、ファグナリスは唇をひきつらせた。

しばらく二人との雑談に付き合わされ、自分から離れれば良いことに気付いたファグナリスは、話途中だったが、こっそりとその場から離れた。

収拾のつかない話に付き合うほど疲れることはない。

カリアスはテニキアスの弟王の近くで談笑している。その付かず離れずの距離にアールキエがおり、似たような位置にファグナリスも陣取った。テニキアスの人間がいるため、ファグナリスもそれほど浮くことはなく、同じことがアールキエにも言えた。

どちらもお互いの国では異邦の容姿をしているのだから。

お互いのことには気付いているが言葉はおろか、視線を合わせることもしない。自分たちの立ち位置が自然とそうさせた。

ボーイがカリアスに近付きグラスを手渡す。同じように、テニキアスの弟王も受け取っていた。

アールキエがカリアスの近くに。ファグナリスはテニキアスの弟王の傍に駆け寄り、グラスを叩き落とした。

会場が静まり返るのを無視するように、二人は剣を抜き、叫んだ。

「「毒だ! あのボーイを捕らえろ!!」」

一字一句変わらない言葉に、ここに詰めていた警備の人間は困惑し、すぐに動き出すことはなかった。

それを見ても、二人は動揺しなかった。交錯するように間合いを詰め、剣を突き出した。

寸分違わず、背後に寄っていた男たちの喉を貫く。そのままお互いの背中を守るように立ち、囁き合う。

「これ、そっちの仕込み?」

「毒によく気付いたな」

「ここで出されるお酒は全部チェック済み。色を変色させるのは素人の仕事よ?」

「襲撃者はどうやって用意したんだ?」

「異邦人を快く思わない過激な人はどこにでもいるのよ?」

「成る程。じゃあ、これは、」

「ただの余興よ。後の心証のためのね」

「面倒な話だね」

「だから、派手に立ち回りましょう。ダンスのように、ね!」

「派手なのは好きじゃないんだが」

ため息をつきながら、ファグナリスは先にステップを踏むアールキエの手を取るように剣を振るった。

彼らの舞踏に周囲の人間が気をとられている間に、カリアスとテニキアスの弟王は、それぞれ外に連れ出され、そのまま帰ってくることはなかった。


「ご苦労だったな。しばらくゆっくり休むと良い」

帰還したファグナリスはすぐさまカスペルに呼び出され、今回の報告を口頭でさせられた。満足のいく結果だったはずだが、カスペルは表情を変えることはなかった。

「質問をしてもよろしいでしょうか?」

「ああ」

「今回の件、本当にエリアル卿が発案されたのでしょうか?」

「・・・・・・私ではないよ。父の発案だ。それを私が陛下に奏上した。陛下は父を疎ましく思っていたからな。どうしてそう思ったんだ?」

「自分の部下が、遅いと怒られたそうです」

「・・・はは。父らしい」

カスペルは苦笑を浮かべた。

「父は、ただこの国を愛していた人だったよ。陛下の心の安寧が得られるならば、自分を殺されることを躊躇う人ではなかった。ただ死ぬのならもっと有意義に死ぬことを選んだだけだ。例えば、こちらになびかない、いつ敵対するか解らない国に服従するか、滅びるか、そういう選択をさせる死、とかな」

「・・・成る程。そういう考え方も・・・・・・・・・・・・・ありますか。・・・余計なことに考えを述べていただいてありがとうございます」

「・・・あぁ、気にすることはないよ。私の個人的な意見なら幾らでも出来るからね」

「そうですか。・・・では失礼します」

頭を下げ、ファグナリスは退室した。

真実全てを知る必要はない。

生き残るために要なことならば貪欲に求めなければならないが、今は違う。

どうせ、この後に控えているのは虚偽の大義名分を掲げた侵略なのだから。


半年後、ベルゼアムは、テニキアス王国連合とファグナリスたちミエルハンス皇国により滅ぼされることになった。土地は分割され、民のほとんどは奴隷とされた。

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