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1  作者: goma
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例えば、朝の通勤電車に運良く座れたとして、降りる駅に近づいてきたらなぜかパッと目が覚める。覚醒と無意識の間に、私たちはしばしば身を立たされることが少なくないように思える。その足場のふらふらして、それなのに心地が良い10分かそこらの間に違う世界へ足を踏み入れ…例えば天国としよう。その天国で流れている時間が地球の何倍もあったら。人の一生分もの時間を過ごせたら。まるで幼い時に、何かの漫画で読んだような気がするが、このことについては医科学者とてノーとは言えないはずだ。

私の推測では、友人がその世界に入り込んでしまったと考えておかしくないような気もするのだが。



ータマキー


私の朝は早い。空が色づきはじめ、木枯らしが鳴く中、トボトボとゆっくりした足取りで駅まで向かう。私の使っている私鉄の駅は、今となっては珍しい無人の駅だ。人はまばら、電車の本数もまばら、平和の象徴といわれる鳩の数もまばらだ。鳩の数がまばらだからって、何もないところには何も起きない。いたって平和な町だ。

簡単に自己紹介をしておくと、名前はタマキ。35歳、独身。顔つきはいたって普通で、中肉中背。要するに普通の男だ。小学生の時は、自分でも驚くほどなんでも上手くこなせて、なんでみんなはこんなに単純なことに戸惑っているのだろう?という疑問がだんだん自惚れに変わり、自分が才能のある、俗にいう神に選ばれた人間だと思うようになる。そうして自己成長をすることをやめ、みんなとの差が逆転し広がってゆく。うさぎとかめだ、と思う。


そんな自分のために用意されたような駅から列車に乗り込む。すると、何か違和感がある。何かがおかしいぞと首をひねる。が、それが何のせいなのかはわからない。いつもどおり本を取り出し、首を落とす。そして集中力が途切れて、眠くなってきたら、ウォークマンを聴きながら軽く寝る。朝はジャズを聴き、夜はポップスを聴く。私はそう決めているのだ。なので今はエヴァンスのポートレイトインジャズを聴いている。2曲目と3曲目に、同じ枯葉のテイク違いが入っているのが気に入らないが、曲自体は気持ちの良い曲が多くとても気に入っている。目をつむりその美しい旋律に身を任せていると、ふいに鋭い視線が突き刺さるのを感じる。だからといって目を開けてみる勇気はない。仮に目を開けて合ってしまったとして、どうもはじめまして、今日も寒いですね、今ちょうど目を開けてみたら合ってしまって申し訳ない。なんて目で伝えるだけの、そこまでの人間性はできちゃいない。

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