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イチゴ山田くんの旅

作者: 歩海ハヤセ

 お使いに出されたら、大通りで道に迷っちゃった。

 まわりを見ると、大人ばっかりで、みんなお仕事してるみたいだぜ。

 ばりっとした服装のおじさんやバッグを提げたおばさんが歩いている。髪の長いおねーさんはきれいだけど忙しいみたいだ。こっちを見てくれないや……

 おもいきって、

「あのーー」

 住所を聞きたくて声をかけたけれど、完全に無視されちゃった。

 けっ。たいして美人じゃないのに、すましてやがる。しかたがないから、一人であてもなく歩いていった。


 大通りの裏にまわって迷っていると、きれいな家があった。

 疲れたふりでもしていれば、ジュースでも飲ませてくれないかなと思って、開いた広い入り口から中を見ていたら、ごつい大男が出てきて注意された。

「消えろ」

 なんだよ、人の話も聞かないうちに。

 かってにしろ。おもしろくないから家と男にフリーズの呪いをかけてやった。ざまーみろ。

 つぎの家をさがした。


 町のはずれで、居心地の良さそうな家が、やっと見つかった。8080を呼び出して中に入った。

 狭いけど家の中はきれいだ。机の上もちゃんと整理されてる。かってに上がって、食べて飲んでたら、みどり色の髪を三つ編みにして、水色の服を着たトロそうなおねーさんが出てきた。

 もしかしたら叱られるかと思って緊張してたら、僕を見てなんだか寂しそうに笑ってるぜ。

 聞いてみると、妹のほうがモテまくりで、みんなそっちへ行っちゃったんだって……

 僕は、おねーさんの名前はすてきだよ、と励ましてあげた。ときどき手紙を出すみたいなので、僕もこっそりと手紙についていった。


 やさしいおねーさんといっしょに安心して住んでいたら、ある日、あの乱暴でおっかない顔の大男が来た。まえよりも凶暴そうだ。

 怖くて動けないでいると、僕は襟首をつかまれて家の外へ放り出された。

「この前は、ブルースクリーンにしやがって……おめーがいて許される場所じゃねーよ。とっとと出てけ」

 なんて乱暴なやつ……おまえみたいな奴、会社じゃ出世しないぜ。


 おねーさんには、さよならも言えなかった。でも、まあ、いーや。ひとりでも寂しくないぜ。

 また、あてもなく歩いて、大通りに出た。

 すげー。

 いつの間にか、昼間から人通りが多くなってる。

 走っているのは大きなダンゴ虫? と、思っていたら、青い服を着たおねーさんが空を飛んでいて、白い鎧の王女様がなぎはらっていた。ガキがちかよると頭をなでてくれるみたいだ。でも、みんなすぐ遠くへいっちゃった。


 それを見ていて、なんか、わくわくしてきた。

 僕もちょっと良い子のふりをして、可愛がってもらおっと。


 いい人を見つけるために、旅をつづけた。

 でも、ときどき天気が悪くなってパッチの嵐が起きた。寒いし、雨に打たれるしで、つらいぜ。うっかり検査されて、隔離されちゃったこともある。


 どこかで雨宿りをしていたら、猫耳をつけて、白と紺の服……なんて言うんだっけ……そうだっ! めーど服を来た可愛いおねーさんが来たんで、あとをつけていった。

 

 この人、やさしい笑顔をしていて、僕が好きみたい。スカートのすそをつかんでも嫌がらないや。想いっきり甘えてやる。

 そしたら、頭にリボンを生やしたセーラー服のおねいさんも来た。顔のないおじさんも来た。みんなでぞろぞろ歩いていく。

「逃げちゃだめ」って言うお兄さんもいっしょになった。

 でも、おねいさんたち、暑くもないのに、ときどき裸になるのは、なんで?


 着いた場所は広い王国だった。王様が八人いて、みんなで決めてるんだって。良くわからないけど、ワトソン先生がそんなことを言っていた。

 ここでは、王様が僕に広い土地をくれた。あちこちに大きな穴もいっぱい、あるぜ。


 やったね。


 僕は64システム丘のふもとを耕して、畑に種をまいた。ワームとバックドアがいっぱい育った。ラブレターとチェルノブイリの実もなった。

 十三日の金曜日か四月一日、どっちの日にトロイの木馬に乗ってばらまこうかと考えていたら、あの意地悪で乱暴な大男が来た。

 白い服を着て、注射器をもっている。僕を見つけると、うす気味悪く笑ってから吼えた。

「見つけたぞっ! ワクチンだ」

 あやしい空気を感じて、僕は走って逃げた。のろまな大男は追いつけない。


 それから……

 僕の旅は、ひどいものになった。


住所は六桁になってわかりずらいし、あったかそうな家の入り口にはルーターっていう門番が立っていて入れなくなった。なんだよ、これ、と思って、塀を乗り越えようとしたら、ファイヤーウォールの魔物に捕まって丸焼きにされちゃったことも。


 さまよっていると、パッチの嵐は、ますますひどくなった。

僕は手に入れていた個人情報を売り飛ばして、かわりに闇市場でルートキットのマントとマルウェアの剣を手に入れた。大人っぽい姿に変装して、寂しい森の中を行くことにした。

 森の奥、泉のほとりに一軒家があって、おばあさんが住んでいた。僕はひさしぶりのお客さんとなって、大歓迎された。

 砂糖のお菓子とチョコボールをくれた。暖炉のうえで煮込んでいた晩御飯もおいしいや。

 でも、やっと見つけて静かに暮らしはじめた小さな家にも、あの大男が巡回で来るようになった。

 僕はまた姿を変えて逃げた。

 逃げ遅れて駆除されちゃったこともある。

 

 でも、心配しないで。

 僕は元気だから。

 改良されて強くなったよ。


 さあ、子供たちもおねーさんたちも、みんな集まれ。旅に出よう。僕が案内してあげる。

 外は暑いから、薄着や裸がおすすめだよ。学校用の水着も人気アイテムさ。いっしょに回線にのって世界をかけめぐろう。


 でも、最初の出されたお使いは何のためだっけ? 思い出せなくなっちゃった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ウィルスの旅でしょうか。淡々としていて面白かったです
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