北へ続く街道――引き金より前
駅馬車と行商人が行き交う北街道。リオ・セルヴァは護衛の銃口同士が作る死角を読み、争いを避ける。十五歳の授与式から、誰もが魂に応じた銃を得るこの国で、彼の腰にあるのは細身のレイピアだけだった。銃身も弾倉もない武器を、人々は外れと呼んだ。リオは言い返さない。ただ、静かに暮らせる場所まで歩くつもりだった。
巡回書記ユノは、肩へ据えられた長銃が彼へ向けられるのを見た。周囲は遮蔽物を探したが、リオは銃口の向きより先に肩の強張りを見た。正面から消えたように見えたのは、速さではなく射手の視線と銃口が重なる一本の線から、半歩だけ外れたためだった。彼は銃身を傷つけず地面へ向けた。火薬の匂いは立たず、悲鳴も上がらなかった。
争いの根には、引き金へ指を掛けることが礼儀になった旅の常識があった。リオは相手の銃を奪わず、膝も折らせなかった。武器を失えば次は徒党を組み、屈辱を受ければさらに強い弾を買う。だから退路を空け、立ち去る選択だけを残した。勝つためではない。誰にも撃たせず、明日の静けさを残すためだった。
残った者たちは弾痕のない壁を見つめた。銃撃戦なら数えられるはずの薬莢が一つもなく、剣士がいた証拠は薄い靴跡だけだった。
遠くで鐘が鳴っても、彼は顔を上げなかった。欲しいのは称号でも席でもない。朝に薪を割り、昼に働き、夜に扉を閉められる暮らしだけだった。
その日の記録には剣技の名が書かれなかった。目撃者ごとに見えた動きが違い、共通していたのは発砲音が一度も響かなかったことだけだった。
彼は歓声を待たず、刃についた雨粒を布で拭った。細身の剣は勲章ではなく、静かな場所へ帰るために預かった道具だった。




