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蒼境の子羊《メシア》たち  作者: くろ飛行機
1章 株式会社吉凶へようこそ
6/7

4 カーチェイスは突然に

 

 後部座席で流れる窓の向こうの景色に、羽流は落ち着きを隠せないようだ。

 時折横に座っている昂大がシートベルトを付けさせるが、すぐに外して車窓に張り付いてしまう。


「それにしても、なんで車で東京まで行くんだよ」

「そりゃあ安全のために決まってんじゃん。考えてみてよ。もし電車とか飛行機で刺客に襲われたらどう? 逃げ場がない上に、一般人にご迷惑がかかるじゃない」

「高速道路も逃げ場ねえけどな」


 車を運転する美樹は、セレブがつけるギラギラのサングラスをかけ、ノリノリで運転している。

 羽流の話によると、遠江家の財産が眠る場所は、北関東にある貸金庫らしい。貸金庫といっても一般的なものではなく、裏社会の人間御用達の特別な(・・・)場所とのこと。

 美樹の判断で車で移動することになってから五時間。そろそろ首都が見え始めるころだった。


「ねーねー! 歌歌ってもいい? おうえんか!」

「応援してくれるの? 嬉しい~」

「せ~んろはつづくーぞ、どーっこまっでよー」

「全然応援歌じゃねえし。ちょっと歌詞違うし」

「えっ!? まじ!? やっちまったなぁ!」

「歌詞か応援歌、どっちに対しての反応なのかしら」


 マイペースな羽流は、長時間のドライブにも苦痛を感じることなく楽しんでいる。

 昂大はこのような明るい少女の裏に、暗い家庭環境があることが信じられなかった。

 話によると羽流の叔父は、遠江家の当主である羽流の母に対し、手術を受けさせることなく放置しているのだという。

 叔父といっても、羽流の母の妹の婿養子とのことで、お金持ちの財産争いは生々しいと思ってしまう。


「ねえねえハルちゃん。どうやって吉凶まで来たの?」

「新幹線に乗ってきたよ。でも……」

「駅で襲われて、そこから逃げてきた?」

「なんでわかるの!?」

「女の勘」

「いいなぁ! ハルもおんなのかん欲しい!」

「もう少し大きくなったら、お姉さんが手とり足とり教えてあげる」

「えー! やだー! 今教えて!!」

「そうね~。色気とかかなぁ。まだハルちゃんには早いかな」

「変なこと教えんなよ……?」


 ハルは悔しそうにぎゅっと口を噤む。


「んで、どんな奴らに襲われたんだ?」

「うーんとね、黒い服着た、いかにもシャバに出たらダメな感じのおっさんたち!」

「シャバとか、どこで知った言葉なのかしらね」

「で、そのおっさんたちが、ハルを攫おうとしたのか?」

「うん……だからその、隠れてやり過ごして逃げたよ」

「大変だったのね」


 美樹がしんみりと言うと、車の周囲も寂しくなってきた。


「そいつらは現在進行形でハルちゃんを狙ってることだけは確かね」

「な、なあ美樹……」

「面倒ね。来るとしたら狙撃だと思ってた」


 二車線の高速道路の周囲には、一台も走る車がなくなっていた。

 そして背後から、黒い車が三台ほど忍び寄って来る。


 美樹はバックミラー越しに異変を察知すると、ジャケットのポッケから煙草を取り出し、ドリンクホルダーに投げてあった銀色のライターで火をつける。


「えっ。なになに? ふらっしゅもぶ?」

「全然違う。ハル、危ないからしゃがんでろよ」

「ふえ?」


 昂大がハルの頭を押さえた瞬間、背後の黒い車から小銃が向けられる。


 発砲――――――。

 大量の弾丸が、三人の乗る車を襲う。激しい銃声と車を削る金属音に、ハルは思わず耳を塞いだ。


「おっ、いいね! 映画みたいで派手じゃない」

「感心してる場合か!」


 昂大は急いで持ってきていた武器を取り出した。

 ナイフが一振り。

 これが昂大が扱いうる最適解の武装だった。


「くそっ。美樹、車寄せてくれ!」

「え? どうする気?」


 美樹は急ブレーキをかける。発砲してくる車との距離が一気に縮まり、衝突する。

 衝撃で銃を構えていた男たちが怯んだ。その隙に窓を開けた昂大は、口にナイフを咥えたまま車の屋根に上った。


「無理すんなよー」


 昂大はナイフを右手に持ち替えると、力強くナイフを握り、目にも止まらぬ速さで後方のタイヤを切り裂く。

 車の時速はおよそ100キロ以上ある。それに、硬い車のタイヤをナイフ一本で切り裂くなど、常人では成しえないことだった。

 しかしタイヤは、音を立ててパンクする。ナイフが恐ろしく鋭いのもあるが、ただ切り裂いただけでなく、昂大の緻密な手さばきによるものだった。


 鈍いパンクの音を聞き、何とか態勢を立て直した男たちが、昂大に向けて銃を構える。


 発砲。しかし、昂大は隣の車に飛び移る。スピードの出なくなった車はすぐに脱落し、弾丸が届くことはなかった。


 続いて切り裂く――――――。

 流れるように二台の車をパンクさせた昂大は、屋根の上に向かって銃を伸ばしてくる男の腕を切りつけ、美樹の車を一瞥する。


 三台目の車が、美樹の車に体当たりし、窓から小銃をぶっ放している。


「ちっ。めんどいわね」


 美樹は昂大の乗る車の勢いがなくなってきたことを確認すると、華麗なハンドルさばきで昂大の傍につける。

 昂大はそのまま美樹の車の屋根にジャンプし、勢いのまま三台目の運転手に向けてナイフを投擲する。窓ガラスが割れ、運転席の男が慌ててハンドルを切ったため、コントロールを失って路肩に激突した。


(しまった。ついナイフ投げちまった)

「おっかえり~」


 窓からするりと車内に戻った昂大は、ふう、と息を吐く。

 隣で小さくなっていたハルは、怯えるように昂大をじーっと見つめる。


「ん? どうした」

「いや、こーだいって、むぼーだなって思って」


 その至極真っ当な指摘に、美樹は大笑いする。


「そうよね。ほんと、無謀。無鉄砲」

「うっせえな……無傷なんだしいいだろ別に」


 トマトのように顔を赤らめた昂大をバックミラー越しに見た美樹は、背後から再び車が接近してくるのを確認する。


「ねえちょっと。このまま運転代わってくれない?」

「はあ!? お、おれが運転すんの!?」

「他に誰がいんの」


 美樹はそう言うと、強引に昂大の腕を引いてハンドルを握らせる。そのままするりと助手席の方へ移動すると、グローブボックスから銀色のリボルバーを取り出す。

 そのまま銃口を窓から背後に向け、振り向くことなくサイドミラーを見ながら黒い車に発砲する。

 弾丸は見事に前輪のタイヤを打ち抜き、複数台をパンクさせて脱落させた。


「うわああっ!! ちょ、だめだって!!」

「ハンドルを握ってまっすぐに維持するだけでいい。この車、自動走行機能があるから、ハンドルだけ見てなさい」


 昂大はガチガチに緊張して冷や汗をかいている。何とかまっすぐに車を走らせるが、側方から大きなバンが突撃し、走行を妨害してくる。


「絶対にハンドルを切らないように!」

「むむむ、無理だって!」


 美樹は手榴弾の詮を抜くと、突撃してきたバンの窓ガラスをリボルバーで撃ち抜き、そのまま投げつけた。

 バンは、爆発とともに回転しながら路肩に乗り上げる。


「ハルちゃん大丈夫?」

「お、おっす……」

「おっけー。じゃあ昂大君、ハンドルの右側にある緑色のボタンを押してください」

「緑色のボタン!?」


 見ると、赤、青、緑の三色のボタンがエアコンの送風口の下についていた。


「この車は特別仕様なの。要人護衛用のね」


 昂大が慌ててボタンを押すと同時に、美樹はするりと後部座席に移動する。すると、後部座席の屋根が開き、ちょうど人が立てそうな空間が形成される。そしてトランクから重 機関銃が飛び出して、開いた屋根の真ん前に堂々と備え付けられた。


 美樹は重機関銃の引き金を引いた。

 鈍い発砲音と、銃砲から飛び出る火柱――――――次々と薬莢が道路に落ちていくと、追っ手の車に大きな穴が開いていく。

 窓ガラスが割れ、車体がひしゃぎ、ボンネットの弾が突き刺さると、車は爆発とともに路上に散った。

 炎上する火柱の熱が頬を撫で、美樹はうっとりと笑う。


「超気持ちいい」


 追っ手の車はすべて爆炎を上げ、航行不能になった。

 美樹は小さくなったタバコを吐き出し、優雅に髪をかき上げる。


「試してみたかったのよこの車。撃たれても全然ガラスとか割れなかったでしょ?」

「ああ……だから車にしたんだな……」

「すっげー! 美樹お姉さん、かっけすぎ!!」


 羽流と美樹はハイタッチを交わし、勝利を分かち合った。

 昂大は自分の時とは正反対な様子に、少しムッとしながらも、


「は、早く、運転、代われって!」


 振り向くこともできず、ハンドルに縛り付けられていた。


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