プロローグ 闇の中の惨劇
以下、ちょっと長めの前書きになっています。読み飛ばしていただいても問題ありませんので、よろしくお願いいたします。興味があれば、読んでやってくださいm(_ _)m
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お読みいただきまして、本当にありがとうございます!!
こちらの作品は、Xで去年予告していた、私の初めて書いた作品を十年越しにリメイクしたものとなっております! (リメイク前は、偽りの惑星とかいう訳のわからんタイトルのついた、未完作品です( ;∀;))
リメイクとは言いつつも、はっきり言って全く違うものになっております。完全新作としてお楽しみいただけますと幸いです!
さて、述べました通り、私は創作を趣味にして十年……ああ、年を取るのは複雑な思いがあります(笑)
創作者としてのピークっていつなんだろう、なんて考えると嫌になるので、若気の至りだったリメイク前はそれとして置いておくにしても、成長した自分をしっかりと認識できるように書きたいなぁなんて思いながら書いております。
本作は私の十年間の集大成として、様々な感情や創作に対する思い、書きたいものに対する一つの答えを出した作品となっております。
十年もあると、中々色々なことを考えるものです。悩むことも多かったし、何より自分の至らなさみたいなところを痛感しながらも、自分の作品と向き合う……そんな十年だったかと思います。
十年間で最も大きな創作の転機というのは、〈エボルブルスの瞳~特殊事案対策課特命係傀異譚~〉を揺井さんと創り出したことです。現在投稿が止まっておりますが、今年で五年目に突入するほど、長く続く作品です。私の作品は、良くも悪くもこのエボに引っ張られておりまして、なんと二作品もの関連作品を書いては、完結させられていないという体たらく……これは由々しき事態です。打首獄門。絶対に完結させなければならないと気合を入れ……また本作を書いています。やばいですね。本当にだめじゃん!
しかぁし!!! どうしても書きたかったのは、十年前の置き土産を片付けたかったからなんです。というのも、エボルブルスの瞳を構想する前からずっと、関連した地続きの世界として、偽りの惑星(リメイク前のことです)ともう一作を書いていて、これらもエタらせています。(ちなみに、エボに登場するキャラクターで、偽りの惑星時代から登場する者がいたりします。これはちょっとすごい)
つまり、十年間の集大成とするならば、この負の遺産(笑)を、今に続く形で完結させることで、初めて前に進めるんじゃないかと思ったのです。ですから、リメイクするという体で、あの時は未熟だった十年前の自分が書きたかったものを今書いてみようと思い至りました。ということは、十年前の自分が何を考えて、何に悩んでいたのか、みたいな負の感情と向き合わねばならず、それはそれで楽しかったです。
長々と語ったのですが、何が言いたかったのかというと、本作の大きなテーマの一つに、『自分で自分のことを認められること』があります。
過去の自分を否定するのではなく、受け入れることで初めて前に進める。本作の主人公の昂大くんは、くろ飛行機と似てネガティブで歪んだ自己愛を抱えてしまっているのですが、互いに前に進めるようにという願いを込めて、プロットを書いたりしています。その他にもたくさんのテーマやくろ飛行機のアンチテーゼもふんだんに盛り込んでいるのですが、それは割愛します。いつか機会があれば語りたいなぁなどと思っています。(完結した時にしようね)
色々語ってしまい、長くなりましたが、完結まで止まることなく、絶対に走り続ける決意を持って、現在進行形で創作中です。ここまで気合を入れたので、絶対にエタらすわけにはいかない!!
という決意を込めて、前書きとしたいと思います。
長くなりますが、よろしければ最後までお付き合いいただけますと嬉しいです。
一か月に一章投稿していきたいと思っています。完結まで止まるんじゃねえぞ、と、何度も自戒し、頑張って書いていきたいと思います。
2026/3/20 くろ飛行機
無辜の民草傷つけて、裁かれない者数多在り。
汚職、裏金、談合、詐欺に。
違法薬物、人身売買。
殺し、殺され、殺され尽くせば、悲しみ、慟哭、闇へと消える。
血と憎悪に塗れた叶わぬ復讐。抱けど、抱けど、また消える。
光に届かぬ弱者の嘆き、どうかこの吉凶にお任せあれ――――――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
宵闇を駆ける、小さな影。
人のいない薄汚れた下町の路地を抜け、物陰に溶けると、エアコンの室外機の上を力強く蹴る。瞬く間に屋根へ上った人影は、遠くに見える屋敷を一瞥した。
黒フードの隙間から、薄い青色の双眸が光り、白い吐息が漏れる。闇の中を舞っていた粉雪が揺蕩い、小さな鼻の上に触れた。
――――――フードの下には、年端も行かない十代の少年の冷たい表情があった。
「……」
少年はパーカーの下、首元に下げていた暗視ゴーグルで、屋敷の周囲を確認する。屋敷を警護しているスーツ姿の男たちが、至る所に配置されていた。男たちは皆、銃や刀で武装しており、彼らをやり過ごして屋敷内に入ることはできそうもない。
少年は暗視ゴーグルを適当に投げ捨てると、パーカーのポケットに入っていた白い面を取り出した。それを鬱陶しそうに、幼さが残る顔に装着する。
縁日の景品でもらえるような、簡素な面だった。白くてまんまるなデザインは、野球のボールを模している。
面に開いた二つの隙間から、青い双眸が光った。
跳躍――――――勢いよく屋根を蹴った少年のスニーカーが、街明かりに照らされる。
少年は次々と屋根を渡り、超人的な速度で屋敷に迫る。
最後の屋根を力強く蹴ると、猫のように体を丸め、門の前に陣取っていた護衛の男に飛び掛かった。
鈍い音と共に首が曲げられ、男は一瞬で絶命する。
「なっ!!」
傍にいたもう一人の男が銃を抜く間に、少年の蹴りが首元に叩き込まれていた。男は一瞬で昏倒する。
コンクリートの上を駆けると、見張り小屋の扉を開く。中にいたモニタリング担当の男の顔面を蹴り上げ、休憩中だったもう一人の顔面に裏拳をかます。
首が一回転して体が崩れたのを確認し、何とか起き上がろうとしたモニタリング担当の首を丁寧に折ると、パソコンを操作して門を開ける。
「な、何だぁ!?」
「誰か来たのか!」
門の先には、十人程度の男たちが待ち構えていた。
ゆっくりと開いていく門の先――――――黒いフードを被った面の少年が、屋敷の明かりに照らされる。暗闇に浮かぶ白い面が動くと、男たちはようやく事態を把握する。
「侵入者だ!」
刹那、真っ先に声を上げた男の眼前に拳が迫る。
拳を頸椎に叩き込み、一撃で昏倒させると、傍の男の足をすくって転倒させる。銃口を向けられる前にジグザグに動いて撹乱し、照準を定められることなく銃を蹴り飛ばし、頸椎を捻る――――――。
「がっ」
銃を一発も撃たれることなく、ものの十数秒で全員がのされてしまった。
少年は門の先、屋敷へ歩みを進める。玄関ではなく壁に沿って進むと、庭先や縁側にいた護衛たちを次々と沈黙させながら進んでいく。
やがて、明かりがついている部屋の横まで来る。懐から銀色のスプレー缶を取り出し詮を抜くと、窓ガラスを割って中に投げ込んだ。
――――――部屋の中からは、女性と男性の悲鳴と、複数の足音が聞こえてきた。
ガラス窓から護衛の男が顔を出したところ、鳩尾と顔に打撃を与えて撃沈させる。
煙が瞬く間に部屋中を覆うと、悲鳴が咽ぶ声へと変わっていく。
「……」
少年は沈黙させた男からハンドガンを奪い取った。よく見るとセーフティが外されていない。突然戦闘態勢に入ったらしく、よっぽど驚いていたようだ。
少年はゆっくりとセーフティを解除し、スライドを引く。薬室に弾が装填された音を聞くと、窓を全開にする。
部屋の中に充満していた催涙ガスが外に流れ、部屋の光景が露わになった。
辛うじて動けた護衛たちは、少年に向けて発砲する。少年は傍にあった観葉植物の樹木を倒して弾丸を防ぎ、横っ飛びでソファの影に移動しつつ、二発撃つ。
銃弾が脳天を貫き、二名の命を奪ったところで、部屋の主が廊下に出ていくところが見える。
少年は床に寝ころびながら、精密機械のように男女を狙撃するが、ドアに阻まれてしまった。
「……」
少年はすぐさま立ち上がってドアに向かうが、刃物を持った男が怒号を上げながら迫って来る。三発撃って沈めると、キッチンの方から銃が向けられていることに気づき、一歩後退した。
次々と撃ち込まれる弾幕に、身動きが取れなくなったが、近くにあったハサミを見つけると銃を捨て、キッチンに向けて投げつける。
壁に当たってシンクへ落ちた音が響く。護衛たちがそちらへ向いた隙を突いた少年はキッチンに滑り込むと、銃を持つ護衛の腕を組み手で無力化し、相手の持っていた銃で始末した。
――――――温かい血が、少年の全身に付着する。
少年は一切動じず、一切の感情を持たなかった。
純粋な青色の視線が、動かなくなった護衛から離れていく。
少年はドアを開け、逃げた男女を追う。
二階へ上がる階段の前で、襲い掛かってきた男を一人始末した。
二階にいた女が発砲してきたが、それを簡単に躱し、すぐさま首を折る。
部屋の影から飛び出してきた女の頸椎を捻ると、その背後にいた男の心臓を掌底で破壊する。
奪った銃で、もう一人を撃ち殺す。
さらに撃ち殺す。
背後から来たもう一人を撃ち殺す。
殺す。殺す。殺す――――――。
――――――きいい。
屋敷の中が血で染まった時、少年はゆっくりと寝室のドアを開けた。
「ひっ。ひいいいいいいいいい!!」
「ば、ばけもの……」
寝室の隅で、高級なパジャマに身を包んだ壮年の夫婦が肩を寄せ合っていた。
ガタガタと震え、目の焦点は合わず、心底怯えている。
少年が寝室に入ってくると、夫婦の恐怖が増した。足で何度も床を蹴り、壁際に逃げていく。
「た、たすけて……」
「頼む。妻は……妻だけは!!」
逃げ場が無くなり、夫が少年に土下座する。
少年はそれを見ても、何の感情も抱かなかった。
「頼む!! 私は殺されてもいい!! だが、妻は……子どもたちは……!!」
「……っ」
――――――子どももいるのか。
少年の心が、ここに来て初めて小さく揺れる。
しかし、目の前の男への殺気は崩さなかった。
「……お前は貧乏な労働者を騙して、奴隷みたいに働かせて、逃げそうになったらあっさりと殺したんだろ。右も左もわからない外国人も、生きていくのに困ってた母子家庭のお母さんも、足の不自由な障がい者も。みんなみんな騙して働かせて、いらなくなったら殺した。それも、薬物の加工をさせてたらしいな。知らない間に犯罪に加担していたって、泣きながら叫んでた」
「ああそうだ……全部認める。もう逃げたりはしない。だが、妻と子どもだけは……」
「同じことを言った人を、お前は殺したんじゃないのか」
少年の指摘は淡々と、無感情なまま男に向けられている。
青色の双眸が、面の下で鋭くなった。
「……悪人は、おれたち吉凶が許さない」
少年はそう言うと、護衛が持っていた銃で、男の腕を撃ち抜いた。
「がああああああっ!!!」
「あなたぁぁぁぁぁ……!!」
叫び、苦しむ男の顔を蹴飛ばすと、仰向けにする。
少年は上から悶える男を見下すと、両足、肩、腹部に、一発ずつ弾を撃ち込んでいく。
――――――男の叫びが、妻の正気を奪っていく。
次第に声も出なくなってきた男の頭に、銃口が突きつけられた。
「なるべく、痛みを与えて殺せって……」
「あくま……あくまぁぁぁ……あああああああっ」
バン。
最後の弾丸が、男の頭を吹き飛ばした。
床が男の血で染まり、妻の精神が崩壊する。ぶつぶつと譫言を吐いて動かなくなった妻を見て、少年は廊下で殺した死体から銃をもう一丁奪ってきた。
そして遠くからあっけなく、妻の頭を撃ち抜く。
静寂。
寝室を出た少年は、闇の中を進み、唯一開けていなかった扉の前に立つ。ドアノブを回して中に入ると、勉強机やおもちゃ箱が中心の綺麗な光景が広がっていた。
――――――子ども部屋。
男が、子どもたちと言っていた。
二つのベッドに、二つの勉強机、そして薄い扉のウォークインクローゼット。
少年が耳を澄ませると、震える小さな吐息が聞こえてきた。
「……」
少年は銃の弾倉を取り出し、勉強机の上に銃弾を弾いた。
残りの弾は、合計五発。薬室に入っている弾丸と合わせて六発だった。
丁寧に弾を戻し、弾倉をセットすると、銃を構える。
そして、ウォークインクローゼットに近づいていく――――――その時、近くに野球の道具が転がっていることに気づいた。
「っ」
不意に少年の足が止まる。
買ってもらったばかりと思われる真新しいグローブが、バックに入れられていた。
それを見ながら、無意識にクローゼットを引いていた。
「ひっ……」
中にいたのは、小学生くらいのポロシャツを着た少年と可愛らしいスカートを履いた妹だった。
二人とも綺麗な服に身を包んでおり、それが少年の心を締め付ける。
小学生くらいの少年は、妹を守ろうと前に出る。
それが――――――少年の心に深く突き刺さった。どこかで見たような既視感が増幅し、頭にノイズが奔った時、心臓が高鳴り、呼吸が荒くなっていく。
「……や、きゅう?」
小さな少年は、目の前に現れた面を見て、そう零した。
小さな少年の表情が、僅かに綻ぶ――――――。
「やめろ……ッ」
酷い吐き気を催した少年は、すべてをかき消すように引き金を引いた。
撃つ。撃つ。撃つ――――――残弾をすべて撃ち尽くした時、小さな少年と少女は、体から血を流し、折り重なるように絶命していた。
「……違う……違う……こんなの」
少年は小さく否定を零す。
極悪人に裁きを――――――。
これは命令だった。人を殺す命令に従って、人を殺しただけだ。
あの男は最低のクズ野郎だった。多くの人に薬物を蔓延させた張本人。立場の弱い人を働かせ、挙句の果てには口封じに殺した最低の男だ。
だから幸せが訪れることは許されない。悪人には、責任を取ってもらわなければならない。家族を殺すことも、悲しみの連鎖を断ち切るためには必要なことなのだ。
泣き寝入りするしかなかった被害者たちの怨嗟の声に呪われて、惨たらしい最後を迎えなければならない――――――。
そうだ。悪人は生きて幸せになることなどできない。絶対に。
少年は小さな二つの死体から離れていく。
――――――なら、悪人が生きている価値がないのなら、おれはどうなるんだろう。
おれは、小さな子どもを殺した。命令通り殺した。
殺してしまった自分は一体。
「……や、きゅう?」
絶望が、笑顔に変わった。あの子は自分を、ヒーローだとでも思ったのだろうか。
「違うっ!!!」
激しい自己否定に苛まれた少年は、銃を投げ捨て、子ども部屋から逃走した。




