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蒼境の子羊《メシア》たち
【2060年10月20日】
おれは全てに絶望し、冷たい海に飛び込んだ。
冷えた感触が、全身の体温を奪っていく。黒くて昏い、何も見えない水の中は、ことのほか気持ちよかった。
深淵へ沈む。沈んでいく――――――。
海の底へ沈めば沈むほど、おれの心が軽くなった。
もう、全部どうでもいい。早く楽になりたかった。
だから、全身の力を抜いて水の流れに身を委ねる。
息ができない苦しみが増し、意識が消えていく。そして、ようやく楽になれると思った。
――――――どくん。
おれは、水面から迫る光の筋を見た。
水がうねり、手が差し伸べられる。
おれを迎えに来てくれたのはきっと、地獄の番人か何かなんだろう。
たくさん人を殺して、たくさん見殺しにして、それでもまだ生きているおれに、ようやく迎えが来たんだ。
――――――嬉しいのに。嬉しいのに、なんで。
その番人は、今にも泣きそうな、とても美しい顔をしていた。
これはおれが、色や形のなかったおれの世界を、自分で救うちっぽけな話。
滑稽で、情けなくて、心底嫌いだった自分を、認められるようになるまでの話。




