2トマトと卵の炒め物
翌日は朝からよく晴れていた。
青空が高くて、そして、空気が少し冷たい。
これから気温は行きつ戻りつしながらだんだんと下がっていく。
もう少しの間は暑さを冷ます料理も求められるだろうけど、少しずつ体を温めるお惣菜が嬉しい時期になってくる。
今日は何を作ろうかなぁ…そんなことをアンズは考える。
干し豆腐の和え物は暑くても涼しくても重宝する。
昼用は青菜のおひたしや酢の物が重宝される。
夜はどうしよう?
炒めたひき肉を入れた端野菜で作る胡麻和えなんてどうだろう?少しピリ辛にして。
あとは…魚のあらをあんかけにしてみるか…
そんなことを考えながら、アンズは煮卵用のゆで卵を作る。
今日は昨日売れなかった分、いっぱい仕込んでも足りないほど売れるだろう。
今日の昼定食は、鶏肉の唐揚げか豚肉と野菜の甘味噌炒め。
主菜ががっつり味が濃いから汁物はあっさり目にしあげて、客の好みで小鉢の副菜を選ぶ。
そして、持ち帰り用の煮卵。
準備ができて、開店と同時に近所の職場の女たちが弁当を注文に来る、弁当の注文が掃ければ、今度は昼注文が始まるのだ。
怒涛の昼営業は行きつく暇もないけれど、定食は昼も夜も同じ小銀貨1枚あるいは大銅貨10枚という明朗会計が受けて、精算が混みあうこともない。
あ、ちなみに小鉢は1つ追加で大銅貨1枚、煮卵も1個大銅貨1枚だ。
昼営業がはけて、ふうと一息をつくアンズは昼営業の売り上げを計算しながら昨夜の証文をめくったのであった。
あのとき2枚作った証文に酔っぱらいは律儀に自分の名前を書いて、親指で判を押した。
そして、支払いと交換でとぼそりと呟いて、金貨を置いて行っている。
「はやく、清算に来てくれないかな…」
日々の売り上げと言うよりも、金貨が手元にあることが困るのだ。
あまりにも清算に来ないようなら、今外遊に出て都にいない皇帝の父ちゃんが戻ってきたら、相談してみようと思った。
「アンズ、今日の賄い、どうする?」
厨房から母シイカが問いかけてくる。
「卵とトマトの炒め物と魚のアラのあんかけにしようかな、試したいことあるからあとで自分で作る」
「じゃあ、私のもお願いしていい?」
「うん」
そう言って、アンズは昼営業の売上を確認した。
うん、今日もこの小さな無限の世界を守っていくには売上もちょうどいい。
昼営業の売上の確認が終わって、今日夜営業で手伝いに来てくれる給仕の女性たちの日給を分けておく。
昼営業の売上で夜営業の日給と食材や燃料の支払い、前日の夜営業の売上で昼営業の日給と食材や燃料の支払いがうまく回っていた。
手伝いの女性たちもそれぞれ都合があるから、昼しか来られない人や夜しか来られない人がいる。
昼、夜2回に分けて営業をしている定食屋は彼女たちにとってちょうどいい働き口なのだ。
日給をもらえて、余れば総菜も分けてもらえるからって。
ようやく昼の賄いをと考えて、厨房で材料を確認する。
「そっか…今日は割れた卵が多かったんだ…」
そう独りごちる。
割れた卵は炒めるしかない。
煮卵が需要が高い分、なかなか夜営業に出せなくて、アンズやシイカの賄いは卵が多くなる。
卵はご飯にあんかけにしてもいいけど、最近はトマトと卵の炒め物がアンズのお気に入りだ。
黄色と赤がとてもきれいで、簡単にできて、今日みたいな青空がキレイな日にはぴったりだから。
トマトは暑い時期にとれるというから、だんだんと入荷が減ってくるかもしれない。
炒めると風味と旨味が増してくるトマト、今のうちに色々試したい。




