プロローグ2
兄ちゃんは17歳で帝国の影と呼ばれる組織に入った。
皇帝を支えるけど完全な味方じゃなくて、古い時代にはこの国のためにならない皇帝は影たちの主導によって引きずり降ろされることもあるんだって。
影によって皇帝に据えられた人もいれば、影の存在を知らなかった皇帝もいるんだって。
皇帝と民を結ぶのが影で、皇帝である父ちゃんには厳しい人たちみたいだけど、板前さんはもちろん、常連さんの中にだって影はいて、母ちゃんやアンズを守ってくれている。
あ、中には任務関係なくご飯食べに来る人もいるけど。
兄ちゃんは兄ちゃんの意志で影になった。
「なにがどうなっても、俺は最後の最後まで父ちゃんの味方でいたいから」
って兄ちゃんは言っていた。
兄ちゃんは兄ちゃんの覚悟があったんだと思う。
アンズにはよくわからないけど、父ちゃんが失敗して皇帝から引きずり降ろされるとき、その時はきっと父ちゃんの命はない。
兄ちゃんはそんな日が来ても、ちゃんと父ちゃんの味方でいたいと考えた。
父ちゃんのために、母ちゃんやアンズのために。
兄ちゃんに反して、アンズは影にはならなかった。
アンズはこの定食屋の看板娘で、母ちゃんと一緒に疲れて帰ってくる父ちゃんや兄ちゃん、常連さんにご飯を出したいから。
常連さんには色んな人がいる。
父ちゃんと母ちゃんが夫婦になる前からの常連さんは父ちゃんの顔を見ると、
「よう、シュレン!久しぶり!」
「いっつも疲れた顔してんなぁ!」
「シイちゃんに癒されてこい!」
って声をかけてる。
おじちゃんたち、多分父ちゃんが皇帝だって知らない…
知っていて、こんな風に声をかけるなんて、あるかなぁ…?
おじちゃんたちがまだ若かったころの定食屋は、そのころの父ちゃんは下級役人だったらしいけど、豚のみそ焼き、揚げ鶏をどーん!と豪快に出していたんだって。
でも、給仕のおばちゃんや母ちゃんや近所の子のお母さんたちの意見を取り入れて、優しい小鉢を色々つけられるようにした。
豪快な主菜を減らして、優しい味の小鉢をつけるようにしたら今度は女の人達が常連になった。
ううん、夫婦や家族で来るようになった。
店の拡張の話も出たけれど店の拡張はしないで、昼営業を始めて、もち帰りできるようにした。
その分、夜の営業を短くして、お酒は出さない定食屋に落ち着いた。
お店が開くのはお昼時に3時間、夕飯時に3時間半。
仕込みを入れると1日の半分は定食屋にいるけど、この小さい世界で食材を覚えて味を覚えていくと、無限に世界が広がった。
最近はアンズも小鉢を担当させてもらえる。
味は軽め、重め、その中間。
味の濃い主菜と組み合わせが良さそうな小鉢を考えるのが楽しい。
青菜のおひたし、大根のなます、タケノコやカブを使った煮物、色んな野菜の炊き合わせ、魚のあらの煮物、干豆腐の和え物、酢の物、揚げ豆腐のあんかけに、茄子の味噌和え。
昼食時は煮卵が必ず追加で注文が入る。
しかも、1人につき2個、3個。
夕飯までのつなぎに食べるっていうから、いっぱい作るようにしている。
そのせいで煮卵の注文がいっぱい入るせいで、小鉢に卵を作った料理を使えないんだよなぁ…
でも、賄いには卵と最近入ってきたトマトっていう赤い果物?野菜?を一緒に炒めて食べるのがアンズのお気に入りだ。
父ちゃんは今日も疲れた顔で店にやってくる。
店全体を見渡せる店の奥の狭い小さな席に座って、定食が出てくるまで静かに目をつぶっている。
「シュウちゃん、おまたせ。いつもの定食だよ」
「ありがと、シイちゃん…おいしそうだ…」
そう言って箸をとって、「いただきます!」と言ってご飯を食べて汁物を口にすれば、眉間の皺がとれる。
「おいしいね、シイちゃん」
そう言う父ちゃんを母ちゃんは優しく嬉しそうに見つめて、給仕に戻るんだ。




