14 諍い
「はいはいはい、お邪魔しますよ」
「コウちゃん、ずいぶん貧乏くさいところにいるなぁ」
「肉まんじゅうか、大銅貨一枚ねぇ…」
「しけたもんがそんなに美味いってか?」
耳に着く声に振り返れば、店に入ってきたのはさっきの不機嫌な若旦那衆だ。
ぐるっと大回りしてきたのにまさかついてきたのかとコウの心臓が波打った。
「うちの親父殿が最近お前が平民街に出入りしているっていうから」
「張ってたら案の定現れやがった」
「でも、ここはないわ~、ぼろすぎ、古すぎ」
「しかも、ババアとブスの店」
ゲラゲラゲラと笑い声が響く。
コウ自身だけならまだしも、定食屋とアンズやシイカ、饅頭屋のおばちゃんを馬鹿にされたのにはさすがにコウもカチンときた。
女性たちを背に隠すように若旦那衆の前に立った。
「お、なんだ文句あんのか?」
「笑いもしねーのかよ」
「つまらねーヤツだな」
「こんなところの何がいいんだか」
そう言って、近くにあった椅子を蹴り飛ばす。
饅頭を買いに来ていた子どもたちは、びっくりして、饅頭をギュッと握りつぶし、そっとアンズの側に近寄った。
アンズが子どもたちを抱きかかえて、店の奥に連れて行く。
その仕草が気に入らないのか若旦那衆はアンズの姿を上から下までジロジロ視線を動かす。
「お?まわすか?」
「ブス、きっつ〜」
「やり捨て決定〜!」
「俺から行くか」
そして、ヘラヘラと笑い、小声で何かを言いあった。
ポツポツ聞こえる言葉にコウは静かに言った。
「話があるなら外で聞きます。あまり女性に失礼なことをしないでください」
コウの静かな声に若旦那衆はぷっと吹き出す。
「女性?」
「失礼?」
「ババアとブスに?」
「ええカッコしいが」
彼らの挑発に乗らず、コウは表情も崩さない。
「お店だけでなく饅頭を買いに来る方々にも迷惑です」
わらわらと集まってくる近所の住人や職人たちに、若旦那衆は舌打ちし、コウに向かって顎をしゃくった。
「ついてこい」
そう言って店の外に出ていった彼らを見て、コウはアンズ、シイカ、おばちゃんを振り返った。
静かにお辞儀をした。
「ご迷惑をおかけしてすいません」
コウは店を出ていく前に蹴られた椅子を起こした。
店の外からはコウを急かし、臆病者呼ばわりする若旦那衆の声が聞こえてきた。
「コウさん…」
「あ!ちょっと!あんたたち!」
おばちゃんの声が響いたと思ったら、店の奥に逃がした子どもたちが、アンズの脇を通り抜けてコウのあとを追うように店から走って出ていった。
「アンズ姉ちゃん!あの人助けに行こ!」
そう言われて、無意識にアンズの足も店の外に向かって動いた。
コウは若旦那衆に路地に連れ込まれて、壁に向かって突き飛ばされた。
少しよろけたものの、この人たちはこんなに力がないのか、と同時に思った。
囲まれて、目の前で口々に罵声を浴びても、アンズやシイカ、饅頭屋のおばちゃんに迷惑かけて申し訳なかったとしか思えなかった。
なんで、この人たちと今までつるんでいたのか、つるもうと思っていたのかもわからなかった。
「気に入らねーんだよ!!」
叫び声とも取れる罵声と共に殴られた。
そして、次は蹴られた。踏みつけられた。
周囲に人が集まってきて、バツが悪くなった若旦那衆が逃げていくときに唾を吐かれた。




