【1】国王直属近衛兵団第6部隊
朧気だが、ハッキリと憶えている言葉がある。早速オ…私の言葉に矛盾が生じているのは大変申し訳ないと思うのだが、この物語を始める上では大した問題ではないと私は思う。
話を戻そう。ソレは私がとても幼い頃に誰かから言われた言葉だ。まぁ多分母親だろう。
「リーキン、あなたは間違えないでね」
どういう意味かは理解出来る。だが、何故母が幼い私に対してこの様な言葉を言ったのかは理解出来ない。
それでもこの言葉は私の心の中に深く突き刺さっている。今もだ。
だから私は間違った事をしない、人と違った事はしない、一般常識の中で生きている。
堅物…そう言われる事もあるが、私にとってそれはむしろ褒め言葉だ。
私は間違えない間違った選択をしない間違った生き方をしない、これからも、この先もずっと、この言葉が私の心に有るまでは。
――
と、言う訳で私の名前は[リーキン・ストゥー]。ダークエルフと純人間の間に生まれたハーフエルフであり今年17歳になる若き青年である。そして、今年度からついに私、国王直属近衛兵団に入る事になりました。
平民出身の私が国の下それも国王直属の衛兵になれるなんて自画自賛してもしきれませんよね、しませんけど。
いや本当ここまでの道のりは大変でしたよ。大変の2文字で片付けるには余りにも大変でしたよ。まるでそう……いや、自分の苦労話を他人に語るのはダサいですね、辞めます。
まぁ色々やったんですよ私は。だからその甲斐あって強くなって近衛兵試験の大戦でも優勝出来た。
そして今日は私含め新兵の配属先発表とその配属先の先輩との顔合わせ。
あぁ、私はどこの部隊に入るのだろう。
王様を朝から晩まで寝室からお手洗までつきっきりで身辺を護衛する『第1部隊』。
王宮内を常駐警備し王様の居所の安全安心を確保する『第2部隊』。
それとは逆に王宮外の治安維持と事件事故の解決及び仲介をする『第3部隊』。
色は変わるが行事やパレード、演舞を行う『第4部隊』。
そして最後に、最も危険で最も強者達が集まり主な仕事は戦争だと言われている『第5部隊』。
以上の5部隊、どれも王国にとって大事な隊だ。ぶっちゃけ私はどれでもいい、私ならどの部隊でも間違う事なく完璧に仕事をまっとうに出来る自信がある。
…的な事を…私は初めて謁見および面接をした国王様に言った。そしたら…
「あっそうなの、どの部隊でも良い…ねぇ……じゃあ君『第6部隊』いきで、決定ね」
と言われた。
第6?なんだその部隊?私は知らないぞ。
「…第6部隊?」
「うんそう頑張ってね…じゃ次の子呼んでー」
どうやら私の配属はよくわからない、聞いた事もない様な部隊に決まってしまった様だ。他人事の様に言っているのは私がまだ実感というものが無いからだろう。
……ってマジでなんなん?第6部隊って?
――
「ここか…ここが第6部隊のテーブルだよな…」
私が案内されたのは顔合わせパーティーの為に会場内に用意されたテーブル。円形のテーブルの周りには椅子が六つ用意されていた。だが、座っているのはボサボサの金髪に鋭い三白眼を持った男1人だけだった。
その座っている男には背中から大きく白い翼が生えている。有翼人だ。その有翼人はテーブルに用意された料理をガツガツと口に運んでいた。
私はゆっくりとそのテーブルへと近づいていくと三白眼の有翼人と目が合った。
「何キミィ?」
有翼人はフォークを咥えながら不思議そうな目をして話しかけてきた…が、口の周りには料理の赤いソースがベッタリと付いており、口の中いっぱいに料理を詰め込んでいでリスの様な顔になっている。私はその面を見て思った、凄くアホそうと。
だが、この人は私がこれから働く部隊の先輩。失礼なく、敬意を払って、接しなければならない。
「どうもはじめまして。私本日より第6部隊に配属されました新兵のリーキン・ストゥーと申します。まだ新兵という事もあり、いたらぬ点がありますが何卒よろしくお願いします」
「おおッ!そうなん!マジで!キミが新しく入るって子!?ええやんええやん!俺!俺[ハッジ・ホーキン]っていうねん!マジ超絶技よろしく〜!!うぃ〜」
「あっ……うぃ…うぃー」
「ええやんええやん!あんちゃんノリえーやん!!ちな武器何使うん?俺は弓や」
「私はどっちかというと魔法を使いますね」
「ほーん魔法かー、っことはキミ頭ええんや、ごっつイカしてんなー」
「普通ですよ……それよりハッジ・ホーキンさん。第6部隊ってもしかして貴方1人だけなんですか?」
「ハハッなわけ!ちゃうちゃう!ちゃうで!他のメンツはこういうお利口さんが集まる様なところ嫌いやねん!まぁ俺も大嫌いなんやけど、部隊でいっちゃん若手っつーことで俺が無理矢理行かされてん、ハッハハ!!あぁそれとリーキンちゃん、俺のことは『ハッジ』ファーストネームでかまへんよ」
「は、はい。じゃあハッジさん。私は今日他の第6部隊の皆さんとは会えないのですか?」
「んー……せやなー…タイチョーは今個人任務でおらへんし、フェティーちゃんはあれや…今生理中や。男の面なんか覗かせたら殺してくるしなー」
「ハハハ。そ、そうですか…」
「んまぁー残るアイツは……まぁアイツやったら暇やろ。っちゅーことでキリスコんとこ行くでリーキンちゃん!」
「えっ!?今からですか?勝手にパーティー抜け出しても大丈夫なんですか!?」
「あぁ?たり前や。こんなとこ、おっても得あらへん。脳が腐るだけや。ほなついてき」
「は、はぁ…わかりました」
正直、とても不安である。周りを見ると第1部隊から第5部隊は真面目そうに新兵が先輩達の前で自己紹介とか意気込みとか言っているのに、私はハッジさんのされるがまま流されている。というかハッジさんもとい第6部隊というのは何を軸に仕事をしているのだろうか?わからない事が多すぎる。
「はぁ……もしかして衛兵なること自体、間違いだったのか?」
「あぁん?リーキンちゃん今何か言うた?」
「いえいえ、何も」
私はハッジさんの背中から生えた白い翼の後に続く。私の未来、その先に何があるのかはわからない。だが、何故かハッジさんの背中からは迷いなんて一切無い明るい未来が見えた…様な気がした。
「気のせいだろう」
「リーキンちゃんまたなんか言うた?」
「いえ、何も」
――
私がハッジさんに連れてこられたのはこの国の裏、住人からは『パッキ』と呼ばれる所謂…風俗街だった。道に軒並み並ぶ風俗店の数々、店の前で客引きをするほぼ裸の女性達……エッチである。
「あのハッジさん、なんで風俗街に?」
「俺達第6部隊の1人がここでシバいとんねん。そや!せっかくパッキまで来たんやからテキトーにどっかで一発ヤってこうや!」
「いえいえ私は大丈夫ですよ」
「まっじめやなー…」
「ハッジさん、それよりそのキリスコさんという方は何故こんな所で働いているんですか?」
「あー…パコるん好きなんちゃう?詳しいこと知らん、本人に聞けや。アイツは口も尻も軽いからな」
「成程」
「何が成程やねん……あっいた、ここや」
ハッジさんがそう言い指差したのは店でもなんでもなく薄暗い細道だった。
「ここにいるんですか?」
「おおせや、ほらあそこ、薄暗くてよー見えへんけどあそこでパコられてる奴おるやろ、アイツや」
「あぁ…ヤってますね」
「せやろ」
確かにいた。醜い体型をしたオッサン…に後ろから突かれ楽しそうに笑っている女が。
「おーい!!キリスコー!ちょいきてー!」
「チョッ!はー?ちょっとハッジ!あんた今チョー良い所なんだから邪魔しないでよー!」
ハッジさんが声を大にし女に話しかける。だが女は性交を止める気はなさそうだ。
「新しく第6入った子連れて来てん!挨拶くらいさせてーや!」
「んーあーもー!わかったわよ!…ほらジイさんどいてっ」
女はそうオッサンの丸い腹を踵で蹴り付けると、股から汁を垂らしながら近づいてきた。
「はじめまして、私リーキン・ストゥーと申します。これから第6部隊として頑張っていきます。よろしくお願いします」
「うんよろしくね。アタシ[キリスコ・インディファレント]、好きな物はお金とコック。普段あんま使わないけど武器は大戦斧、第6では主に諜報活動をしてるわ…だいじょぶそ?」
「はい」
「ん〜アンタなんか堅いわねー…もしかして童貞?だったらアタシがアンタのハジメテ貰っちゃおっかなー……」
出会ったばかりのキリスコさんはそう言いながらイヤラしい視線を私の男性器に向けている。
「リーキンちゃん。辞めといた方がええで」
「なんでですか?病気持ちなんですか?」
「失礼ね!」
「まぁある意味病気やけど、持っとるのは病気やなくてチンポや」
「えぇ!!男の人なんですか?」
「何よ、女装してて悪い?アタシ、コックあっても関係なくモテてるんですけどー」
「まぁ面がええからなーキリスコは」
「フフでしょー」
キリスコさんは嬉しそうに笑っている。確かに顔が整っていてスタイルも女性の様に華奢だ、だがやはりちゃんと鍛えているのがわかる。腹筋はちゃんと割れていて上半身に至っては私やハッジさんより力があるだろう。大戦斧を使うってのも納得だ。
「ほなリーキンちゃん。キリスコとも合流したし初仕事やろか」
「第6部隊の仕事……」
「せや、ちょうどここパッキでの案件や」
「何よそれ、アタシ初耳なんですけどー」
「まぁ俺が任されとる案件やからな、キリスコどうせ暇やろ、手伝え」
「いいけどご飯奢ってよねー」
「もちろんやん!そや!リーキンちゃん食べたいもんある?」
「私は『ガチガエル』が好きですね」
「ええやん、俺がイチオシのカエル料理出してくれる店つれたったる。キリスコもそれでかまへんな?」
「かまへんよー」
「じゃ、パパッと仕事終わらせて店行くで!」
「はい!」
「ええ返事やリーキンちゃん、って事で今からパッキ中の店にガサ入れる。で、コイツら見つけたら教えてくれや」
と、ハッジさんは懐から一枚の紙を出した。その紙には魔人族の男と幼い少女、親子らしき人の似顔絵が描いてあった。
「…魔人族?それも北東の地域に多い形の魔人族ですね」
「よう知っとるやんけ」
「それでこの親子を見つけてどうするんですか?」
「あー…とりま拘束やな」
「……何か罪を?」
「そんなとこや。よろしく頼むで」
「はい…」
これが第6部隊の仕事…?言ってる内容だとやってる事は第3部隊の治安維持と変わらないぞ。
別で何かあるのか?
――
と、いう事でパッキで魔人の親子を捜索し始め約1時間が経とうとした頃。
「あっハッジさん、キリスコさん、アレじゃないですか?」
後方からで横顔しか見えないが、前方にハッジさんが持つ似顔絵にそっくりな魔人がいた。それも親子2人、一緒だ。
「んーせやせや……アイツらやな。間違いない」
「あっさり見つかりましたね。私が捕まれましょうか?」
魔人の親子は私達の前を歩いてるのでまだこちらの存在には気づいていない様子、今なら私の魔法で容易く拘束出来る。
「いやいらんわー、おーいキリスコ周りはどうや?」
「人一人っ子誰も見てないわよー…」
「ほな、やってまうなー」
「はーいお好きにどうぞー」
「?何をですか?」
「まぁリーキンちゃんは取り敢えずあの親子見とき、絶対目離すなよ」
「はっ、はい」
私はハッジさんに言われた通り魔人の親子から目を離さず見ている。
それにしても、この魔人の親子は何をやらかしたのだろうか、今もただ2人で仲良く笑い合っているだけだ。
うん……こうして見ていると普通の平和な親子が仲良く散歩しているだけじゃないか。
と、私が次にまばたきをした瞬間、魔人の親子両方の首に矢が刺さっていた。
「…は?」
魔人の親子は同時に道に倒れる。首からは真っ赤な血が噴水の様に溢れていた。
そして、私の横には弓を撃ち終わったハッジさんがいた。
「なッ…………何ッ……何してんだよアンタ!!!」
「うっさいわアホ。誰か来たらどうすんねん」
「はっはぁ!?アンタ何したかわかってんのか!!?」
「わかっとるに決まってんだろ。てかほんまうるさい」
「へぇ?はぁ?……ちょっ本当に意味がわからない。何で平然と人殺して……はぁ?」
ヤバい、上手く言語化が出来ない。それほどに私は混乱している。
「ちょっとハッジ、やっぱ童貞には刺激が強すぎたんじゃないのー。殺すにしても最初から急所って…せめて胴体くらいにしておきなさいよー」
「んなヌルいこと出来るか。それで万が一仲間呼ばれたら俺達が危ないだろ。それにや、これから先第6で当たり前にやってく事や、リーキンちゃんには早よ慣れてもらわんとあかん」
「アンタら第6部隊は…人を殺すのが仕事なのか?」
「あぁ、それが第6や。第1部隊でもない第2でも第3でも第4でも第5でもない、俺達第6は国の為、国民の為、平和の為、俺達は裏で泥を被り静かに人を殺すんや」
「間違っている…間違っている。国の為だとしてもそれはやり過ぎだ、絶対間違っている!」
「……必要な事なんや」
「いいや!間違っている!おかしい!異常だ!」
「ハッ…おいリーキン。ええ加減にせぇよお前。あぁ?何様やお前、神様でもない偉くもないクソガキの分際で俺達否定して上から糞垂れやがってよぉ……ええか、俺達は国王直属近衛兵団第6部隊や、一般人の感性でやっていけるほど甘くないんや。確かに人殺すっちゅう事は人として最低最悪の行為や、けどな、国に忠誠誓った今日この日からお前は国の為に人を辞めなあかんのや。その覚悟が無いならお前はもう近衛兵辞めろ。中途半端な正義振りかざすだけやったら誰でも出来る。そんで、そんな奴は薬にも毒にもならん、ただのかさましのお荷物や」
「………」
「なぁリーキンちゃん、今すぐ決めろ。あの魔人の親子、まだ僅かやけど息が残っとる。まだ何かやらかすかもしれん、とどめ刺してこいや。そんでお前は第6や……嫌なら今日の事ぜぇーんぶ忘れてお家帰れ。まぁリーキンちゃんは賢いから大丈夫やとおもうけど、もし誰かに今日の事ゲロったら…あの魔人はお前や」
「………………ッー」
――
……国王直属近衛兵団に入り、第6部隊に所属された初日。私は今日、初めて人を殺した。それも2人、内1人はまだ年端もいかない少女だった。
結局、私は何も出来ず間違った選択肢を選んでしまったのだ。人生で初めて。
「これで童貞卒業だねー!オメデト」
女装した男からの祝福……反抗する気にすらなれない。今はただ、虚無感と非現実味だけが私を支配していた。
「まぁハジメテはそんなもんやろ、これから慣れてけばええ」
「だねー」
「まだ……私は人を殺すんですか?」
「……ええかリーキンちゃん。確かに俺も初めは辛かった。ゲボも数え切れんほど吐いた。けどな、いつかわかんねん。自分が間違てへん、正しいってな」
「だからって、決して殺していい理由にはならないですよ!」
何故だろう、自分の言葉に重さを感じない。当たり前だった、私はもう人殺しなのだから。既にもう空っぽなのだから。
「リーキンちゃん、ええ事教えたる。そこにころがっとる魔人は強盗、殺人、違法薬物の売買、それと魔物の違法飼育もやったな……今言った事は全部そいつが国外逃亡してくる前の国でやった事や」
「ッ!……百歩譲って父親の方はわかりましたけど!子供まで殺す必要はなかった!」
「リーキンちゃん、お前知り合いもおらん知らん土地で唯一頼れる親もいなくなったら1人で生きてけるんか?」
「……そりゃ」
「そりゃお前は生きてけるよなぁ、大人やもん。でもあの魔人はまだ右も左も解らんガキや。国外逃亡して、親殺されて1人ボッチなったら……もう言わんでもわかるやろ。どのみち一緒なんや。やから俺は一緒に殺した」
「……だからって…」
「はぁっ!もうええ!これから先は自分で考えろ…さっさと死体片付けて飯行くぞ」
「やったー!ハッジの奢りだー!」
その後、ハッジさんとキリスコさんは手慣れた様子で魔人達の死体を布袋に詰め込んだ。だが、
「ハッジさん……あの、血…垂れてますけど…」
死体を入れた袋から血が滲み出て、地面の土へと染み込んでいた。
「おう、垂れとるなー」
「人に見つかったら死体ってバレますよ」
「大丈夫や。この街じゃあ死体なんてそんな珍しいもんやない。それに俺らは近衛兵や、やましい事なんて何もない。ただ、何故か街に転がってた死体を片付けてるだけや」
「……建前」
「そうや建前や。肝心なのは俺達がヤった所を見られていないかどうかや、正義の兵隊さんが民間人殺してるの見られたらたまったもんちゃっからな」
「……その死体、どうするんですか?」
「あー……まぁどうだってええやろ。それよりリーキンちゃん、言ってなかったな」
「へ?」
「ようこそ国王直属近衛兵団第6部隊へ、お前はもう超絶技立派な第6隊員や。明日っからもホンマ頼むで」
「あっ………えぇ………はい…」
「……元気ナッ!まぁええわほな飯食い行くぞ!」
ハッジさんは歩き出す、迷いのない足取りで。
私は再びその跡を追う、それが間違っている道だとわかっていながらも。
幼い頃母に言われたあの言葉、私はもう思い出せない。私は成長したのだろうか、親から解き放たれ、巣立ち、大人なったのだろうか…いや、どっちにしろ私は私ではなくなったのだ。堅物でも何でもない間違いだらけの人間になった。ある意味人間っぽいと言われればそうだろう。
だが、今の私はただの人間ではない。国王直属近衛兵団第6部隊のリーキン・ストゥーなのだ。
これからも、この先も、私は間違い続けるだろう。




